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エルツ王国で『アークライト商会』の噂が駆け巡っている頃。
国境を隔てたミラグロ王国は、日に日にその輝きを失い、沈滞した空気に包まれていた。
王宮のアルフォンス王太子の執務室は、荒れに荒れていた。
床には高級そうな書類が散乱し、壁に投げつけられたらしい銀の杯が歪んでいる。
「なぜだ!なぜ、あんな女が!」
アルフォンスは、机の上に広げられた報告書を、忌々しげに睨みつけていた。
それは、エルツ王国に派遣した密偵からの報告書だった。
そこには、信じがたい事実が、詳細に綴られていた。
自分が捨てた婚約者、アテルイ・アークライトが、エルツ王国の王都で『アークライト商会』なるものを立ち上げ、空前の大成功を収めていること。
彼女が売る化粧品や菓子は、エルツの女性たちを熱狂させ、社会現象にまでなっていること。
そして、ついには、エルツ王国の王族にまでその名が届き、王宮の茶会に招待されたこと――。
「馬鹿な……!あり得ない!」
アルフォンスは、報告書をぐしゃりと握り潰した。
彼が知るアテルイは、いつも無表情で、何を考えているか分からない、ただ美しいだけの人形のような女だった。
商才など、あるはずがない。
民衆を熱狂させるようなカリスマ性など、持っているはずがない。
(何かの間違いだ……!ケインズや、他の者たちが裏で糸を引いているに違いない!)
だが、そう考えたところで、彼の惨めさが薄れるわけではなかった。
自分が手放した女と、彼女についていった者たちが、隣国で栄華を極めている。
その事実は、彼のプライドをズタズタに引き裂いた。
「アルフォンス様、お茶をお持ちいたしましたわ」
扉がノックされ、リリアーナが心配そうな顔で入ってきた。
彼女は、アルフォンスの婚約者になるという夢を叶えたはずだった。
しかし、彼女を待っていたのは、甘い王宮生活などではなかった。
アテルイと有力貴族たちが去ったミラグロ王国は、急速に国力を失っていた。
税収は激減し、治安は悪化。
貴族たちは、アルフォンスを「国を傾かせた愚かな王太子」と陰で嘲笑い、リリアーナのことなど、誰も次期王太子妃として扱ってはくれなかった。
「うるさい!下がれ!」
アルフォンスは、リリアーナに八つ当たりするように怒鳴った。
「そ、そんな……わたくし、殿下のために……」
リリアーナの瞳に、涙が浮かぶ。
「お前のせいだ!お前が俺を唆したから、こんなことに……!」
「ひっ……!」
アルフォンスは、自分がアテルイを捨てたことの責任を、全てリリアーナに押し付けようとしていた。
かつて「真実の愛の相手」と信じたはずの少女は、今や彼の苛立ちをぶつけるための、都合の良い存在でしかなかった。
リリアーナは、泣きながら部屋を飛び出していく。
一人残された執務室で、アルフォンスは頭を抱えた。
後悔の念が、黒い渦のように彼の心を蝕んでいく。
なぜ、手放してしまったのだろう。
アテルイが隣にいた頃は、国は安定し、貴族たちも彼に従っていた。
彼女の存在が、どれほど大きなものであったか。
彼女のあの静かな微笑みが、どれほど得がたいものであったか。
今、エルツ王国で、別の男が、あの微笑みを見ているのかもしれない。
そう考えただけで、アルフォ-ンスの心は、嫉妬の炎で焼き尽くされそうになった。
(アテルイ……俺の女だったはずだ……!)
彼は、歪んだ独占欲と、失ったものへの渇望に身を震わせる。
(許さない……!お前が、俺以外の男の隣で笑うことなど、絶対に許さない!)
