50 / 74
第三章
16 空から降る光の欠片
しおりを挟む
空から降ってくる光の欠片は、割れたガラスの破片だ。
「な、何が起こったんだ!?」
「動かないでっ!」
鋭く響く女の子の声。
聞き覚えのあるこの声は――。
「サリア!?」
「クルス! 助けに来たよ」
天井近くから落下しながらサリアが叫ぶ。
途中、何度か部屋の中心に伸びる木の枝を足場にしつつ、あっという間に地面まで到達した。
「なんで……」
『わたしの力不足です。申し訳ありません』
サリアが握る剣からアスィの声が聞こえる。
と同時に、背を向けている部屋の入り口のほうでも物音がした。
見ると開け放たれたままの扉の外に、メ・ルトロの構成員が倒れているのが見える。
「そこまでだ! この建物はヴァヴァロナ王家親衛隊である我々が完全に包囲している。無駄な抵抗はせず、速やかに人質を返還していただこう」
よく響く低い声とともに、ヴァヴァロナ人が好む大剣を手にした人影が室内に侵入してくる。
その顔には、見覚えがあった。
「列車で一緒だったおじいさん……?」
ポルスから一緒に蒸気機関車に乗ってきた、あの老人だった。
そして昔の記憶の戻った今、確かに王宮内で父上の傍に控えている姿を何度か見たことがあることを思い出す。
クーデターの起こる数年前に退役したはずだ。
「遅くなりまして、申し訳ございません!」
トルダさんが俺に向かって頭を下げる。
「いや、あの……いったいなんで……?」
部屋を囲っていたジンヌの見えない壁は、きっとアスィの強大な力によって破壊されたんだろうとわかる。
だからサリアがガラスを突き破ることができたし、トルダさんがこの部屋に入ることができた。
そこまではいい。
でも、どうしてサリアがトルダさんと一緒にいるんだ?
俺は前方のサリア、後方のトルダさんを交互に見やり、そこに関連性を見出そうと思ったけれど、ちっともわからない。
「クルス、話はあとよ! あなたがクルスを傷つけた連中の大将ね!?」
サリアが鉄剣の先をマーサンの喉元につきつけている。
「サリア、待て。俺は大丈夫だ」
慌ててサリアを制止する。
「やれやれ。まさか追わせていたはずの標的が自ら乗り込んでくるとはね。しかも援軍を連れて来るなんて、びっくりだよ」
「当然のことよ。そもそもペリュシェスを目指していたのはクルスとツァルなんだから。そのふたりを置いてわたしたちだけが行ったって無意味じゃない」
『信用されてないな、クルス』
「ツァル、おまえもだ」
ツァルの言葉に憮然として言い返す。
「心配だったの! 信用はしてるよ。でも、わたしに手伝えることが少しでもあるのなら手伝いたかったの!」
サリアがちらりとこちらに視線を向けて主張する。
「仲の良いことだね」
マーサンが呆れたように苦笑を浮かべる。
「さあ、みんなを解放して。こんなところに精霊を閉じ込めるなんて、最低よ」
「解放しろと言うけれど、君の精霊がこの檻を囲っていた壁を壊してしまったじゃないか。僕が何もしなくたって、ここの精霊たちはもうどこへでも行けるはずだよ。僕の仲間もみんな君たちが倒してしまったんだろう? 今なら、僕に彼を引き止める術もない。好きにすればいいさ」
それまで緩慢な動きしか見せていなかった精霊たちが、徐々に動き始めていた。
精霊を閉じ込める不思議な壁は、今はただのガラスの壁でしかなくなった。
衝撃を与えればすぐに割れる。
飛べる者は天井の穴から。
飛べない者は、側面の壁を突き破って。
精霊たちが外へと逃げてゆく。
『おまえら、もし行く当てがないのなら、ペリュシェスへ向かってくれ!』
ツァルが去ってゆく精霊に向かって声を投げかけた。
「な、何が起こったんだ!?」
「動かないでっ!」
鋭く響く女の子の声。
聞き覚えのあるこの声は――。
「サリア!?」
「クルス! 助けに来たよ」
天井近くから落下しながらサリアが叫ぶ。
途中、何度か部屋の中心に伸びる木の枝を足場にしつつ、あっという間に地面まで到達した。
「なんで……」
『わたしの力不足です。申し訳ありません』
サリアが握る剣からアスィの声が聞こえる。
と同時に、背を向けている部屋の入り口のほうでも物音がした。
見ると開け放たれたままの扉の外に、メ・ルトロの構成員が倒れているのが見える。
「そこまでだ! この建物はヴァヴァロナ王家親衛隊である我々が完全に包囲している。無駄な抵抗はせず、速やかに人質を返還していただこう」
よく響く低い声とともに、ヴァヴァロナ人が好む大剣を手にした人影が室内に侵入してくる。
その顔には、見覚えがあった。
「列車で一緒だったおじいさん……?」
ポルスから一緒に蒸気機関車に乗ってきた、あの老人だった。
そして昔の記憶の戻った今、確かに王宮内で父上の傍に控えている姿を何度か見たことがあることを思い出す。
クーデターの起こる数年前に退役したはずだ。
「遅くなりまして、申し訳ございません!」
トルダさんが俺に向かって頭を下げる。
「いや、あの……いったいなんで……?」
部屋を囲っていたジンヌの見えない壁は、きっとアスィの強大な力によって破壊されたんだろうとわかる。
だからサリアがガラスを突き破ることができたし、トルダさんがこの部屋に入ることができた。
そこまではいい。
でも、どうしてサリアがトルダさんと一緒にいるんだ?
俺は前方のサリア、後方のトルダさんを交互に見やり、そこに関連性を見出そうと思ったけれど、ちっともわからない。
「クルス、話はあとよ! あなたがクルスを傷つけた連中の大将ね!?」
サリアが鉄剣の先をマーサンの喉元につきつけている。
「サリア、待て。俺は大丈夫だ」
慌ててサリアを制止する。
「やれやれ。まさか追わせていたはずの標的が自ら乗り込んでくるとはね。しかも援軍を連れて来るなんて、びっくりだよ」
「当然のことよ。そもそもペリュシェスを目指していたのはクルスとツァルなんだから。そのふたりを置いてわたしたちだけが行ったって無意味じゃない」
『信用されてないな、クルス』
「ツァル、おまえもだ」
ツァルの言葉に憮然として言い返す。
「心配だったの! 信用はしてるよ。でも、わたしに手伝えることが少しでもあるのなら手伝いたかったの!」
サリアがちらりとこちらに視線を向けて主張する。
「仲の良いことだね」
マーサンが呆れたように苦笑を浮かべる。
「さあ、みんなを解放して。こんなところに精霊を閉じ込めるなんて、最低よ」
「解放しろと言うけれど、君の精霊がこの檻を囲っていた壁を壊してしまったじゃないか。僕が何もしなくたって、ここの精霊たちはもうどこへでも行けるはずだよ。僕の仲間もみんな君たちが倒してしまったんだろう? 今なら、僕に彼を引き止める術もない。好きにすればいいさ」
それまで緩慢な動きしか見せていなかった精霊たちが、徐々に動き始めていた。
精霊を閉じ込める不思議な壁は、今はただのガラスの壁でしかなくなった。
衝撃を与えればすぐに割れる。
飛べる者は天井の穴から。
飛べない者は、側面の壁を突き破って。
精霊たちが外へと逃げてゆく。
『おまえら、もし行く当てがないのなら、ペリュシェスへ向かってくれ!』
ツァルが去ってゆく精霊に向かって声を投げかけた。
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる