時間の錯覚と虚偽記憶

6章

時空の歪み

第6章：時空の歪み

カフェでの出来事から数日が経過した。葉羽と彩由美は、より慎重に行動するようになっていた。しかし、町全体が少しずつ奇妙な雰囲気に包まれ始めていることを、二人は感じ取っていた。

その日の朝、葉羽が学校に向かう途中、突然の違和感に襲われた。周囲の景色が一瞬だけ歪み、そして元に戻った。誰も気づいていないようだったが、葉羽にはハッキリと分かった。

教室に入ると、彩由美が心配そうな顔で近づいてきた。

「葉羽くん、今朝、変なことなかった？」

葉羽は eyebrow を上げた。「お前も感じたのか？」

彩由美はうなずいた。「うん、まるで世界が揺れたみたいで...」

二人は周りを確認し、小声で話を続けた。

「これは間違いなく、研究所の実験と関係している」葉羽は真剣な表情で言った。

「でも、どうして私たちにだけ分かるの？」彩由美は不安そうに尋ねた。

葉羽は少し考え込んだ。「あの青い光を浴びたからかもしれない。僕たちの知覚が、何らかの形で変化したんだ」

授業が始まったが、葉羽の頭の中は推理で一杯だった。そして、昼休みになるとすぐに、彼は彩由美を誘って屋上に向かった。

「ねえ、葉羽くん。私たち、このままじゃまずいんじゃない？」彩由美は心配そうに言った。

葉羽は深く息を吐いた。「ああ、でも証拠がない。佐倉や研究所に直接聞いても、絶対に教えてくれないだろう」

その時、突然の風が二人を包み込んだ。そして、目の前の景色が歪み始めた。

「な、何これ！？」彩由美が叫んだ。

葉羽は彩由美の手を掴んだ。「落ち着け！これも実験の影響だ！」

歪みは激しくなり、二人の周りの空間が渦を巻き始めた。そして次の瞬間、二人は見知らぬ場所に立っていた。

「ここは...」葉羽が周りを見回した。

そこは、どこか懐かしい雰囲気の町並みだった。しかし、明らかに現在の彼らの町ではない。

「まさか...」彩由美が震える声で言った。「私たち、過去にいるの？」

葉羽は冷静を装いながらも、動揺を隠せなかった。「そうみたいだ。でも、いつの時代かは...」

彼の言葉が途切れたとき、近くの新聞スタンドが目に入った。そこに並ぶ新聞の日付を見て、二人は息を呑んだ。

それは、彼らが生まれる10年以上前の日付だった。

「こ、これって...」彩由美の声が震えていた。

葉羽は彩由美の肩をしっかりと掴んだ。「落ち着け。必ず戻る方法があるはずだ」

しかし、その言葉とは裏腹に、葉羽の頭の中は混乱していた。時間旅行。それは彼が想像もしていなかった事態だった。

そのとき、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「やあ、よく来たね」

振り向くと、そこには佐倉量子が立っていた。しかし、その姿は明らかに年齢を重ねていた。

「君たちを待っていたよ」大人になった佐倉が言った。「さあ、時空の真実を知る準備はできているかい？」

葉羽と彩由美は言葉を失った。目の前に広がる過去の町並み、年老いた佐倉の姿。全てが非現実的で、しかし確かに存在していた。

時空の歪みは、彼らの想像を遥かに超える謎へと導いていった。そして、その謎を解く鍵は、まさに彼ら自身の中にあったのだ。