仮題「難解な推理小説」

葉羽

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7章

第一の容疑者

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第7章: 第一の容疑者

「彩由美が見た『影』が本物だとしたら……」

リビングに戻った葉羽は、改めて思考を巡らせていた。時計のズレと謎の影、そして鳴海の死。これらの要素は、まだ葉羽の中で完全には繋がっていなかったが、少しずつ事件の全貌が浮かび上がりつつあった。だが、それ以上に、今ここにいる誰かが犯人である可能性は日に日に強まっていた。

「まずは冷静に、全員のアリバイを確認する必要がある」

葉羽は立ち上がり、全員に向けて口を開いた。

「皆、まず落ち着いてほしい。今から、全員の行動を確認する。僕たちは同じ屋敷にいて、鳴海さんが殺された。その時、誰がどこで何をしていたのか、できる限り正確に話してほしい」

参加者たちは緊張の色を隠せなかったが、葉羽の冷静な態度に促され、徐々に口を開き始めた。

---

まず最初に、実業家の**赤城玲司**が口を開いた。

「俺は、鳴海さんが倒れた瞬間、すぐ隣の椅子に座っていた。あの時はシャンパンを飲んでいて、鳴海さんが突然倒れたのに驚いて立ち上がった。それだけだ」

「赤城さん、シャンパンを飲んだ後、何か変わったことは感じなかったか? 例えば、飲んだ瞬間に鳴海さんの動きが変だと思ったとか」

葉羽の問いかけに、赤城は少し考え込んでから首を振った。

「いや、特に何も感じなかった。ただ、倒れた時の彼の表情が……まるで驚いたような顔をしていたのが印象的だったな」

「なるほど……」

次に葉羽は、投資家の**芦原美鈴**に目を向けた。彼女は冷静な態度を崩さず、まるでこの状況さえ楽しんでいるかのように話し始めた。

「私も赤城さんと同じように、ただその場にいたわ。シャンパンを飲んで、少し周囲の様子を見ていただけ」

「何か気になることはあった?」

「そうね……一つ挙げるとすれば、鳴海さんがグラスを落としそうにしていたことかしら。手元が少し不安定に見えたわ」

「……それは倒れる直前?」

「ええ、そう。グラスをしっかり持てていないように見えた」

芦原の証言に、葉羽は眉をひそめた。鳴海が倒れる直前に手元が乱れたことは、何らかのヒントになるかもしれない。

---

次に、若い美術鑑定士の**藤田茉莉**が話を始めた。彼女は他の参加者たちとは違い、明らかに怯えた様子で声を絞り出すように話した。

「私……実は、ずっと鳴海さんのことを見ていたんです。彼がシャンパンを飲んで、何かを考え込んでいるように見えました。まるで……その瞬間、何かに気づいたみたいに」

「何かに気づいた?」

「はい、でも、すぐに倒れてしまったので……本当のところは分かりません。ただ、その時の表情は、何か恐怖を感じているようにも見えました」

「恐怖……?」

葉羽はその証言に引っかかりを覚えた。鳴海が最後に恐怖を感じていたとすれば、犯人がその瞬間近くにいた可能性が高い。そして、何らかの手段で彼に致命的な一撃を与えたのだろう。

---

フリージャーナリストの**渡辺聡**は、腕を組んで少し考え込むようにしてから話し始めた。

「俺は、鳴海が倒れる直前に少し気になることがあった。彼が自分のポケットに何かを触れているように見えたんだ。まるで……何かを確認しているように」

「ポケット?」

「そうだ。その後、倒れてしまったから詳しくは分からないけど、確かにその動きがあった」

「ポケットの中に何かがあったのか……」

葉羽はその情報も心に留めた。鳴海が倒れる前にポケットを確認していたとすれば、そこに何らかの重要な手がかりが隠されている可能性がある。

---

最後に、伊達卓巳が話し始めた。彼は他の参加者よりも年齢が近いこともあってか、やや気弱そうに見えたが、葉羽の目をしっかりと見て話し始めた。

「俺は、鳴海さんが倒れる前に……何か違和感を感じていた。まるで、部屋全体に重い空気が漂っているような感じがして……それで少し気分が悪くなったんだ」

「気分が悪くなった?」

「ああ。もしかしたら、ただの体調不良かもしれないけど、確かにあの瞬間、何かが変だった。まるで……何かが近づいてくるような」

「……ありがとう、伊達君」

葉羽はその証言を聞きながら、頭の中で全員の動きを整理していった。

---

全員の証言を聞き終えた葉羽は、再び自分の席に戻り、深く考え込んだ。各証言は微妙に異なっていたが、いくつかの共通点が浮かび上がってきた。

「全員が鳴海さんの異変に気付いていた……ただし、誰もその直接的な原因を目撃していない」

彼の推理は、次第に犯人像へと迫っていく。しかし、ここで重要なのは、鳴海が倒れる前に何らかの恐怖や不安を感じていたという点だ。彼は何かを知っていた、あるいは何かに気付いていた。そして、それが原因で命を奪われた可能性が高い。

「ポケットの中……」

葉羽はふと、鳴海のポケットに手を伸ばした。そこには、小さな封筒が入っていた。封筒を開けると、そこには紙片が一枚だけ入っていた。

「これは……?」

その紙には、奇妙な文字が書かれていた。それは何かの暗号のように見えたが、具体的な意味はすぐには解読できなかった。

「この暗号が、事件のカギか……?」

葉羽はさらに深い思考に入った。鳴海が手にしていたこのメモが、彼の死に直結する何かを示しているとすれば、これを解読することが事件解決の糸口となるかもしれない。

だが、その時──

「待ってくれ! 俺がやったんじゃない!」

突然、伊達卓巳が声を上げた。葉羽が彼を疑っていることを感じ取ったのだろうか。全員の視線が一斉に伊達に向けられた。

「……誰も君を犯人だなんて言ってないよ」

葉羽は冷静に答えたが、伊達の動揺は明らかだった。彼の表情は青ざめ、手が小刻みに震えていた。

「でも……俺は、本当に知らないんだ。ただ、あの場にいただけなんだ!」

伊達は半ばパニックになりかけていた。葉羽は彼を落ち着かせようとしながらも、内心では警戒心を強めていた。

「君が何か隠しているなら、話してくれ」

「隠してなんかない! 本当に、何も知らないんだ!」

葉羽はしばらく伊達の目を見つめていたが、やがて視線を外し、再び全員を見渡した。

「分かった

。だが、誰かがこの中で嘘をついていることは確かだ。そしてその嘘が、鳴海さんの死と繋がっている」

葉羽は冷静にそう言い放ったが、心の中では新たな推理が動き出していた。伊達の動揺、鳴海のメモ、そして謎の影。これらが繋がった時、事件の真相が明らかになるはずだ。

「まずはこのメモの意味を解明することが先決だ」

葉羽はそう考え、次の一手を練り始めた。このメモが解読されれば、犯人が誰であるかが見えてくるかもしれない。

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