時間の錯覚と虚偽記憶

8章

量子重ね合わせ装置の発見

第8章：量子重ね合わせ装置の発見

放課後、葉羽と彩由美は緊張した面持ちで図書室に向かった。未来からの警告とデバイスの謎が頭の中を駆け巡る中、二人は静かに扉を開けた。

図書室の奥、普段は人気のない一角に佐倉量子が座っていた。彼は二人を見ると、静かに頷いた。

「来てくれてありがとう」佐倉の声は低く、周囲に聞こえないよう配慮しているようだった。

葉羽は警戒しながらも、冷静に尋ねた。「何の用だ？」

佐倉は深く息を吐いた。「君たちに全てを話す時が来たようだ」

彼はバッグから一枚の設計図を取り出した。そこには複雑な装置の図面が描かれていた。

「これは...」彩由美が息を呑んだ。

「量子重ね合わせ装置だ」佐倉は静かに言った。「時間と空間を自在に操る、究極の装置さ」

葉羽は眉をひそめた。「それで、何が起こるんだ？」

「理論上は、過去と未来の自分を同じ時空間に存在させることができる」佐倉の目が輝いた。「しかし...」

「危険すぎる」葉羽が言葉を継いだ。「時空の歪みを引き起こす原因になる」

佐倉は驚いた表情を見せた。「どうして知っている？」

彩由美と葉羽は顔を見合わせた。未来の佐倉から聞いた話を全て打ち明けるべきか、一瞬迷った。

「私たち...未来を見てきたの」彩由美が慎重に言葉を選んだ。

佐倉の表情が変わった。「まさか...父の実験が」

葉羽は前のめりになった。「君の父親が関わっているのか？」

佐倉は深くため息をついた。「そうだ。父は天才的な物理学者だが、倫理的な判断を誤ることがある。この装置も、父の構想なんだ」

「でも、なぜ僕たちに話す？」葉羽は鋭く質問した。

「君たちには特別な力がある」佐倉は真剣な眼差しで二人を見た。「時空の歪みを感知し、影響を受けにくい。その力で、父の暴走を止めてほしいんだ」

彩由美は驚いた。「私たちに、そんな力が？」

「青い光を浴びたときから、君たちは変わった」佐倉は説明した。「父も気づいていて、君たちを警戒している」

葉羽は思い出した。あの日、研究所の裏で見た青い光球体のことを。

「じゃあ、あの球体は...」

「そう、量子重ね合わせ装置の試作品だ」佐倉は頷いた。「でも、本物はもっと強力で...危険だ」

突然、図書室の外から物音が聞こえた。三人は息を潜めた。

「もう時間がない」佐倉は慌てて図面を葉羽に渡した。「これを使って、装置を止めてくれ。でも気をつけろ。時空を操る力は、使う者をも狂わせる」

葉羽は図面を受け取ると、彩由美の手を取った。「分かった。僕たちに任せろ」

二人が立ち去ろうとしたとき、佐倉が最後に言った。「そうだ、デバイスの暗号。解読の鍵は『シュレディンガーの猫』にある」

葉羽と彩由美は頷き、急いで図書室を後にした。

廊下に出ると、二人は深く息を吐いた。

「葉羽くん、これから私たち...」彩由美の声が震えていた。

葉羽は彩由美の手をきつく握った。「大丈夫だ。一緒なら、きっと乗り越えられる」

二人は決意を新たにし、夕暮れの校舎を後にした。量子重ね合わせ装置の設計図と、未来からのデバイス。二つの鍵を手に、彼らの戦いが今、始まろうとしていた。

空には不気味な雲が広がり、遠くで雷鳴が響いた。まるで、世界の危機を予感させるかのように。