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『アークライト商会』の開店当日。
王都アルトハイムは、朝から異様な熱気に包まれていた。
中央広場には、まだ夜が明けきらないうちから、どこから噂を聞きつけたのか、大勢の女性たちが詰めかけていたのだ。
貴族の令嬢から、裕福な商人の夫人、果ては侍女や街の娘まで。
その目的は、ただ一つ。今日、ついにそのベールを脱ぐ、謎の店の正体を確かめるためだった。
店の前には、グレイフォード率いる屈強な警備員たちが整然と並び、混乱が起きないように客の列を整理している。
そして、開店を告げる鐘が鳴る、午前十時。
金の縁取りが施された重厚な扉が、静かに開かれた。
最初に客たちを迎えたのは、店の制服である黒のロングドレスに、純白のエプロンをつけた、完璧な微笑みを浮かべるアテルイ本人だった。
「皆様、ようこそおいでくださいました。『アークライト商会』へ」
その女神のような微笑みと、鈴を転がすような声に、店の前にいた女性たちは一瞬で心を奪われた。
まるで魔法にかかったように、客たちはうっとりとした表情で、次々と店内へと吸い込まれていく。
店の中に足を踏み入れた彼女たちは、再び息を呑んだ。
そこは、まさに「お姫様のお部屋」そのものだったからだ。
天井からは巨大なシャンデリアがいくつも吊り下げられ、壁には薔薇の模様が優雅に描かれている。そして、ガラス張りのショーケースの中には、色とりどりの商品が、まるで宝石のように輝いていた。
「まあ、なんて綺麗……!」
「ここが、お店なの……?」
客たちは、夢の世界に迷い込んだかのような感覚に陥る。
「いらっしゃいませ、お客様」
完璧な作法で声をかけてきたのは、アテルイと同じ制服を纏ったイゾルテだった。
「こちらは、当商会が誇る口紅、『夢見るルージュ』でございます。どうぞ、お試しくださいませ」
イゾルテが示した先には、『秘めた恋心』『初めてのワルツ』といった詩的な名前がつけられた、様々な色合いの口紅が並んでいた。
令嬢の一人が、おそるおそる一つのテスターを手に取り、自分の唇にのせてみる。
「まあ……!なんて滑らかな塗り心地……!それに、この美しい発色!」
その令嬢の唇は、これまで見たこともないような、艶やかで美しい赤色に染まっていた。
周りで見ていた他の客たちから、どよめきが起こる。
化粧品コーナーだけではない。
隣のスイーツコーナーも、同じく熱狂の渦に包まれていた。
ショーケースには、虹色の小さな円盤『天使のマカロン』、果物が宝石のように輝く焼き菓子『妖精のタルト』、一口サイズの芸術品『星屑のショコラ』などが、ずらりと並んでいる。
「か、可愛い……!食べるのがもったいないくらい!」
「見て!このチョコレート、銀色の星が散りばめられているわ!」
商品は、飛ぶように売れていった。
いや、もはや「売れる」という生易しいレベルではない。客たちは、まるで魔法の品を奪い合うかのように、商品を手に取っていく。
ケインズの予想通り、商品の「物語性」と「見た目の美しさ」は、女性たちの購買意欲を強烈に刺激したのだ。
店の奥では、ケインズが笑いの止まらないソロバンを弾き、グレイフォードは次々と運び込まれる商品の在庫管理に汗を流し、フローラは魔法で商品の補充を高速で行っていた。
元貴族たちも、慣れないながらに接客や袋詰めを手伝い、店内は一種の戦場と化していた。
そして、その熱狂の中心で、アテルイはただ、にこにこと微笑んでいた。
彼女は、客から商品のことを尋ねられると、嬉しそうに答える。
「ええ、このお菓子は、食べると幸せな夢が見られる、という噂ですのよ。うふふ」
その一言で、その菓子は瞬時に売り切れた。
彼女自身が、この商会の最強の広告塔だった。
そして、昼過ぎ。
開店からわずか三時間ほどで、用意していた全ての商品が、完売した。
店の入り口には、『本日分は完売いたしました』という札が掲げられる。
それを知った、まだ店に入れていない大勢の客たちから、悲鳴のような声が上がった。
『アークライト商会』の開店初日は、こうして伝説となった。
王都アルトハイムに、新しい文化が生まれた瞬間だった。
そして、この社会現象は、すぐにある人物の耳にも届くことになるのである。
