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きらびやかなシャンデリアの光が、着飾った紳士淑女たちを照らし出す。
王立アカデミーの卒業を祝うパーティーは、今宵一番の盛り上がりを見せていた。
その中でも一際、人々の視線を集めているのが、プルメリア子爵令嬢、リンユウ・プルメリアだ。
濡れたような艶を持つ黒髪に、宝石のような紫の瞳。薔薇色の唇は、ただそこに存在するだけで扇情的だった。
誰もが認める絶世の美女。そして、ブライアン侯爵家の嫡男アリウスの、完璧な婚約者。
「リンユウ様、今宵も本当にお美しいですわ」
「ありがとうございます。あなたも素敵なドレスね」
取り巻きの令嬢たちに当たり障りのない笑みを返しながら、リンユウは少しだけ退屈していた。
婚約者であるアリウスは、先ほどから姿が見えない。
まあ、いいわ。彼がいなくとも、私の価値は変わらないもの。
そう思ってシャンパンに口をつけた、その時だった。
「リンユウ・プルメリア!」
パーティー会場に響き渡った、怒りを孕んだ声。
声の主は、探し人であるアリウス・ブライアン。
彼の腕には、か弱い小動物のようにしがみつく令嬢の姿があった。確か、下級貴族の……ローリエ男爵令嬢、エラ。
「アリウス様、どうなさいましたの?そのような大声を出されて」
リンユウが優雅に問い返すと、アリウスは蔑むような視線を彼女に向けた。
「しらばっくれるな! 君との婚約を、今この場をもって破棄させてもらう!」
その言葉に、会場が一瞬で水を打ったように静まり返る。
全ての視線が、リンユウ、アリウス、そしてエラの三人に突き刺さった。
「……まあ」
リンユウは小さく呟き、扇で口元を隠す。その瞳は、驚きよりも先に、冷ややかな光を宿していた。
「アリウス様……。プルメリア様、申し訳ありません……。私が、私が至らないばかりに……」
エラが震える声で、今にも泣き出しそうにアリウスを見上げる。
その姿は、悪女に虐げられた可憐なヒロインそのものだった。
「エラ、君は悪くない。悪いのは全て、この女の嫉妬深さだ!」
アリウスはそう叫び、リンユウを指さす。
「君はいつもそうだ! その美貌を鼻にかけ、私以外の男と親しく話し、あまつさえ、私に近づく者を片っ端から虐げてきた! この可憐なエラが、君にどれだけ陰湿ないじめを受けてきたことか!」
「……」
「もう我慢ならない! 君のような傲慢で心の醜い女は、私の隣にふさわしくない! 私が本当に愛しているのは、清らかで心優しいエラただ一人だ!」
高らかに愛を宣言するアリウス。
会場は、ざわめきで満ちていた。
「やはりリンユウ様は……」「なんて可哀想なエラ様とアリウス様……」
同情は、完全に新しい恋人たちへと注がれている。
絶体絶命。
誰もがそう思い、リンユウが泣き崩れるか、あるいは怒りに震える姿を想像した。
しかし。
「……お話は、それだけですの?」
凛、と響いた声は、あまりにも落ち着いていた。
リンユウはゆっくりと扇を閉じ、完璧な笑みを浮かべる。
「そのような大事なことを、このような場所で宣言なさるなんて。ブライアン侯爵様は、随分と見世物がお好きのようですわね」
「なっ……なんだと!?」
予想外の反応に、アリウスがたじろぐ。
「わたくし、何か申し上げるべきかしら? ああ、そうですわね」
リンユウは一つ、こくりと頷くと、アリウスと、その腕の中にいるエラを交互に見た。
「婚約破棄、謹んでお受けいたしますわ」
「な……」
「どうぞ、その方とお幸せに。わたくし、もう失礼させていただきます」
言い終えると同時に、リンユウはヒールを鳴らして踵を返した。
その背筋はどこまでも真っ直ぐで、少しの乱れもない。
まるで、最初から何も無かったかのように。
「ま、待て、リンユウ! これで終わりだと思うなよ!」
背後からアリウスの焦ったような声が聞こえたが、リンユウは振り返らない。
(終わり? いいえ、始まりよ)
口の端に浮かんだ笑みは、誰にも見られることはなかった。
こうして、悪役令嬢リンユウ・プルメリアは、卒業パーティーの主役の座を追われ、婚約者に捨てられた。
