裏切りの騎士は悪役令嬢を溺愛していた

桜井ことり

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王都の中央広場には、地を揺るがすような大歓声が響き渡っていた。

かつてアテナを「悪女」と罵り、石を投げようとした民衆たちは今、その場に跪き、あるいは涙を流して彼女の名を呼んでいる。

バルコニーに立つアテナの隣には、公爵家によって集められた確固たる証拠の数々が掲げられていた。
エドワード王子の廃嫡と、アテナの潔白は、今や疑いようのない真実として国中に知れ渡ったのだ。

「……信じられないわ。あんなに私を嫌っていた人たちが、今はあんなに温かい声を上げているなんて」

アテナは眩しそうに目を細め、眼下に広がる群衆を眺めた。

「当然の結果ですよ、アテナ。貴女は元々、彼らに愛されるべき気高い花だった。あの愚かな男たちが、泥を塗って隠していただけに過ぎません」

ローレンスはアテナの背後に立ち、その細い腰を誇らしげに抱き寄せた。
彼は公的な場であることも構わず、アテナの肩に顎を乗せ、親密さを周囲に誇示している。

「ローレンス、みんなが見ているわ。……少しは離れてちょうだい」

「嫌です。ようやく貴女の潔白が証明されたのです。この世界中の人々に、貴女が誰のものかを知らしめる絶好の機会ではありませんか」

ローレンスはそう言うと、バルコニーの手すりまで歩み寄り、片手を高く上げた。
騎士団長としての威厳と、帝国の皇子としての覇気が混ざり合った圧倒的な存在感に、広場が静まり返る。

「聞け、王国の民よ! アテナ・ヴァン・ベルクールを虐げた報いは、既に王太子と男爵令嬢がその身を以て受けている!」

彼の声は、魔法の増幅なしでも広場の隅々まで明瞭に響いた。

「これより、アテナは私の祖国であるガルディア帝国へ向かう。彼女を『悪役令嬢』と呼んだこの国を捨て、帝国の、そして私の『唯一の太陽』として君臨するために!」

広場から、驚きと祝福の入り混じった叫びが上がる。

「アテナ様、行かないで!」「私たちの無礼を許してください!」

そんな懇願の声も、ローレンスの耳には届かない。
彼はアテナの手をとり、その甲に深々と接吻した。

「……アテナ。この国の人々は、貴女の価値に気づくのが遅すぎた。……ですが、私は最初から知っていました。貴女こそが、私の魂を救う唯一の救済者であることを」

「ローレンス……。貴方の愛は、いつだって重くて、真っ直ぐね」

アテナは優しく微笑み、彼の頬に手を添えた。

「ええ。この国を救う慈悲など、私にはありません。ですが、貴女一人のために世界を焼き尽くす覚悟なら、いつだってできています。……アテナ、私と共に来てくれますね?」

「……ええ。どこまでも、貴方の隣に。……最強の騎士様」

アテナが応えると、ローレンスは歓喜に震える瞳で彼女を抱き上げ、広場の人々に見せつけるように高く掲げた。

それは、冤罪の令嬢としての終わりであり、愛される女性としての、輝かしい始まりだった。
民衆の歓声は止むことなく、二人の旅立ちを祝福する鐘の音が、夕暮れの空に高く鳴り響いた。

「真実の愛」は、こうして世界に証明された。
だが、ローレンスにとっての「証明」は、まだ始まったばかりであった。
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