断罪の処刑台から消えた悪役令嬢

桜井ことり

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「……ジーク様、流石にこれはやりすぎではありませんか?」

目の前に広がる光景に、私は呆然と立ち尽くした。
王宮の広間を埋め尽くしているのは、大陸全土から集められた最高級の絹、伝説の魔鳥の羽、そして数えきれないほどの宝石。
それらはすべて、私一人の「婚礼衣装」のために用意されたものだという。

「やりすぎ? いいや、これでも足りないくらいだ。帝国の皇后となる女性が、世界で最も輝いていなくてどうする」

ジーク様は当然のように言い放つと、私の腰を抱き寄せ、その頬を優しくなぞった。
彼は私の反応を、まるで幼い子供が反応を楽しむように眺めている。

「見てくれ、エリアーヌ。この糸は、君が以前『魔力伝導率が素晴らしい』と言っていた極北の蜘蛛の糸だ。これでウェディングドレスを編ませている」

「あ、あの希少な素材を……ドレスの生地に!? もったいなすぎて、ハサミを入れられませんわ!」

「君の肌に触れるものだ、妥協など許さん。……それから、この王冠を見ろ」

彼が指し示したのは、中心に私の魔力特性に合わせた巨大な魔導石が鎮座する、目が眩むようなティアラだった。
それは単なる装飾品ではなく、国家レベルの防衛結界をも発動できる、究極の魔導具でもあった。

「これを被っている限り、いかなる呪いも暗殺も、君に触れることはできない。……私の愛は、常に君を守る盾となる」

「ジーク様……。私、ただのドレスで良かったのです。あなたの隣にいられるだけで……」

「私が嫌なのだ。君を飾ることは、私の誇りであり、支配欲の充足でもある。……エリアーヌ、恥ずかしがるな。君はそれだけの価値がある女性なのだから」

ジーク様は私の首筋に鼻先を寄せ、深く、満足そうに目を細めた。
祖国では、私の存在は「便利な道具」でしかなかった。
ドレス一枚選ぶ自由さえ与えられず、いつもリリィ様のお下がりや、古い衣装を直して着ていた。

けれどここでは、一国の主が、私のために世界中の富をかき集め、私が最も輝く瞬間を創り出そうとしている。

「さあ、採寸を始めよう。……職人たち、入れ。一ミリの狂いも出すなよ。もしエリアーヌが窮屈そうな顔をしたら、貴様らの首も危ういと思え」

「ジーク様! 職人さんを脅さないでくださいませ!」

「ふ、冗談だ。……だが、君を世界一幸せにするという私の意志に、嘘はない」

彼は私の指先にそっと唇を寄せ、熱い視線で私を射抜いた。
儀式の準備が進むにつれ、城全体が祝祭の熱気に包まれていく。
私が「消えた令嬢」から「帝国の皇后」へと生まれ変わる日は、もうすぐそこまで来ていた。
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