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第二章
12 鉄道橋上の短い逃走劇
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「は?」
突然のことに、俺は思わず聞き返した。
「人を探している。顔を見せろ」
『断れ』
「断る」
ツァルに言われなくても、こんな失礼な奴の言いなりになるつもりはない。
先頭の男が、後ろに立つ仲間に目で合図を送った。
強硬手段に出るつもりか?
俺は身構えた。
トルダの姿が目に入る。
ここで暴れると他の乗客まで巻き込んでしまう。
軍服の男は全部で五人。
車輌の出入り口を塞ぐようにひとりずつと、俺の前に三人。
車輌は今にも止まりそうだ。
ここがまだ橋の上なのは間違いない。
後方の男が前に出て、素早い動きでこちらに腕を伸ばす。
払おうとしたその手を強い力で掴まれる。
振り解こうとしたけれど、容易には動かない。
俺は舌打ちをした。
男の空いているほうの手が、今度こそ俺の襟巻きにかかる。
俺は男の鳩尾を思い切り蹴飛ばした。
後ろに立っている男がそれを抱きとめる形になる。
襟巻きがほどけて、宙に舞う。
それが視界を隠す。
その隙に、俺は窓枠に足をかけて車輌の上に跳び移った。
水面までの距離にぞっとしながら、現状を確認する。
高所恐怖症だったら、きっと腰が抜けているに違いない。
先頭車両から陸まではまだ距離がある。
少し先を、機関車だけが遠ざかってゆくのが見える。
誰かが機関車の連結をはずしたんだ。
おそらくさっきの軍服の連中だろう。
強い風が吹いた。
体勢を崩した拍子に落ちそうになってひやりとする。
前後の陸までの距離を見比べると、弱冠先頭車両のほうが陸に近いように見える。
俺は車輌の上を前方に向かって走り出した。
何輌分か進んだところで振り返ると、車輌の上を俺と同じ様に走ってくる男の姿が見えた。
まずい。
連結部分を跳び越えるとき、股の下に軍服の男の姿があって、胆が冷えた。
やばい。
油断していたら挟み撃ちにされる。
走る速度を上げる。
車輌の屋根の上は、意外と走りにくい。
吹きつける強風も曲者だ。
「あいつら、何者なんだ?」
『さあな。ま、厄介が嫌なら逃げ切ることだ』
「わかってる」
ツァルはたぶんあいつらの正体を知っている。
いったい何者なんだ?
考え事をしていたせいか、前の車輌に飛び移るときに足を踏み外した。
慌てて車輌の屋根にへばりつき、落下は免れる。
足を引き上げようとしたら、強い力で足首を掴まれた。
見ると車輌の中を走ってきた男がしっかりと俺の足を握っている。
もう片方の足で男の顔を思い切り蹴飛ばそうとしたとき、車輌の上を走ってきた男に追いつかれた。
俺の顔を凝視している。
『馬鹿! 顔を隠せ』
もう遅い。
屋根にしがみついたまま、首だけを捻っている格好で、男の目を見返す。
「大人しく下りてこい」
ぐいと足を引っ張られる。
俺はため息を吐いた。
「わかったよ。だから引っ張るな」
ここまでか。
今は諦めたほうがよさそうだ。
機会を見計らったほうがいい。
チッとツァルが舌打ちするのが聞こえた。
「仕方がないだろ」
『ああ、そうかもな』
ツァルの投げやりな態度に腹が立ったけれど、今は喧嘩をしている場合じゃない。
ぶつぶつと独り言を言っている俺を気味悪そうに男が見る。
俺の足を引っ張った男を先頭に連結部から前の車輌に入ると、屋根の上にいた男が俺に続いて下りてきた。
車輌内にいた乗客が悲鳴をあげてながら車輌の外へと逃げてゆく。
あとには俺たちだけが残った。
前後をふたりに挟まれる形になる。
そこに首領と思われる男がやってきた。
俺の顔を見るなり、にやりと口の端を上げる。
嫌な笑い方をする奴だ。
「クルストラ・ディ・ヴァヴァロナだな?」
「はぁ? 誰だそれ。どういうことだ?」
「私は新生ヴァヴァロナ都市長ザルグム様の親衛隊長ドッツェ。王族の生き残り、第三王子クルストラ・ディ・ヴァヴァロナを捕らえるために、わざわざ出向いたのだ」
「王子を捕らえる? だって、ヴァヴァロナの王族は全員死んだんだろ?」
「そのはずだった。しかし第三王子と思われる遺体は焼け焦げており、判別のできない状態だった。あの死体は身代わりで、本人はどこかで生きている。我々はその可能性を危ぶんでいた」
「それで?」
なんだか、嫌な予感がする。
「おまえを連行する。第三王子クルストラ・ディ・ヴァヴァロナ」
告げられた言葉に、俺は声を失った。
突然のことに、俺は思わず聞き返した。
「人を探している。顔を見せろ」
『断れ』
「断る」
ツァルに言われなくても、こんな失礼な奴の言いなりになるつもりはない。
先頭の男が、後ろに立つ仲間に目で合図を送った。
強硬手段に出るつもりか?
