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3年の時が経ち、部屋を出た
引きこもり始めてから、ちょうど3年が経った朝だった。
私は、ゆっくりとベッドから身を起こした。
いつもは閉め切っている分厚いカーテンの隙間から、一筋の朝日が差し込んでいる。
部屋の中を漂う埃が、光の筋の中でキラキラと舞っていた。
穏やかな朝だった。
あれほど私を苛んでいた絶望も、自己嫌悪も、まるで嵐が過ぎ去った後のように、静かに凪いでいた。
心の中は、空っぽで、でも不思議と澄み渡っている。
私はおもむろに立ち上がると、埃をかぶった姿見の前に立った。
そこに映っていたのは、私の知らない女だった。
頬はこけ、肌は陽の光を浴びていないせいで病的に白い。
長く手入れをしなかった髪は、艶を失ってパサパサになっていた。
かつての、華やかで傲慢なセレナード・リンクスの面影はどこにもない。
でも。
鏡の中の女の瞳は、驚くほど静かだった。
そこにはもう、嫉妬や不安に揺れる、かつての光はない。
ただ、深く、静かな湖のような、穏やかな光だけが宿っていた。
(これが、今のわたくし……)
私は、そっと自分の頬に触れた。
醜いかもしれない。
みすぼらしいかもしれない。
でも、不思議と嫌ではなかった。
これが、3年間、自分自身と向き合い続けた、私の「結果」なのだ。
もう、いい。
私は、この部屋を出よう。
謝らなければならない人たちがいる。
お父様、お母様、お兄様。
そして、フランをはじめとする、屋敷のみんなに。
3年間、心配と迷惑をかけたことを、心から謝りたい。
許してもらえないかもしれない。
それでも、伝えなければ。
私は、ゆっくりと扉に向かった。
3年間、一度も触れなかった、冷たい真鍮のドアノブ。
その上にある鍵に、そっと手をかける。
ギ、と錆び付いたような、小さな音がした。
カシャン。
3年間、私を外の世界から隔てていた鍵が、静かに開いた。
私は、一度深く息を吸い込む。
そして、ゆっくりと、扉を押し開いた。
キィィ……という、長い軋む音と共に、廊下の光が部屋の中に差し込んでくる。
埃っぽい、懐かしい匂い。
3年ぶりに踏み出す、一歩。
それは、新しい私が、この世界に生まれ落ちた、最初の産声のようだった。
引きこもり始めてから、ちょうど3年が経った朝だった。
私は、ゆっくりとベッドから身を起こした。
いつもは閉め切っている分厚いカーテンの隙間から、一筋の朝日が差し込んでいる。
部屋の中を漂う埃が、光の筋の中でキラキラと舞っていた。
穏やかな朝だった。
あれほど私を苛んでいた絶望も、自己嫌悪も、まるで嵐が過ぎ去った後のように、静かに凪いでいた。
心の中は、空っぽで、でも不思議と澄み渡っている。
私はおもむろに立ち上がると、埃をかぶった姿見の前に立った。
そこに映っていたのは、私の知らない女だった。
頬はこけ、肌は陽の光を浴びていないせいで病的に白い。
長く手入れをしなかった髪は、艶を失ってパサパサになっていた。
かつての、華やかで傲慢なセレナード・リンクスの面影はどこにもない。
でも。
鏡の中の女の瞳は、驚くほど静かだった。
そこにはもう、嫉妬や不安に揺れる、かつての光はない。
ただ、深く、静かな湖のような、穏やかな光だけが宿っていた。
(これが、今のわたくし……)
私は、そっと自分の頬に触れた。
醜いかもしれない。
みすぼらしいかもしれない。
でも、不思議と嫌ではなかった。
これが、3年間、自分自身と向き合い続けた、私の「結果」なのだ。
もう、いい。
私は、この部屋を出よう。
謝らなければならない人たちがいる。
お父様、お母様、お兄様。
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3年間、心配と迷惑をかけたことを、心から謝りたい。
許してもらえないかもしれない。
それでも、伝えなければ。
私は、ゆっくりと扉に向かった。
3年間、一度も触れなかった、冷たい真鍮のドアノブ。
その上にある鍵に、そっと手をかける。
ギ、と錆び付いたような、小さな音がした。
カシャン。
3年間、私を外の世界から隔てていた鍵が、静かに開いた。
私は、一度深く息を吸い込む。
そして、ゆっくりと、扉を押し開いた。
キィィ……という、長い軋む音と共に、廊下の光が部屋の中に差し込んでくる。
埃っぽい、懐かしい匂い。
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それは、新しい私が、この世界に生まれ落ちた、最初の産声のようだった。
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