断罪の処刑台から消えた悪役令嬢

桜井ことり

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「……ジーク様? どこへ連れていってくださるのですか?」

目隠しをされたまま、私はジーク様の手を借りてゆっくりと歩いていた。
足元に触れるのは、石床ではなく、柔らかく湿った土と芝生の感触。
そして鼻をくすぐるのは、夜の帳に溶け込むような、芳醇な花の香り。

「着いたぞ、エリアーヌ。……目を開けていい」

ジーク様が優しく目隠しを解くと、そこには息を呑むような絶景が広がっていた。
城の最上層に造られた、私専用の空中庭園。
そこには、私が開発した「月光草」の魔導改良種が、まるで星を地上にぶちまけたように青白く発光して咲き乱れている。

「……綺麗。これ、私が工房で研究していた……」

「ああ。君がいつか見たいと言っていた、光の海だ。……エリアーヌ」

ジーク様が私の前に立ち、その紅い瞳を真剣に細めた。
彼は私の両手をとり、その熱い指先を絡める。

「君を処刑台から攫ったあの日から、私の心は決まっていた。……だが、今夜は皇帝としてではなく、ただ君に恋い焦がれる一人の男として、伝えたい」

ジーク様が、静かにその場に膝をついた。
帝国の覇王が、たった一人の女性の前に跪く。
その姿に、私の心臓は壊れそうなほど大きく跳ねた。

「君がいない人生など、私には灰色の監獄と同じだ。君の知恵、君の勇気、そしてその愛らしい微笑み……すべてを、一生私の隣で輝かせてほしい」

彼は懐から、一点の曇りもない特大の魔導ダイヤモンドが嵌め込まれた指輪を取り出した。
その石には、ジーク様の全魔力による「守護」の術式が、幾重にも刻まれている。

「エリアーヌ・ド・リュミエール。……いや、私の愛するエリアーヌ。私と結婚してほしい。帝国中の誰よりも、世界中の誰よりも、私が君を幸せにすると誓おう」

「ジーク様……っ」

視界が涙で滲む。
祖国では「政略の道具」としてしか見られず、用済みになれば殺されるはずだった私。
そんな私が、今、世界で最も強大で、最も情熱的な男に、魂の底から必要とされている。

「……はい。喜んで。私を、あなたの妻にしてください。ジーク様」

私が震える声で答えると、ジーク様は弾かれたように立ち上がり、私を力いっぱい抱きしめた。
指に滑り込むリングの重みは、彼から贈られた永遠の愛の重さそのものだった。

「……ああ、ようやく。ようやく君を、法も神も認める私のものにできる」

ジーク様は私の首筋に顔を埋め、安堵したように深く、熱い吐息を漏らした。

「もう逃がさないぞ。君の指先に至るまで、すべて私の刻印を焼き付けてやる。……覚悟しておくんだな」

「……っ、ふふ。望むところですわ、私の覇王様」

月光草の光に包まれながら、私たちは誓いの口づけを交わした。
かつて消えかけた私の命は、今、この人の腕の中で、誰よりも鮮やかに燃え上がっていた。
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