裏切りの騎士は悪役令嬢を溺愛していた

桜井ことり

文字の大きさ
14 / 30

14

しおりを挟む
「……ローレンス、少し話をしてもいいかしら」

甘い余韻の残る寝室で、アテナはシーツを纏ったまま切り出した。

窓から差し込む朝日は無情にも明るく、昨夜の情熱が夢ではなかったことを証明している。
傍らで彼女の髪を指で弄んでいたローレンスは、愛おしげに目を細めた。

「何でしょうか。……お腹が空きましたか? それとも、昨夜の続きを望まれますか?」

「……相変わらず、貴方は極端ね。そうではないわ」

アテナは真っ直ぐに、彼の琥珀色の瞳を見据えた。

「私、ただ守られているだけの『悪役令嬢』でいたくないの。貴方が世界を敵に回してまで私を選んでくれたのなら、私は貴方に相応しい女になりたい」

ローレンスの動きが止まった。
彼は少しだけ眉を寄せ、困ったような、それでいて深い慈愛を湛えた表情を浮かべる。

「アテナ。貴女はただそこにいて、私の愛を受け取ってくださればいい。……それ以上の何を望むのですか? 貴女の手を汚すような真似は、私が絶対にさせない」

「分かっているわ。でも、貴方の重荷にはなりたくないのよ」

アテナは彼の大きな手を、自分の両手で包み込んだ。

「これから、エドワード王子や王国が私たちを放っておくはずがないわ。その時、私はただ貴方の腕の中で震えているだけの存在でありたくない。……私にも、戦わせて」

「戦う……? まさか、剣を握るつもりですか? それはお止めください。貴女の白い肌に傷がつくなど、考えただけで正気を失いそうだ」

「剣じゃないわ。……私には、公爵令嬢として叩き込まれた知識と、領地経営の経験がある。貴方が整えてくれたこの場所を守るために、知略で貴方を支えたいの」

ローレンスは沈黙した。
彼はアテナが、想像以上に強い意志を秘めていることを再認識したようだった。

「……アテナ。貴女を檻の中に閉じ込めておきたいという私の欲望は、貴女のその誇り高い魂すらも縛ろうとしていたのですね」

「檻は……貴方の腕の中だけで十分よ。でも、その外では私も、貴方の背中を預けられる盾になりたいの」

アテナは微笑み、彼の頬にそっと唇を寄せた。

「……参りましたね。そんな風に言われては、拒むことなどできません」

ローレンスは降参するように溜息をつくと、アテナを再び抱き寄せ、深く、深く抱きしめた。

「分かりました。私の知る限りの情勢、そして私が隠し持っている戦力……その全てを貴女に共有しましょう。……二人で、この世界に逆襲を仕掛けるのですね」

「ええ。私を『悪役令嬢』と呼んだことを、あの人たちに後悔させてやるわ」

アテナの瞳には、かつての冷徹な「氷の令嬢」とは違う、熱く燃え上がるような意志が宿っていた。

「……素敵だ、アテナ。貴女がより強く、美しくなるほど、私は貴女を壊してしまいたくなる。……この狂気すらも、貴女を支える糧にしてください」

ローレンスの腕に、先ほどよりも強い力がこもる。
それはもはや単なる保護ではなく、運命を共にする共犯者への、熱い誓いのようでもあった。

二人は静かに、来るべき嵐の予感を感じながら、未来への一歩を踏み出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

妹のために愛の無い結婚をすることになりました

バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」 愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。 婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。 私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。 落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。 思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

処理中です...