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「アテナ・ヴァン・ベルクール! 貴様との婚約を、今この場を以て破棄する!」
煌びやかなシャンデリアが照らす夜会会場に、第一王子エドワードの怒声が響き渡った。
周囲の貴族たちは一斉に息を呑み、そして次の瞬間には、嘲笑と好奇の視線を一人の令嬢へと向けた。
輪の中心に立つのは、公爵令嬢アテナ。
「氷の悪役令嬢」と渾名される彼女は、扇で口元を隠すこともせず、ただ静かにエドワードを見据えていた。
「……婚約破棄、でございますか。その理由は伺っても?」
「白々しい! 貴様がリリアを階段から突き落とし、さらには毒を盛ろうとした証拠は挙がっているのだ!」
エドワードの傍らには、守られるようにして男爵令嬢リリアが寄り添っている。
彼女は今にも泣き出しそうな瞳で、アテナを怯えたように見つめていた。
「アテナ様、どうしてあんなことを……。私はただ、エドワード様のお役に立ちたかっただけなのに……っ」
芝居がかったリリアの台詞に、周囲の貴族たちが同情の声を上げる。
「なんて酷いことを」「公爵令嬢の座を傘に着て」「恐ろしい女だ」
アテナは冷めた瞳で、その光景を眺めていた。
(突き落とした? 毒? そんな暇があるなら、領地の会計帳簿を確認していた方がよほど有意義だわ)
「殿下、私はそのような卑劣な真似はしておりません。証拠とおっしゃるものも、おそらくは何らかの誤解か、あるいは捏造でしょう」
「黙れ! 往生際が悪いぞ! ……父上、陛下! この卑劣な悪女に、相応の罰を!」
上座に座る国王が、重々しく頷いた。
「アテナ・ヴァン・ベルクール。公爵令嬢としての地位を剥奪し、国外追放を命ずる。……衛兵、この女を捕らえよ」
王の合図と共に、武装した衛兵たちがアテナを取り囲む。
万事休す。誰もがアテナの没落を確信し、リリアが勝利の笑みを浮かべたその時だった。
「――その汚い手で、彼女に触れるな」
低く、地を這うような声が響いた。
衛兵たちの間を割って入ってきたのは、銀の甲冑を纏った長身の男。
王国最強の騎士であり、聖騎士団長を務めるローレンスだった。
「ローレンス卿? どうした、貴様の出番ではないぞ。早くその女を連れて行け」
エドワードが不審げに声をかけるが、ローレンスはその指示を無視した。
彼はアテナの前に跪くと、彼女の細い指先をとり、恭しく唇を落とした。
「ローレンス……? 何を……」
困惑するアテナの瞳を見つめ返し、ローレンスは残酷なまでに美しい微笑を浮かべる。
「お迎えに上がりました、アテナ様。こんな泥溜めのような場所に、貴女を置いておくわけにはいきません」
「な、何を言っている! ローレンス、貴様、正気か!? それは罪人だぞ!」
王の怒号に、ローレンスは立ち上がり、腰の剣を抜いた。
その切っ先が向けられたのは、罪人であるアテナではなく、あろうことか国王と王子だった。
「罪人? 笑わせないでいただきたい。アテナ様が毒を盛ったという証拠を捏造したのは、そこの男爵令嬢と、殿下……貴方自身でしょう?」
「なっ……!?」
「アテナ様の清廉さを理解できぬ愚か者に、彼女を裁く権利などない。今日、この瞬間を以て、私は貴国への忠誠を捨てさせていただきます」
会場が騒然となる。「裏切りだ!」「狂ったのか!」と叫び声が上がる中、ローレンスはアテナの腰を力強く引き寄せた。
「ローレンス、貴方、大変なことをしているわ……。このままでは貴方まで反逆者に……」
アテナの震える声を、ローレンスは甘い囁きで遮った。
「構いません。貴女を救うためなら、私は喜んで世界を裏切りましょう」
「え……?」
「さあ、行きましょうか。これからは私が、貴女の望む全てを叶えて差し上げます。……もちろん、私の愛も、生涯をかけて注がせていただきますよ?」
有無を言わせぬ力強さで、ローレンスはアテナを横抱き――いわゆるお姫様抱っこにした。
「ローレンス! 離しなさい、自分で歩けるわ!」
「お疲れのようですから、甘えてください。……逃がしませんよ、アテナ様。貴女は私の、唯一の光なのですから」
ローレンスは、数多の衛兵を剣一振りで退け、驚愕に染まる夜会会場を堂々と後にした。
後に「裏切りの騎士」として語り継がれることになる男の、執着と溺愛に満ちた物語がここから始まる。
