断罪の処刑台から消えた悪役令嬢

桜井ことり

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「……嘘だ。こんなことが、あってたまるか……」

アルベールは、遠ざかる帝国の馬車を見送りながら、力なくその場に崩れ落ちた。
彼の周囲には、エリアーヌが放った『絶望の檻』によって魔力を枯らされた騎士たちが、骸のように横たわっている。

「第一王子殿下、お怪我は……」

「触るな! 俺は……俺はリュミエール王国の次期国王だぞ! あんな、あんな女一人に……っ」

アルベールが震える手で地面を叩いた、その時。
地平線を埋め尽くすほどの帝国軍が一斉に槍を掲げ、地響きのような勝鬨を上げた。

「「エリアーヌ様に栄光あれ! 我らが皇后陛下に祝福を!」」

その声は、リュミエール王国の全軍を合わせたよりも遥かに大きく、誇り高い。
アルベールは、その圧倒的な武力と、何よりエリアーヌに向けられた純粋な敬意に、魂を打ち砕かれた。

彼が「無能な悪役令嬢」として処刑しようとした少女は、今や大陸最強の軍勢に守られ、神のごとく崇められている。
一方で、自分はどうだ。
守るべき魔導具は壊れ、民には石を投げられ、縋りついた「聖女」は紛い物。

「……アルベール様。王都から火急の報せが届きました」

伝令兵の声は、もはや絶望に染まっていた。

「国境の防衛結界が完全に消失しました。……それだけでなく、帝国からの経済制裁により、国内の魔石流通が停止。王都は、暗闇に包まれています」

「……何だと?」

「民衆が、王宮を包囲しました。『エリアーヌ様を殺そうとした王族を差し出せ』と……」

アルベールの顔から、一滴の血色も失われた。
彼は、エリアーヌという「光」を失うことが、これほどまでの破滅を招くとは思ってもみなかったのだ。

「ああ、あああ……っ!」

彼は狂ったように頭を抱え、泥の中に顔を埋めた。
かつてエリアーヌが、彼の冷たい言葉に震えながら過ごした牢獄の床よりも、今の地面は冷たく、惨めだった。

「戻ってきてくれ……エリアーヌ……。お前さえいれば、俺はまだ、王子でいられるんだ……っ」

その言葉さえも、彼女にとってはもはやゴミ同然。
アルベールは、自分が捨てたものの大きさに、ようやく気づいた。
だが、すべては遅すぎた。

帝国の覇王の足元で、かつての婚約者はただの敗北者として、永遠に這いつくばる運命を受け入れるしかなかった。
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