仮題「難解な推理小説」

葉羽

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8章

彩由美の不安

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第8章: 彩由美の不安

リビングに緊張した空気が漂う中、葉羽は再び鳴海のポケットから取り出したメモに視線を落とした。そこには簡素な文字列が並んでいたが、どうやらただの文字ではなく、何らかの暗号のように見える。

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**「S25: C13. A1」**

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「これが何を意味するのか……」

葉羽はメモをじっと見つめたまま考えを巡らせていた。何かの座標か、暗号か、それともコードなのか。何らかの鍵であることは間違いないが、今のところ具体的な意味はわからない。

「何か手掛かりはないのか……?」

その時、後ろで小さな声が響いた。

「葉羽……」

彩由美だった。彼女は部屋の片隅で、小さく震えている。葉羽はその様子に気付き、彼女に近づいた。

「彩由美、大丈夫か? 怖い思いをさせたな」

「……うん、でも……あの、葉羽、少し話せるかな?」

彩由美の表情は不安でいっぱいだった。今までの彼女は、事件が起きる前と変わらず、どこか天然で柔らかい雰囲気を保っていた。しかし、鳴海の死と目撃した影のせいで、彼女の中にも恐怖が押し寄せているのは明らかだった。

「いいよ、外で少し話そうか」

葉羽は静かにうなずき、彩由美をリビングの外へと連れ出した。廊下に出ると、外の静けさが二人を包み込む。

---

「それで、話って?」

葉羽が問いかけると、彩由美は少し間を置いてから口を開いた。

「実は、あの鳴海さんのことなんだけど……」

「鳴海さんがどうしたんだ?」

彩由美は少し躊躇したが、意を決したように話し始めた。

「私、前に一度、鳴海さんと会ったことがあるの……」

「え? 鳴海さんと?」

葉羽は少し驚きながらも、彩由美の話に耳を傾けた。彼女が鳴海と接点があったという事実は、これまで一度も出てきていなかったからだ。

「うん。何ヶ月か前のことなんだけど、街で偶然鳴海さんに話しかけられて、それで少し話をしたの。最初は怖い人かと思ったけど、すごく優しい人だったの」

「それで、何かあったのか?」

「その時、鳴海さんが……私に『何か大事なものを預かってほしい』って言ってきたの」

「大事なもの……?」

葉羽は驚きとともに、再び彩由美の目を見つめた。

「うん……でも、何なのかは教えてもらえなかった。ただ、『今は危険だから、しばらくの間持っていてほしい』って言われて……。その後、特に連絡もなかったから、ずっと忘れてたんだけど……鳴海さんが今日、こんなふうに殺されてしまって……」

彩由美の声がかすかに震える。彼女自身も、その「預かり物」が事件に関わっているかどうかを確信していないようだったが、葉羽にとっては非常に重要な情報だった。

「その預かり物、今も持ってるのか?」

葉羽は慎重に問いかけた。もしその「預かり物」が今回の事件のカギになるのだとしたら、犯人がそれを狙っていた可能性も考えられる。

「うん、持ってる……でも、何だか怖くて開けられなかったの」

彩由美はバッグから小さな封筒を取り出した。それは非常に古めかしいもので、封がされていた。葉羽は慎重にそれを受け取り、封を開けて中身を確認した。

封筒の中には、小さな鍵が一つ入っていた。それは特に目立つものではなく、見たところただの古い鍵に過ぎない。しかし、その鍵にはどこか重要な意味が隠されているように思えた。

「……これは一体?」

葉羽は鍵を手に取り、しばらく眺めていたが、すぐにはその用途が分からなかった。しかし、これが鳴海の言う「大事なもの」ならば、事件のカギを握っている可能性が高い。

「彩由美、これを鳴海さんから預かったのはいつだった?」

「確か……三ヶ月くらい前かな。その時、鳴海さんはすごく真剣な顔をしていて、『絶対に他の人には見せないで』って言われたの」

「……ありがとう、彩由美。これが事件の手掛かりになるかもしれない」

葉羽はそう言って、彩由美の手を優しく握った。彼女は少し怯えていたが、葉羽の存在が彼女を少しでも安心させたようだった。

「でも、葉羽……」

彩由美は不安げな表情を浮かべたまま、声を潜めて言った。

「もし、この鍵が事件に関係しているなら……私、狙われるかもしれない」

「……心配しなくていい。僕が君を守るよ」

葉羽は決意を込めてそう言い切った。今は何よりも彩由美の安全が最優先だ。犯人がこの鍵を狙っているなら、彩由美自身が危険な立場にあることは明白だった。

---

リビングに戻ると、葉羽は再びメモと鍵を見つめた。何かが足りない──この二つを繋ぐピースが見えていない。しかし、それも時間の問題だ。葉羽の中で、少しずつ事件の全貌が明らかになりつつあった。

「まずはこの鍵が何を開けるものなのかを探らなければならない」

そう思った葉羽は、再び推理の糸を手繰り寄せ始めた。

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