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第四章

16 空へと向ける想いと願い

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 ヴァルヴェリアスが上空へと昇ってゆく。

 それを見送ったリフシャティーヌが口を大きく開けたかと思うと、咆哮を始めた。

 空ではヴァルヴェリアスが翼を大きく羽ばたかせ、風を巻き起こしている。

 ふたりの精霊から発される膨大な力に圧倒される。

 俺とサリアは、並んでそれを見上げていた。

 リフシャティーヌの隣にはアスィとツァルが立ち、目を閉じて何かを念じているように見える。

 空の雲は全て吹き飛ばされ、守護者の風と声にはそれぞれ色がついている。

 青緑の風、純白の声。

 それらがペリュー山脈を越えて世界中を駆け巡っているのがわかった。

 そしてそれとは別に、こちらに向けて発されている光がある。

 四方から精霊の塔目指して集まってくる光、それは各地の精霊たちの力。

 その光の中に、アグの村で会ったガティの気を微かに感じた。
 俺たちを泊めてくれたミールは元気にしているだろうか。
 また別の光からは、アラカステルのはずれにある鉄橋の精霊ファローの気も感じられる。

 みんなの力が、ここに集結している。

 そして足もとから集まってくる光。
 これはペリュシェスに集った精霊たちの力。

 それらの力をふたりの守護者が吸収し、自らの力と融合させて世界の穢れを浄化する。

 その光景に、胸が熱くなる。

 これが守護者の力。
 これが精霊の力。

 俺たち人間にできることは、なんて少ないんだろう。

 自分は今、ここにこうして立っていることしかできないのに。

 俺はその光景にただただ見惚れていた。

 やがて精霊の塔に向けて集まってくる光が尽き、ヴァルヴェリアスは大きな羽ばたきをやめ、リフシャティーヌは口を閉じた。

『これで、随分とましになったでしょうね』
『ああ、この状態を維持できれば、死病は収束し、精霊は過ごしやすい環境を得られるだろう』

『けれど地震はおさまりませんね』
『だからこそ、シュテフォーラを呼ぶんだろうが』

 精霊たちは口々に言葉を交わし、そして俺たちを見た。

『さあ、シュテフォーラを呼んで頂戴。ここからはあなたたちの出番よ。あなたたちは守護者の同盟者であり、同時に人間の代表でもあるのだから』

 俺とサリアは顔を見合わせ、頷き合った。

 どちらからともなく手をつなぎ、塔の中央へと進み出る。

 俺の斜め後ろにツァルが、サリアの後方にはアスィが立ち、それより少し離れた場所にリフシャティーヌが坐っている。

 空を見上げた。
 もうすぐ日が暮れる。

 周囲が橙に染まり始めている。

「世界の創造主にして偉大なる精霊シュテフォーラ様。どうか今一度この世界のために力をお貸し下さい」

「わたしたちはこの世界が大好きです。大好きな人がいる、大切な人がいるこの世界を失いたくはありません。だからどうかお願いします」

「シュテフォーラ!!」  

 空に向かって叫ぶ。

 俺とサリアの声が重なる。

 それに続いて、リフシャティーヌの咆哮とヴァルヴェリアスの風が絡まりあい、俺たちの声を押し上げるように空へと昇ってゆく。

 そして――。

 空が裂けた。
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