〘完結〛婚約破棄されて私が幸せの悪役令嬢でごめんなさい

桜井ことり

文字の大きさ
11 / 40

11

しおりを挟む
求婚の手紙の山を片付けたリンユウは、自室のテラスで、ゆっくりと自分の将来について考えていた。

「結婚、結婚、結婚……。皆様、そればかり」

ため息をつきながら、眼下に広がる庭園を眺める。
もちろん、いつかは愛する人と結ばれ、家庭を築きたいという思いはある。
だが、それが人生の全てだとは思えなかった。

(わたくしは、わたくしの力で何かを成し遂げたい)

アリウスとの婚約期間中、リンユウはずっと、侯爵家の嫁として完璧であることだけを求められてきた。
自分の意見を言えば「生意気だ」と窘められ、新しい知識を求めれば「女に学問は不要だ」と笑われた。
今、その軛から解放されたのだ。
もっと、自由に、自分の可能性を試してみたい。

(わたくしに、何ができるかしら……)

リンユウは、自分の過去を振り返る。
アカデミーでは、歴史や文学も好きだったが、一番夢中になったのは薬草学や植物学だった。
母方の祖母が薬草に詳しく、幼い頃からその知識を教え込まれていたのだ。

(薬草……、植物……)

その時、ふと故郷の領地、プルメリア領の光景が脳裏に浮かんだ。
プルメリア領は、王都からは少し離れた、自然豊かな土地だ。
特に、日当たりの良い丘陵地帯では、質の良いハーブや、甘く香り高い果物がたくさん採れる。

「……これだわ」

リンユウの紫の瞳が、きらりと輝いた。

「プルメリア領の特産品を使って、何か新しいものを作れないかしら」

例えば、ラベンダーやカモミールを使った、肌に優しい化粧品。
あるいは、採れすぎた果物を使った、長期保存できるジャムやコンポート。
領地の女性たちに仕事を与えることもできるかもしれない。
考えれば考えるほど、夢は広がっていく。

「決めたわ」

リンユウは、椅子から立ち上がると、すぐさま父であるプルメリア子爵の書斎へ向かった。

「お父様、今、よろしいでしょうか」

「おお、リンユウか。どうした?」

リンユウは、父の前に立つと、きっぱりとした声で告げた。

「わたくし、事業を始めたいと存じます」

「……じ、事業?」

アラン子爵は、目を丸くした。

「ええ。プルメリア領のハーブや果物を使って、化粧品やお菓子を作り、王都で販売したいのです。これは、必ずや我が領地の新たな産業となり、領民たちの生活を豊かにするはずです」

リンユウは、立て板に水のごとく、自分の計画を語った。
市場の調査、商品の具体的なアイデア、販売計画、そして、この事業がもたらすであろう利益について。
それは、令嬢の思い付きのお遊びなどではなかった。
緻密に計算された、本格的な事業計画だった。

話を聞き終えたアランは、しばらく黙り込んでいた。
そして、やがて、その顔に満足げな笑みを浮かべた。

「……面白い」

「お父様!」

「お前が、そこまで考えているとは思わなかった。さすがは、わしの娘だ」

アランは、椅子から立ち上がると、リンユウの肩に手を置いた。

「良いだろう。やってみなさい。資金のことは心配するな。この父が、お前の最初の支援者になってやろう」

「……!ありがとうございます、お父様!」

父からの力強い言葉に、リンユウの胸は熱くなった。
もう、自分を縛るものは何もない。
自分の足で、新しい道を歩き出すのだ。
悪役令嬢と呼ばれた少女の、本当の人生が、今、幕を開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

処理中です...