煌びやかなシャンデリアが照らす夜会会場に、第一王子エドワードの怒声が響き渡った。
周囲の貴族たちは一斉に息を呑み、そして次の瞬間には、嘲笑と好奇の視線を一人の令嬢へと向けた。
輪の中心に立つのは、公爵令嬢アテナ。
「氷の悪役令嬢」と渾名される彼女は、扇で口元を隠すこともせず、ただ静かにエドワードを見据えていた。
「……婚約破棄、でございますか。その理由は伺っても?」
「白々しい! 貴様がリリアを階段から突き落とし、さらには毒を盛ろうとした証拠は挙がっているのだ!」
エドワードの傍らには、守られるようにして男爵令嬢リリアが寄り添っている。
彼女は今にも泣き出しそうな瞳で、アテナを怯えたように見つめていた。
「アテナ様、どうしてあんなことを……。私はただ、エドワード様のお役に立ちたかっただけなのに……っ」
芝居がかったリリアの台詞に、周囲の貴族たちが同情の声を上げる。
「なんて酷いことを」「公爵令嬢の座を傘に着て」「恐ろしい女だ」
アテナは冷めた瞳で、その光景を眺めていた。
(突き落とした? 毒? そんな暇があるなら、領地の会計帳簿を確認していた方がよほど有意義だわ)
「殿下、私はそのような卑劣な真似はしておりません。証拠とおっしゃるものも、おそらくは何らかの誤解か、あるいは捏造でしょう」
「黙れ! 往生際が悪いぞ! ……父上、陛下! この卑劣な悪女に、相応の罰を!」
上座に座る国王が、重々しく頷いた。
「アテナ・ヴァン・ベルクール。公爵令嬢としての地位を剥奪し、国外追放を命ずる。……衛兵、この女を捕らえよ」
王の合図と共に、武装した衛兵たちがアテナを取り囲む。
万事休す。誰もがアテナの没落を確信し、リリアが勝利の笑みを浮かべたその時だった。
「――その汚い手で、彼女に触れるな」
低く、地を這うような声が響いた。
衛兵たちの間を割って入ってきたのは、銀の甲冑を纏った長身の男。
王国最強の騎士であり、聖騎士団長を務めるローレンスだった。
「ローレンス卿? どうした、貴様の出番ではないぞ。早くその女を連れて行け」
エドワードが不審げに声をかけるが、ローレンスはその指示を無視した。
彼はアテナの前に跪くと、彼女の細い指先をとり、恭しく唇を落とした。
「ローレンス……? 何を……」
困惑するアテナの瞳を見つめ返し、ローレンスは残酷なまでに美しい微笑を浮かべる。
「お迎えに上がりました、アテナ様。こんな泥溜めのような場所に、貴女を置いておくわけにはいきません」
「な、何を言っている! ローレンス、貴様、正気か!? それは罪人だぞ!」
王の怒号に、ローレンスは立ち上がり、腰の剣を抜いた。
その切っ先が向けられたのは、罪人であるアテナではなく、あろうことか国王と王子だった。
「罪人? 笑わせないでいただきたい。アテナ様が毒を盛ったという証拠を捏造したのは、そこの男爵令嬢と、殿下……貴方自身でしょう?」
「なっ……!?」
「アテナ様の清廉さを理解できぬ愚か者に、彼女を裁く権利などない。今日、この瞬間を以て、私は貴国への忠誠を捨てさせていただきます」
会場が騒然となる。「裏切りだ!」「狂ったのか!」と叫び声が上がる中、ローレンスはアテナの腰を力強く引き寄せた。
「ローレンス、貴方、大変なことをしているわ……。このままでは貴方まで反逆者に……」
アテナの震える声を、ローレンスは甘い囁きで遮った。
「構いません。貴女を救うためなら、私は喜んで世界を裏切りましょう」
「え……?」
「さあ、行きましょうか。これからは私が、貴女の望む全てを叶えて差し上げます。……もちろん、私の愛も、生涯をかけて注がせていただきますよ?」
有無を言わせぬ力強さで、ローレンスはアテナを横抱き――いわゆるお姫様抱っこにした。
「ローレンス! 離しなさい、自分で歩けるわ!」
「お疲れのようですから、甘えてください。……逃がしませんよ、アテナ様。貴女は私の、唯一の光なのですから」
ローレンスは、数多の衛兵を剣一振りで退け、驚愕に染まる夜会会場を堂々と後にした。
後に「裏切りの騎士」として語り継がれることになる男の、執着と溺愛に満ちた物語がここから始まる。
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