少なくとも、そこにいた誰もが、そう思っていた。
王立アカデミーの卒業を祝うパーティーは、今宵一番の盛り上がりを見せていた。
その中でも一際、人々の視線を集めているのが、プルメリア子爵令嬢、リンユウ・プルメリアだ。
濡れたような艶を持つ黒髪に、宝石のような紫の瞳。薔薇色の唇は、ただそこに存在するだけで扇情的だった。
誰もが認める絶世の美女。そして、ブライアン侯爵家の嫡男アリウスの、完璧な婚約者。
「リンユウ様、今宵も本当にお美しいですわ」
「ありがとうございます。あなたも素敵なドレスね」
取り巻きの令嬢たちに当たり障りのない笑みを返しながら、リンユウは少しだけ退屈していた。
婚約者であるアリウスは、先ほどから姿が見えない。
まあ、いいわ。彼がいなくとも、私の価値は変わらないもの。
そう思ってシャンパンに口をつけた、その時だった。
「リンユウ・プルメリア!」
パーティー会場に響き渡った、怒りを孕んだ声。
声の主は、探し人であるアリウス・ブライアン。
彼の腕には、か弱い小動物のようにしがみつく令嬢の姿があった。確か、下級貴族の……ローリエ男爵令嬢、エラ。
「アリウス様、どうなさいましたの?そのような大声を出されて」
リンユウが優雅に問い返すと、アリウスは蔑むような視線を彼女に向けた。
「しらばっくれるな! 君との婚約を、今この場をもって破棄させてもらう!」
その言葉に、会場が一瞬で水を打ったように静まり返る。
全ての視線が、リンユウ、アリウス、そしてエラの三人に突き刺さった。
「……まあ」
リンユウは小さく呟き、扇で口元を隠す。その瞳は、驚きよりも先に、冷ややかな光を宿していた。
「アリウス様……。プルメリア様、申し訳ありません……。私が、私が至らないばかりに……」
エラが震える声で、今にも泣き出しそうにアリウスを見上げる。
その姿は、悪女に虐げられた可憐なヒロインそのものだった。
「エラ、君は悪くない。悪いのは全て、この女の嫉妬深さだ!」
アリウスはそう叫び、リンユウを指さす。
「君はいつもそうだ! その美貌を鼻にかけ、私以外の男と親しく話し、あまつさえ、私に近づく者を片っ端から虐げてきた! この可憐なエラが、君にどれだけ陰湿ないじめを受けてきたことか!」
「……」
「もう我慢ならない! 君のような傲慢で心の醜い女は、私の隣にふさわしくない! 私が本当に愛しているのは、清らかで心優しいエラただ一人だ!」
高らかに愛を宣言するアリウス。
会場は、ざわめきで満ちていた。
「やはりリンユウ様は……」「なんて可哀想なエラ様とアリウス様……」
同情は、完全に新しい恋人たちへと注がれている。
絶体絶命。
誰もがそう思い、リンユウが泣き崩れるか、あるいは怒りに震える姿を想像した。
しかし。
「……お話は、それだけですの?」
凛、と響いた声は、あまりにも落ち着いていた。
リンユウはゆっくりと扇を閉じ、完璧な笑みを浮かべる。
「そのような大事なことを、このような場所で宣言なさるなんて。ブライアン侯爵様は、随分と見世物がお好きのようですわね」
「なっ……なんだと!?」
予想外の反応に、アリウスがたじろぐ。
「わたくし、何か申し上げるべきかしら? ああ、そうですわね」
リンユウは一つ、こくりと頷くと、アリウスと、その腕の中にいるエラを交互に見た。
「婚約破棄、謹んでお受けいたしますわ」
「な……」
「どうぞ、その方とお幸せに。わたくし、もう失礼させていただきます」
言い終えると同時に、リンユウはヒールを鳴らして踵を返した。
その背筋はどこまでも真っ直ぐで、少しの乱れもない。
まるで、最初から何も無かったかのように。
「ま、待て、リンユウ! これで終わりだと思うなよ!」
背後からアリウスの焦ったような声が聞こえたが、リンユウは振り返らない。
(終わり? いいえ、始まりよ)
口の端に浮かんだ笑みは、誰にも見られることはなかった。
こうして、悪役令嬢リンユウ・プルメリアは、卒業パーティーの主役の座を追われ、婚約者に捨てられた。
少なくとも、そこにいた誰もが、そう思っていた。
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