視界迷宮の村 絶望の連鎖と歪む残像

葉羽

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11章

暗示のメカニズム

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白樫銀次の家を訪ねた葉羽と灯矢は、そこで予想外の光景を目にした。銀次は、自宅の居間で、椅子に座ったまま息絶えていたのだ。彼の顔は青ざめ、両目は大きく見開かれていた。死後硬直が始まっており、死後数時間は経過しているようだった。

「白樫さん…!」灯矢は、銀次の遺体を見て、悲痛な叫び声を上げた。彼は、銀次が犯人の共犯者であったとはいえ、彼の死を悼まずにはいられなかった。

葉羽は、冷静さを保ちながら、銀次の遺体と周囲の状況を丹念に観察した。部屋には、争った形跡はなく、自殺の可能性が高かった。しかし、葉羽は、銀次の自殺が、本当に自発的なものだったのか、疑問を抱いていた。

彼は、銀次の手元に置かれた一枚の紙切れに気づいた。紙切れには、震えるような筆跡で、「許してください…影に…操られて…」と書かれていた。

「影に…操られて…?」葉羽は、紙切れに書かれた言葉をつぶやいた。彼は、この言葉が、白髯村に伝わる迷信と関係があるのではないかと直感した。

葉羽は、7章で見つけた手紙のことを思い出した。「影は語る…鏡は映す…目は欺く…」これらの言葉は、白髯村に伝わる三つの迷信、「影の語り部」「鏡の預言者」「目の魔術師」を暗示していた。そして、銀次が最後に残した言葉、「影に…操られて…」もまた、影の語り部と関連しているように思えた.

葉羽は、三つの迷信について、改めて考察を始めた. 彼は、これらの迷信が、単なる言い伝えではなく、何らかの科学的根拠に基づいているのではないかと考えていた。そして、彼は、視覚誘導装置の存在が、その可能性を裏付けていると確信していた.

「影の語り部…この迷信は、特定の条件下で、影が語りかけてくるという内容だった. しかし、それは本当に影が語りかけてくるのではなく、視覚誘導装置によって作り出された幻聴ではないだろうか?」

葉羽は、自分の仮説を灯矢に説明した。「犯人は、視覚誘導装置を使って、特定の音声や映像を影に投影することで、あたかも影が語りかけてくるかのような錯覚を作り出していたのではないか?」

灯矢は、葉羽の推理に驚きながらも、納得した。「確かに…そう考えると、辻褄が合いますね. しかし、視覚誘導装置だけで、どうやって幻聴を作り出すことができるのでしょうか?」

「それは、おそらく、超音波を使った技術だろう。」葉羽は、自信を持って答えた。「超音波は、人間の耳には聞こえない周波数の音波だ. 犯人は、視覚誘導装置を使って、超音波を特定の方向に照射することで、ターゲットの脳内に直接音を伝えることができる. これは、指向性スピーカーと同じ原理だ。」

彼は、指向性スピーカーの仕組みを詳しく説明した。指向性スピーカーは、超音波を使って、特定の方向にだけ音を届けることができる特殊なスピーカーだ. これは、美術館や博物館などで、特定の展示物にだけ音声を流すために使われることが多い.

「犯人は、指向性スピーカーと同じ原理を使って、白樫銀次に幻聴を聞かせた。そして、銀次は、その幻聴を、影が語りかけてくるものだと信じ込んだのだ。」

葉羽は、銀次が自殺する直前に見た「影」が、視覚誘導装置によって作り出された幻影であったことを確信していた。そして、銀次は、その幻影に操られるかのように、自ら命を絶ったのだ。

「しかし、なぜ、犯人は、銀次を自殺に追い込んだのでしょうか?」灯矢は、疑問を口にした。「銀次は、犯人の共犯者だったはずです. なぜ、犯人は、自分の共犯者を殺害する必要があるのでしょうか?」

葉羽は、しばらく考え込んだ後、口を開いた。「恐らく、銀次は、犯人の正体を知ってしまったのでしょう. そして、犯人は、銀次が自分の正体を警察に明かすことを恐れて、彼を自殺に追い込んだ。」

葉羽は、銀次が最後に残した言葉、「許してください…」に注目した。この言葉は、銀次が深い罪悪感に苛まれていたことを示唆している. 彼は、犯人の共犯者として、蒼也殺害事件に関与したことを後悔し、その罪を償うために、自ら命を絶ったのだ。

「銀次は、良心的な人物だった。」葉羽は、静かに言った。「彼は、犯人の共犯者になることを強要され、苦悩していた. そして、最後に、自分の罪を償うために、自ら命を絶ったのだ。」

葉羽は、次に「鏡の預言者」と「目の魔術師」の迷信についても考察を始めた。「鏡の預言者」は、曇った鏡に息を吹きかけると、未来が映し出されるという迷信だった。しかし、葉羽は、これは視覚誘導装置を使ったトリックではないかと考えていた。

「犯人は、特殊な鏡を使って、未来の映像を投影していたのではないか?鏡の表面に、特殊なコーティングが施されていて、そこにプロジェクターで映像を投影していた可能性がある。」

葉羽は、蔵で見つけた小さな鏡のことを思い出した. 鏡の表面は曇っていたが、拭くと透明になった. そして、鏡に映る自分の顔が歪んで見えた.

「あの鏡は、視覚誘導装置の一部だった. 犯人は、あの鏡を使って、私たちの視覚を操ろうとしたのだ。」

最後に、葉羽は「目の魔術師」の迷信について考えた。「目の魔術師」は、特定の場所で見つめ合うと、相手の心が読めるという迷信だった。葉羽は、これは幻覚剤を使ったトリックではないかと疑っていた.

彼は、第三の殺人事件、流水紅葉の死を思い出した。紅葉は、幻覚に襲われた村人たちに殺害されたとされていた。

「紅葉さんの死は、単なる事故ではなかった。犯人は、井戸に幻覚剤を混入し、村人たちに幻覚を見せることで、集団パニックを引き起こしたのだ。そして、紅葉さんは、その混乱の中で殺害された。」

葉羽は、村の共同井戸の水質検査を依頼した. 結果は、彼の予想通りだった。井戸水からは、微量の幻覚剤が検出されたのだ.

「犯人は、井戸に幻覚剤を混入することで、村人たちを操っていた。そして、彼は、その混乱を利用して、紅葉さんを殺害したのだ。」

葉羽は、三つの迷信が、全て犯人によって巧妙に利用されていたことを確信していた. 犯人は、視覚誘導装置、時間操作レンズ、そして幻覚剤を駆使して、完全犯罪を企てたのだ。そして、彼は、白髯村に伝わる迷信を利用することで、自らの犯行を隠蔽し、村人たちを操っていた。葉羽は、暗示のメカニズムを解明することで、事件の真相にまた一歩近づいた.

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