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ローレンスの肩から流れる鮮血が、アテナの手を熱く濡らした。
その熱を感じた瞬間、アテナの脳内で何かが静かに、けれど決定的に弾けた。
今まで抑えていた「公爵令嬢」としての矜持が、激しい憤りとなって全身を駆け巡る。
「……ローレンス、私を下ろしなさい」
「アテナ? 何を……。まだ敵が残っています、危険だ」
「いいから、下ろしなさい」
拒絶を許さない冷徹な声。
ローレンスは戸惑いながらも、アテナの気圧されるような迫力に押され、彼女をそっと地面に立たせた。
アテナはドレスの裾を汚すことも厭わず、一歩、また一歩と、自分たちを包囲する騎士たちの前へ進み出た。
その瞳は、王都で「氷の悪役令嬢」と恐れられていた時よりも鋭く、凍てつくような光を放っている。
「……下がりなさい。不敬者が」
凛とした声が森の空気を震わせた。
槍を構えていた騎士たちが、思わず息を呑み、後ずさりする。
「な、何を言っている! 貴様は国外追放された罪人だ! 大人しく捕縛されろ!」
隊長格の男が虚勢を張るが、その声は微かに震えていた。
アテナは冷笑を浮かべ、扇を持つかのように優雅に手を掲げた。
「罪人? 誰が決めたのかしら。証拠を捏造し、私欲のために私を陥れた、あの愚かな王太子? ……笑わせないで。公爵家の正当な血筋である私を裁く権利など、あの男にはないわ」
「黙れ! これ以上の侮辱は――」
「侮辱されているのは私の方よ! ……見てなさい。私の『唯一の騎士』に傷を負わせたこと、その命を以て後悔させてあげる」
アテナの周囲に、魔力の奔流が渦巻いた。
彼女は武の才能こそないが、公爵令嬢として受けた英才教育により、高密度の魔力操作を体得している。
「畏れを知りなさい。貴方たちが今、刃を向けているのは……いずれこの国を、あるいは世界の理を塗り替える者よ」
アテナが指先を弾くと、大気が爆ぜるような衝撃波が騎士たちを襲った。
物理的な破壊ではない。精神を直接叩き潰すような、圧倒的な「格」の差による威圧だ。
「……っ!? なんだ、このプレッシャーは……!」
騎士たちが次々と膝をつき、武器を落としていく。
その光景を背後で見守っていたローレンスは、負傷した肩の痛みも忘れ、陶酔しきった瞳でアテナの背中を見つめていた。
「ああ……。なんと美しく、気高い……」
ローレンスはふらふらと歩み寄り、アテナの背後に跪いた。
血に染まった手で彼女のドレスの端を掴み、熱烈な信者のように首を垂れる。
「アテナ。貴女のその怒り、その傲慢さこそが私の救いだ。……もっと、もっと世界を跪かせてください。私はそのための剣となり、盾となり、貴女の敵をすべて地獄へ送り届けましょう」
「ローレンス。……貴方の手当が先よ。私の騎士を、これ以上無様に傷ついたままにさせないで」
アテナは振り返り、彼に手を差し伸べた。
怒りに燃える瞳の中には、彼への深い慈愛が同居している。
「……仰せのままに、我が女神」
ローレンスは彼女の手をとり、恍惚とした表情でその指先に口づけを落とした。
追い詰められていたはずの二人の立場は、この瞬間、完全に逆転した。
「さあ、行きましょう。……エドワード、リリア。貴方たちが守りたかったその小さな『王座』を、根底から腐らせてあげるわ」
追っ手たちが恐怖に震える中、二人は悠然と闇の中へと消えていった。
それは「悪役令嬢」が、真に世界を支配する「女王」へと覚醒した瞬間でもあった。
その熱を感じた瞬間、アテナの脳内で何かが静かに、けれど決定的に弾けた。
今まで抑えていた「公爵令嬢」としての矜持が、激しい憤りとなって全身を駆け巡る。
「……ローレンス、私を下ろしなさい」
「アテナ? 何を……。まだ敵が残っています、危険だ」
「いいから、下ろしなさい」
拒絶を許さない冷徹な声。
ローレンスは戸惑いながらも、アテナの気圧されるような迫力に押され、彼女をそっと地面に立たせた。
アテナはドレスの裾を汚すことも厭わず、一歩、また一歩と、自分たちを包囲する騎士たちの前へ進み出た。
その瞳は、王都で「氷の悪役令嬢」と恐れられていた時よりも鋭く、凍てつくような光を放っている。
「……下がりなさい。不敬者が」
凛とした声が森の空気を震わせた。
槍を構えていた騎士たちが、思わず息を呑み、後ずさりする。
「な、何を言っている! 貴様は国外追放された罪人だ! 大人しく捕縛されろ!」
隊長格の男が虚勢を張るが、その声は微かに震えていた。
アテナは冷笑を浮かべ、扇を持つかのように優雅に手を掲げた。
「罪人? 誰が決めたのかしら。証拠を捏造し、私欲のために私を陥れた、あの愚かな王太子? ……笑わせないで。公爵家の正当な血筋である私を裁く権利など、あの男にはないわ」
「黙れ! これ以上の侮辱は――」
「侮辱されているのは私の方よ! ……見てなさい。私の『唯一の騎士』に傷を負わせたこと、その命を以て後悔させてあげる」
アテナの周囲に、魔力の奔流が渦巻いた。
彼女は武の才能こそないが、公爵令嬢として受けた英才教育により、高密度の魔力操作を体得している。
「畏れを知りなさい。貴方たちが今、刃を向けているのは……いずれこの国を、あるいは世界の理を塗り替える者よ」
アテナが指先を弾くと、大気が爆ぜるような衝撃波が騎士たちを襲った。
物理的な破壊ではない。精神を直接叩き潰すような、圧倒的な「格」の差による威圧だ。
「……っ!? なんだ、このプレッシャーは……!」
騎士たちが次々と膝をつき、武器を落としていく。
その光景を背後で見守っていたローレンスは、負傷した肩の痛みも忘れ、陶酔しきった瞳でアテナの背中を見つめていた。
「ああ……。なんと美しく、気高い……」
ローレンスはふらふらと歩み寄り、アテナの背後に跪いた。
血に染まった手で彼女のドレスの端を掴み、熱烈な信者のように首を垂れる。
「アテナ。貴女のその怒り、その傲慢さこそが私の救いだ。……もっと、もっと世界を跪かせてください。私はそのための剣となり、盾となり、貴女の敵をすべて地獄へ送り届けましょう」
「ローレンス。……貴方の手当が先よ。私の騎士を、これ以上無様に傷ついたままにさせないで」
アテナは振り返り、彼に手を差し伸べた。
怒りに燃える瞳の中には、彼への深い慈愛が同居している。
「……仰せのままに、我が女神」
ローレンスは彼女の手をとり、恍惚とした表情でその指先に口づけを落とした。
追い詰められていたはずの二人の立場は、この瞬間、完全に逆転した。
「さあ、行きましょう。……エドワード、リリア。貴方たちが守りたかったその小さな『王座』を、根底から腐らせてあげるわ」
追っ手たちが恐怖に震える中、二人は悠然と闇の中へと消えていった。
それは「悪役令嬢」が、真に世界を支配する「女王」へと覚醒した瞬間でもあった。
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