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森での一件以来、ミロルの心は晴れない霧の中にいるようだった。
シフォンという青年の存在が、静かだった彼女の日常を揺さぶり始めていた。
そんなある日の夕食後、ミロルは叔父であるグレイフィールド男爵に呼び出された。
「ミロル、お前に話がある」
応接室に入ると、叔父と叔母がこれみよがしな笑みを浮かべて座っていた。嫌な予感しかしない。
「今度、王都で開かれる夜会に、お前も参加しろ」
「……え?」
予想外の言葉に、ミロルは耳を疑った。
社交界とは無縁の生活。高価なドレスも宝飾品も持たない自分が行ける場所ではない。
「ですが叔父様、わたくしには夜会に着ていくようなドレスが……」
「そんなものは心配するな。お前の母上のものが残っているだろう。少し手直しすれば十分だ」
叔母が、扇子で口元を隠しながら嘲るように言う。
「それよりも、だ。ミロル、この夜会にはヴァインベルク公爵家の方々も臨席される。……中でも、ご子息のシフォン様は、お前と同じ年頃のはずだ」
シフォン様。その名が出た瞬間、ミロルの心臓が大きく跳ねた。
(あの方が、シフォン様……ヴァインベルク公爵家のご子息……)
どうりで、気品も威厳も、他の人とは全く違うはずだ。
「いいか、ミロル。これは我らグレイフィールド家にとって千載一遇の好機なのだ。何としてでもシフォン様のお目に留まり、気に入られるのだ。わかったな!」
叔父の下心に満ちた言葉に、ミロルの心は急速に冷えていく。
(そう……叔父様たちは、わたくしを利用したいだけ)
家の借金を肩代わりさせるとか、公爵家との繋がりを利用して利益を得るとか、そういうことなのだろう。
「……お断りします」
気づけば、声が漏れていた。
「何だと?」
叔父の目が険しくなる。
「わたくしは、そのような目的のためにシフォン様にお会いしたくはありません。それに、身分も違いすぎます」
「この私に口答えするか!」
叔父がテーブルを強く叩く。
「お前を今まで誰が育ててやったと思っているんだ!少しは家の役に立とうという気はないのか!」
叔母も甲高い声でミロルを責め立てる。
「そうよ!ただ飯食らいのくせに、恩を仇で返すつもり!?」
浴びせられる罵声に、ミロルは唇をきつく噛み締めた。
この家で、自分は厄介者でしかない。それは痛いほどわかっていた。
抵抗しても無駄だ。結局、自分には逆らうことなどできないのだ。
「……わかり、ました。参加、いたします」
絞り出すような声でそう答えると、叔父夫婦は満足げに顔を見合わせた。
部屋に戻ったミロルは、ベッドに突っ伏した。
(あんな形で、シフォン様にお会いしたくない……)
森で会った時の、彼の不器用な優しさを思い出す。
打算や策略にまみれた場所で、あの澄んだ青い瞳を見ることなど、耐えられそうになかった。
しかし、心の片隅で、もう一度彼に会いたいと願う自分もいる。
(もし、またお会いできたら……)
矛盾した想いを抱えながら、ミロルの憂鬱な夜は更けていくのだった。
シフォンという青年の存在が、静かだった彼女の日常を揺さぶり始めていた。
そんなある日の夕食後、ミロルは叔父であるグレイフィールド男爵に呼び出された。
「ミロル、お前に話がある」
応接室に入ると、叔父と叔母がこれみよがしな笑みを浮かべて座っていた。嫌な予感しかしない。
「今度、王都で開かれる夜会に、お前も参加しろ」
「……え?」
予想外の言葉に、ミロルは耳を疑った。
社交界とは無縁の生活。高価なドレスも宝飾品も持たない自分が行ける場所ではない。
「ですが叔父様、わたくしには夜会に着ていくようなドレスが……」
「そんなものは心配するな。お前の母上のものが残っているだろう。少し手直しすれば十分だ」
叔母が、扇子で口元を隠しながら嘲るように言う。
「それよりも、だ。ミロル、この夜会にはヴァインベルク公爵家の方々も臨席される。……中でも、ご子息のシフォン様は、お前と同じ年頃のはずだ」
シフォン様。その名が出た瞬間、ミロルの心臓が大きく跳ねた。
(あの方が、シフォン様……ヴァインベルク公爵家のご子息……)
どうりで、気品も威厳も、他の人とは全く違うはずだ。
「いいか、ミロル。これは我らグレイフィールド家にとって千載一遇の好機なのだ。何としてでもシフォン様のお目に留まり、気に入られるのだ。わかったな!」
叔父の下心に満ちた言葉に、ミロルの心は急速に冷えていく。
(そう……叔父様たちは、わたくしを利用したいだけ)
家の借金を肩代わりさせるとか、公爵家との繋がりを利用して利益を得るとか、そういうことなのだろう。
「……お断りします」
気づけば、声が漏れていた。
「何だと?」
叔父の目が険しくなる。
「わたくしは、そのような目的のためにシフォン様にお会いしたくはありません。それに、身分も違いすぎます」
「この私に口答えするか!」
叔父がテーブルを強く叩く。
「お前を今まで誰が育ててやったと思っているんだ!少しは家の役に立とうという気はないのか!」
叔母も甲高い声でミロルを責め立てる。
「そうよ!ただ飯食らいのくせに、恩を仇で返すつもり!?」
浴びせられる罵声に、ミロルは唇をきつく噛み締めた。
この家で、自分は厄介者でしかない。それは痛いほどわかっていた。
抵抗しても無駄だ。結局、自分には逆らうことなどできないのだ。
「……わかり、ました。参加、いたします」
絞り出すような声でそう答えると、叔父夫婦は満足げに顔を見合わせた。
部屋に戻ったミロルは、ベッドに突っ伏した。
(あんな形で、シフォン様にお会いしたくない……)
森で会った時の、彼の不器用な優しさを思い出す。
打算や策略にまみれた場所で、あの澄んだ青い瞳を見ることなど、耐えられそうになかった。
しかし、心の片隅で、もう一度彼に会いたいと願う自分もいる。
(もし、またお会いできたら……)
矛盾した想いを抱えながら、ミロルの憂鬱な夜は更けていくのだった。
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