視界迷宮の村 絶望の連鎖と歪む残像

14章

犯人像の浮上

葉羽は、洞窟の中で発見した手紙によって、事件の全体像が明らかになりつつあることを感じていた。日光寺晴玄、白髯村の村長。彼は、数十年前の集団失明事件の黒幕であり、今回の連続殺人事件の首謀者でもあった。彼の歪んだ復讐心は、時を超え、再び白髯村に暗い影を落としていた。

葉羽は、灯矢と共に白銀館に戻り、これまでの調査で得た情報を整理した。ホワイトボードには、事件の関係者、発生場所、時間軸、そして、白髯村に伝わる三つの迷信などが複雑に絡み合い、巨大な蜘蛛の巣のような図が描かれていた.

「日光寺晴玄…彼こそが、全ての黒幕だったんですね…」灯矢は、晴玄の犯行を信じられないといった様子で呟いた. 彼は、村長として村人たちから信頼されていた晴玄が、このような凶悪な事件を起こすとは想像もしていなかった.

「ああ。彼は、非常に狡猾で、周到な人物だ。数十年にわたって、復讐計画を練り上げ、緻密なトリックを駆使して、罪を隠蔽してきた。」葉羽は、真剣な表情で言った. 彼は、晴玄の知能の高さと冷酷さに、改めて恐怖を感じていた.

葉羽は、ホワイトボードに書かれた情報を指さしながら、推理を展開した。「晴玄は、集団失明事件の被害者遺族を装い、村人たちの同情を買っていた. そして、彼は、その立場を利用して、村の情報を集め、復讐の機会を伺っていたのだ。」

「しかし、なぜ、彼は、今になって復讐を実行に移したのでしょうか？」灯矢は、疑問を口にした。「集団失明事件から数十年も経っているのに…」

「それは、おそらく、樹海蒼也の死が関係している。」葉羽は、洞窟で見つけた蒼也の手紙のことを思い出した。「蒼也は、集団失明事件の真相を知っていた。そして、彼は、その真実を晴玄と共に隠蔽していた。しかし、蒼也は、最近になって、自らの罪を告白しようとしていた. 晴玄は、それを阻止するために、蒼也を殺害したのだ。」

葉羽は、蒼也の死が、晴玄の復讐計画の引き金になったと推測していた。蒼也の死によって、集団失明事件の真相が明るみに出る可能性が高まった. 晴玄は、それを阻止するために、連続殺人事件を起こし、村全体を混乱に陥れることで、自らの罪を隠蔽しようと考えたのだ。

「そして、晴玄は、白樫銀次を利用して、錬司刑事を罠にかけた。」葉羽は、時間差トリックの解明について説明した。「晴玄は、銀次に偏光サングラスを渡し、偽の錬司の姿を目撃させた。そして、銀次は、偽の証言をすることで、晴玄のアリバイ工作に協力した。」

「しかし、なぜ、銀次は、晴玄に協力したのでしょうか？」灯矢は、再び疑問を口にした。

「それは、おそらく、晴玄が銀次を脅迫していたからだろう。」葉羽は、銀次が最後に残した言葉、「影に…操られて…」の意味を解釈した。「銀次は、何らかの弱みを握られており、晴玄に逆らうことができなかったのだ。」

葉羽は、ホワイトボードに、晴玄を中心とした事件の関係図を描いた。晴玄は、蜘蛛の巣の中心に位置し、他の登場人物たちは、全て彼の糸に絡め取られていた.

「晴玄は、非常に巧妙な手口で、私たちを欺いてきた。」葉羽は、真剣な表情で言った。「しかし、私たちは、もう騙されない. 私は、必ず晴玄を捕まえ、事件の真相を全て明らかにする。」

葉羽は、灯矢と共に、晴玄の捜索を開始した。彼らは、村役場、晴玄の自宅、そして、彼が頻繁に訪れていた場所などを徹底的に調べ上げた. しかし、晴玄はどこにも見当たらなかった.

「くそっ…どこにいるんだ…！」灯矢は、苛立ちを隠せない様子で言った。

「落ち着け、灯火刑事。」葉羽は、冷静に言った。「晴玄は、必ずこの村のどこかに隠れている。私たちは、諦めずに探し続ける必要がある。」

葉羽は、晴玄の心理を読み解こうとした。彼は、復讐心に燃える晴玄が、一体どこに隠れているのかを想像してみた. そして、彼は、ある場所に思い至った。

「影の祠…！」葉羽は、叫ぶように言った。「晴玄は、影の祠に隠れているはずだ！」

彼は、集団失明事件が影の祠で発生したことを思い出した. そして、彼は、晴玄が、影の祠に特別な思い入れを持っているのではないかと推測した。

葉羽と灯矢は、すぐに影の祠へと向かった。祠の周囲は、静まり返っていた. 葉羽は、祠の入り口に立ち、深呼吸をした。

「日光寺晴玄！出てこい！」葉羽は、大声で叫んだ。

しかし、返事はなかった。葉羽は、灯矢と共に、祠の中へと入って行った. 祠の中は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っていた。

葉羽は、祠の奥へと進み、壁に刻まれた奇妙な模様に目を凝らした。模様は、以前と同じように、三つの迷信を象徴するシンボルで構成されていた.

その時、葉羽は、模様の一部が少しだけ変化していることに気づいた. 彼は、懐中電灯を近づけ、変化した部分を確認した。

そこには、小さな矢印が刻まれていた。矢印は、祠の奥にある隠し扉を示していた.

「これは…！」葉羽は、興奮した様子で言った。「隠し扉だ！」

彼は、隠し扉を開けようとしたが、扉は固く閉ざされていた。葉羽は、持っていたナイフを使って扉の隙間をこじ開けようとした。

その時、扉の向こう側から、声が聞こえてきた.

「待て！」

それは、日光寺晴玄の声だった。