王都アルトハイムは、朝から異様な熱気に包まれていた。
中央広場には、まだ夜が明けきらないうちから、どこから噂を聞きつけたのか、大勢の女性たちが詰めかけていたのだ。
貴族の令嬢から、裕福な商人の夫人、果ては侍女や街の娘まで。
その目的は、ただ一つ。今日、ついにそのベールを脱ぐ、謎の店の正体を確かめるためだった。
店の前には、グレイフォード率いる屈強な警備員たちが整然と並び、混乱が起きないように客の列を整理している。
そして、開店を告げる鐘が鳴る、午前十時。
金の縁取りが施された重厚な扉が、静かに開かれた。
最初に客たちを迎えたのは、店の制服である黒のロングドレスに、純白のエプロンをつけた、完璧な微笑みを浮かべるアテルイ本人だった。
「皆様、ようこそおいでくださいました。『アークライト商会』へ」
その女神のような微笑みと、鈴を転がすような声に、店の前にいた女性たちは一瞬で心を奪われた。
まるで魔法にかかったように、客たちはうっとりとした表情で、次々と店内へと吸い込まれていく。
店の中に足を踏み入れた彼女たちは、再び息を呑んだ。
そこは、まさに「お姫様のお部屋」そのものだったからだ。
天井からは巨大なシャンデリアがいくつも吊り下げられ、壁には薔薇の模様が優雅に描かれている。そして、ガラス張りのショーケースの中には、色とりどりの商品が、まるで宝石のように輝いていた。
「まあ、なんて綺麗……!」
「ここが、お店なの……?」
客たちは、夢の世界に迷い込んだかのような感覚に陥る。
「いらっしゃいませ、お客様」
完璧な作法で声をかけてきたのは、アテルイと同じ制服を纏ったイゾルテだった。
「こちらは、当商会が誇る口紅、『夢見るルージュ』でございます。どうぞ、お試しくださいませ」
イゾルテが示した先には、『秘めた恋心』『初めてのワルツ』といった詩的な名前がつけられた、様々な色合いの口紅が並んでいた。
令嬢の一人が、おそるおそる一つのテスターを手に取り、自分の唇にのせてみる。
「まあ……!なんて滑らかな塗り心地……!それに、この美しい発色!」
その令嬢の唇は、これまで見たこともないような、艶やかで美しい赤色に染まっていた。
周りで見ていた他の客たちから、どよめきが起こる。
化粧品コーナーだけではない。
隣のスイーツコーナーも、同じく熱狂の渦に包まれていた。
ショーケースには、虹色の小さな円盤『天使のマカロン』、果物が宝石のように輝く焼き菓子『妖精のタルト』、一口サイズの芸術品『星屑のショコラ』などが、ずらりと並んでいる。
「か、可愛い……!食べるのがもったいないくらい!」
「見て!このチョコレート、銀色の星が散りばめられているわ!」
商品は、飛ぶように売れていった。
いや、もはや「売れる」という生易しいレベルではない。客たちは、まるで魔法の品を奪い合うかのように、商品を手に取っていく。
ケインズの予想通り、商品の「物語性」と「見た目の美しさ」は、女性たちの購買意欲を強烈に刺激したのだ。
店の奥では、ケインズが笑いの止まらないソロバンを弾き、グレイフォードは次々と運び込まれる商品の在庫管理に汗を流し、フローラは魔法で商品の補充を高速で行っていた。
元貴族たちも、慣れないながらに接客や袋詰めを手伝い、店内は一種の戦場と化していた。
そして、その熱狂の中心で、アテルイはただ、にこにこと微笑んでいた。
彼女は、客から商品のことを尋ねられると、嬉しそうに答える。
「ええ、このお菓子は、食べると幸せな夢が見られる、という噂ですのよ。うふふ」
その一言で、その菓子は瞬時に売り切れた。
彼女自身が、この商会の最強の広告塔だった。
そして、昼過ぎ。
開店からわずか三時間ほどで、用意していた全ての商品が、完売した。
店の入り口には、『本日分は完売いたしました』という札が掲げられる。
それを知った、まだ店に入れていない大勢の客たちから、悲鳴のような声が上がった。
『アークライト商会』の開店初日は、こうして伝説となった。
王都アルトハイムに、新しい文化が生まれた瞬間だった。
そして、この社会現象は、すぐにある人物の耳にも届くことになるのである。
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