​『そんな美味い話が私(悪役令嬢)にあるわけがない!』

桜井ことり

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翌朝。私が畑へ向かうと、そこには異様な光景が広がっていた。

「……オルランド様? 何をして……いらっしゃるの?」

「畑仕事です、アルメリア様! 昨晩、ザックという男に教えを請いました!」

オルランド様は、漆黒の重厚な甲冑を脱ぎ捨て、白いシャツの袖を捲り上げていた。
手には、家宝であるはずの魔剣。
彼はその至宝を、恐ろしい速度で地面に突き刺していた。

「せいっ! はぁッ!!」

魔剣が地面を叩くたびに、衝撃波が走り、土が均等に裏返されていく。
……いや、耕すというよりは、もはや土木工事だ。

「お、おい鉄仮面! やりすぎだっつってんだろ! それじゃあ土が粉々になりすぎて、栄養が逃げちまう!」

ザックが横から必死に指示を出すが、オルランド様は止まらない。

「黙れ山賊! アルメリア様が植える苗にとって、障害となる石や根は、分子レベルで粉砕しなければならないのだ!」

「分子ってなんだよ! いいからクワを使え、クワを!」

「……クワ? そんな脆弱な道具では、私の愛(魔力)に応えられん」

もはや会話が噛み合っていない。
だが、驚くべきことに、オルランド様が一日で耕した面積は、村人全員で一ヶ月かかる量に匹敵していた。
最強の騎士が本気を出すと、農業革命が起きるらしい。

「アルメリア様! いかがでしょうか! この完璧に均された大地は!」

オルランド様が、汗を拭いながら誇らしげに駆け寄ってくる。
その瞳はキラキラと輝いており、まるで褒め言葉を待つ大型犬のようだ。

「え、ええ……。凄まじいですわね。……でも、オルランド様。その剣、帝国の至宝ではなかったかしら?」

「アルメリア様の野菜を育てる大地を拓く。これ以上の神聖な使い道など、この剣にはありません」

「……そうですか」

私はそっと目を逸らした。
魔剣の製作者がこの光景を見たら、泣いて抗議するに違いない。

「お嬢様……。あの御方、本当に騎士団長様なのですか……?」

小屋から出てきた父が、震える声で尋ねる。

「ええ、お父様。……少し、愛が重すぎるだけですわ。実害(?)はありませんから、放っておきましょう」

こうして村には、マッチョな山賊と、超人的な騎士が共存するという、世界で最も安全で奇妙な平和が訪れた。
しかしその頃、王国側はまさに「地獄」の様相を呈していた。
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