父王からは、「何としてもアテルイを連れ戻せ」と命じられている。
アルフォンスは、顔を上げた。
その瞳には、もはや理性のかけらもなく、ただ、アテルイを取り戻すことへの、狂気じみた執念だけが燃え盛っていた。
彼は、まだ気づいていなかった。
自分が失ったものは、もう二度と、その手には戻らないということを。
そして、彼のその歪んだ執着が、やがて自国をさらなる破滅へと導くことになるということを。
国境を隔てたミラグロ王国は、日に日にその輝きを失い、沈滞した空気に包まれていた。
王宮のアルフォンス王太子の執務室は、荒れに荒れていた。
床には高級そうな書類が散乱し、壁に投げつけられたらしい銀の杯が歪んでいる。
「なぜだ!なぜ、あんな女が!」
アルフォンスは、机の上に広げられた報告書を、忌々しげに睨みつけていた。
それは、エルツ王国に派遣した密偵からの報告書だった。
そこには、信じがたい事実が、詳細に綴られていた。
自分が捨てた婚約者、アテルイ・アークライトが、エルツ王国の王都で『アークライト商会』なるものを立ち上げ、空前の大成功を収めていること。
彼女が売る化粧品や菓子は、エルツの女性たちを熱狂させ、社会現象にまでなっていること。
そして、ついには、エルツ王国の王族にまでその名が届き、王宮の茶会に招待されたこと――。
「馬鹿な……!あり得ない!」
アルフォンスは、報告書をぐしゃりと握り潰した。
彼が知るアテルイは、いつも無表情で、何を考えているか分からない、ただ美しいだけの人形のような女だった。
商才など、あるはずがない。
民衆を熱狂させるようなカリスマ性など、持っているはずがない。
(何かの間違いだ……!ケインズや、他の者たちが裏で糸を引いているに違いない!)
だが、そう考えたところで、彼の惨めさが薄れるわけではなかった。
自分が手放した女と、彼女についていった者たちが、隣国で栄華を極めている。
その事実は、彼のプライドをズタズタに引き裂いた。
「アルフォンス様、お茶をお持ちいたしましたわ」
扉がノックされ、リリアーナが心配そうな顔で入ってきた。
彼女は、アルフォンスの婚約者になるという夢を叶えたはずだった。
しかし、彼女を待っていたのは、甘い王宮生活などではなかった。
アテルイと有力貴族たちが去ったミラグロ王国は、急速に国力を失っていた。
税収は激減し、治安は悪化。
貴族たちは、アルフォンスを「国を傾かせた愚かな王太子」と陰で嘲笑い、リリアーナのことなど、誰も次期王太子妃として扱ってはくれなかった。
「うるさい!下がれ!」
アルフォンスは、リリアーナに八つ当たりするように怒鳴った。
「そ、そんな……わたくし、殿下のために……」
リリアーナの瞳に、涙が浮かぶ。
「お前のせいだ!お前が俺を唆したから、こんなことに……!」
「ひっ……!」
アルフォンスは、自分がアテルイを捨てたことの責任を、全てリリアーナに押し付けようとしていた。
かつて「真実の愛の相手」と信じたはずの少女は、今や彼の苛立ちをぶつけるための、都合の良い存在でしかなかった。
リリアーナは、泣きながら部屋を飛び出していく。
一人残された執務室で、アルフォンスは頭を抱えた。
後悔の念が、黒い渦のように彼の心を蝕んでいく。
なぜ、手放してしまったのだろう。
アテルイが隣にいた頃は、国は安定し、貴族たちも彼に従っていた。
彼女の存在が、どれほど大きなものであったか。
彼女のあの静かな微笑みが、どれほど得がたいものであったか。
今、エルツ王国で、別の男が、あの微笑みを見ているのかもしれない。
そう考えただけで、アルフォ-ンスの心は、嫉妬の炎で焼き尽くされそうになった。
(アテルイ……俺の女だったはずだ……!)
彼は、歪んだ独占欲と、失ったものへの渇望に身を震わせる。
(許さない……!お前が、俺以外の男の隣で笑うことなど、絶対に許さない!)
父王からは、「何としてもアテルイを連れ戻せ」と命じられている。
アルフォンスは、顔を上げた。
その瞳には、もはや理性のかけらもなく、ただ、アテルイを取り戻すことへの、狂気じみた執念だけが燃え盛っていた。
彼は、まだ気づいていなかった。
自分が失ったものは、もう二度と、その手には戻らないということを。
そして、彼のその歪んだ執着が、やがて自国をさらなる破滅へと導くことになるということを。
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