俺は身構えた。
トルダの姿が目に入る。
ここで暴れると他の乗客まで巻き込んでしまう。
軍服の男は全部で五人。
車輌の出入り口を塞ぐようにひとりずつと、俺の前に三人。
車輌は今にも止まりそうだ。
ここがまだ橋の上なのは間違いない。
後方の男が前に出て、素早い動きでこちらに腕を伸ばす。
払おうとしたその手を強い力で掴まれる。
振り解こうとしたけれど、容易には動かない。
俺は舌打ちをした。
男の空いているほうの手が、今度こそ俺の襟巻きにかかる。
俺は男の鳩尾を思い切り蹴飛ばした。
後ろに立っている男がそれを抱きとめる形になる。
襟巻きがほどけて、宙に舞う。
それが視界を隠す。
その隙に、俺は窓枠に足をかけて車輌の上に跳び移った。
水面までの距離にぞっとしながら、現状を確認する。
高所恐怖症だったら、きっと腰が抜けているに違いない。
先頭車両から陸まではまだ距離がある。
少し先を、機関車だけが遠ざかってゆくのが見える。
誰かが機関車の連結をはずしたんだ。
おそらくさっきの軍服の連中だろう。
強い風が吹いた。
体勢を崩した拍子に落ちそうになってひやりとする。
前後の陸までの距離を見比べると、弱冠先頭車両のほうが陸に近いように見える。
俺は車輌の上を前方に向かって走り出した。
何輌分か進んだところで振り返ると、車輌の上を俺と同じ様に走ってくる男の姿が見えた。
まずい。
連結部分を跳び越えるとき、股の下に軍服の男の姿があって、胆が冷えた。
やばい。
油断していたら挟み撃ちにされる。
走る速度を上げる。
車輌の屋根の上は、意外と走りにくい。
吹きつける強風も曲者だ。
「あいつら、何者なんだ?」
『さあな。ま、厄介が嫌なら逃げ切ることだ』
「わかってる」
ツァルはたぶんあいつらの正体を知っている。
いったい何者なんだ?
考え事をしていたせいか、前の車輌に飛び移るときに足を踏み外した。
慌てて車輌の屋根にへばりつき、落下は免れる。
足を引き上げようとしたら、強い力で足首を掴まれた。
見ると車輌の中を走ってきた男がしっかりと俺の足を握っている。
もう片方の足で男の顔を思い切り蹴飛ばそうとしたとき、車輌の上を走ってきた男に追いつかれた。
俺の顔を凝視している。
『馬鹿! 顔を隠せ』
もう遅い。
屋根にしがみついたまま、首だけを捻っている格好で、男の目を見返す。
「大人しく下りてこい」
ぐいと足を引っ張られる。
俺はため息を吐いた。
「わかったよ。だから引っ張るな」
ここまでか。
今は諦めたほうがよさそうだ。
機会を見計らったほうがいい。
チッとツァルが舌打ちするのが聞こえた。
「仕方がないだろ」
『ああ、そうかもな』
ツァルの投げやりな態度に腹が立ったけれど、今は喧嘩をしている場合じゃない。
ぶつぶつと独り言を言っている俺を気味悪そうに男が見る。
俺の足を引っ張った男を先頭に連結部から前の車輌に入ると、屋根の上にいた男が俺に続いて下りてきた。
車輌内にいた乗客が悲鳴をあげてながら車輌の外へと逃げてゆく。
あとには俺たちだけが残った。
前後をふたりに挟まれる形になる。
そこに首領と思われる男がやってきた。
俺の顔を見るなり、にやりと口の端を上げる。
嫌な笑い方をする奴だ。
「クルストラ・ディ・ヴァヴァロナだな?」
「はぁ? 誰だそれ。どういうことだ?」
「私は新生ヴァヴァロナ都市長ザルグム様の親衛隊長ドッツェ。王族の生き残り、第三王子クルストラ・ディ・ヴァヴァロナを捕らえるために、わざわざ出向いたのだ」
「王子を捕らえる? だって、ヴァヴァロナの王族は全員死んだんだろ?」
「そのはずだった。しかし第三王子と思われる遺体は焼け焦げており、判別のできない状態だった。あの死体は身代わりで、本人はどこかで生きている。我々はその可能性を危ぶんでいた」
「それで?」
なんだか、嫌な予感がする。
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告げられた言葉に、俺は声を失った。
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