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19話
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カフェなのかバーなのかわからないけど、なんだかいい雰囲気のお店は薄暗く、甘いインセンスの香りが漂っていた。
店員さんはお好きな席にどうぞと言った途端に絢子さんは窓側の席に向かう。
その席はどう考えてもカップルシートとしか思えない小さめのソファが置かれていた。
「ここでいい?」
「あ、はい」
コートを脱いで、足元にあるカゴにバッグとコートを入れた絢子さんは何突っ立ってんの?と隣の席をツンツンと指差し座る様に促している。
俺も上着を脱いでカバンと共に足元のカゴに置いたけど、俺が座るべきソファのスペースはあまりにも絢子さんに近く、情けないけどほんの少しの隙間を開けて座るほかなかった。
「何この隙間。もっとゆったり座りなよ」
僕の腕を掴んで、引き寄せられる。為されるがままだ。
「蜂谷君は意気地なしなのか、私に興味がないのかどっち?……ていうか私本当はこういう事出来るタイプじゃないんだけどなぁ」
「い、いや、そういうわけじゃなくて…すいません。だけどこれは緊張しちゃいますって」
店員さんがやってきて絢子さんはよくわからない名前のカクテルを注文して、俺は訳もわからずビールを注文した。
緊張して何も話せずにいると二つの飲み物がテーブルに置かれた。
「とりあえずカンパイしよ?」
ゆっくりとグラスを持ち上げ、軽く淵を合わせる。絢子さんはカクテルに少しだけ口をつけた。真似したわけじゃないけど、俺も少しだけ口に含んだ。妙な緊張で苦味が口に残る。
何も話さない絢子さんの方をチラッと見ると、とんでもなく物憂げな表情をしている。
ふうっとひと息ついて俺の方を向く。
「あのさ……今回のプロジェクトの件で管理職が転勤になるかもって話覚えてる?」
「はい、誰なんですかね」
「それね、私なんだ。本社に転勤だって」
「え?マジっすか?いつですか?」
こんな時期に移動なんて珍しいタイミングだ。半期でも年度末でもなんでもないのに。
「今月いっぱいで支社から移動なの。すごい急じゃない?」
「ていうか、綾子さんいないとヤバい事になりません?」
「君たちのコンビならなんとかなるでしょ。一応他の主任達にフォロー頼んでるから大丈夫なんだけどさ」
「いや、なんとか頑張りますけどね。どうかな」
「なんか今回のプロジェクトのチームが上手く回ってないみたいでね。チームのリーダーの補佐してくれないかって」
「それって大抜擢ですよ。すごいじゃないですか」
めでたい事だけど、絢子さんは浮かない表情だ。
「すごいでしょ。すごいのよ、私って。ふふっ」
そう言って力なく笑う。
「そうなんだ。すごいなぁ、絢子さん」
俺も頑張らないとなぁと思う。
だけど絢子さんがいなくなるのは嫌だな。
単純に寂しくなるのもそうだし、頼れる人がいなくなるのは不安だ。
「本社っていっても、今のオフィスとはそんなに離れてないし通勤時間だってほとんど変わらないしね。知った顔も多いからさ。ありがたい事なんだけどね……」
「何か心配な事でもあるんですか?」
この感じは明らかに何か気になってるよな。
「そうね……ある。とても気になる事」
「なんですか?移動までに何か協力出来る事あれば言って下さい」
絢子さんはカクテルを一気に喉に流し込み、勢いよくテーブルに置くと、その手を俺の腕に絡めて密着してきた。
「蜂谷君の事……最大の心残りだよ」
「俺……ですか」
この状況は、そういう事なんだと思うけど……まさか俺の事をそうやって見てくれていたなんて。
確かにいつも声かけてくれるし、朝も帰りも挨拶してくれる。谷山とセットで挨拶してくれてると思ってたけど、あれは俺のところにわざわざ来てくれてたのか?
そういえばいつま仕事中も気にかけてくれてたし……まさか妙にボディタッチ多かったのは俺だけだったのか?
「こんなタイミングで移動なんてね。ホント最悪。谷山君が蜂谷君に女の子紹介するとかさ、ホントは気が気じゃなくてさぁ。しかも、なんか上手くいってるみたいだし。ていうか私が前からアプローチしてたの気付かなかったの?」
ちょっと混乱してきた。
嬉しい事なんだけど。
「すいません……でも俺だって…いや、すいません」
「なんかね…蜂谷君って私の事ちょっと気に入ってくれてるのかなって思ってた。もう少し時間があればよかったのに。ライバルは出てくるし、そんな時に移動とかってさ。どうなってんのよぉ」
俺の腕を掴んで揺さぶる。
こんなかわいい絢子さんは初めて見た。
「ホントどうなってるんでしょうね」
間の抜けた事しか言えない自分が情けない。
「何それ。ムカつく。こんなに自分に見合わない事しちゃうくらい蜂谷君の事好きなのに。ねぇ、私、ホントに蜂谷君の事好きなの」
これって側から見たらカップルシートでいちゃつきながら耳元で囁き合ってる様にしか見えないんだろうな。
とか考えてたけど、絢子さんは店員さんにカクテルのおかわりを次々と注文してる。
「ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです。絢子さんの言う通り俺も絢子さんの事気になってました。でも……」
「でも……なに?谷山君に紹介してもらった子が気になるの?」
ちょっと飲み過ぎじゃない?
どんどん絢子さんの身体が近くなっている。
これはマズい。俺も良からぬ期待が沸々と沸き出してきた。健全な男子としては当然の反応だと思うけど。
「その子の事がどうとかっていうのは……正直まだわかりません」
咄嗟に嘘をついてしまったけど、ナオちゃんの事は好きになっていると自分では思っている。
「そうなの?蜂谷君に告白しちゃったのって先走りしすぎたのかな?えー、めっちゃ空回りしちゃってるじゃん。今日しかないって思ったのに」
「いや、空回りだなんて。そんな事ないです、ホントありがたいです。絢子さんの事、憧れていたのは事実ですから。カッコいいし、めっちゃ面倒見いいし、仕事出来るし。それと……」
自分でもよくわからなくなってきた。雰囲気にやられかけてるかもしれない。
「それと?」
俺の腕を掴んで少し上目遣いで睨んでる。
ヤバい!綾子さんかわいすぎるって!
店員さんはお好きな席にどうぞと言った途端に絢子さんは窓側の席に向かう。
その席はどう考えてもカップルシートとしか思えない小さめのソファが置かれていた。
「ここでいい?」
「あ、はい」
コートを脱いで、足元にあるカゴにバッグとコートを入れた絢子さんは何突っ立ってんの?と隣の席をツンツンと指差し座る様に促している。
俺も上着を脱いでカバンと共に足元のカゴに置いたけど、俺が座るべきソファのスペースはあまりにも絢子さんに近く、情けないけどほんの少しの隙間を開けて座るほかなかった。
「何この隙間。もっとゆったり座りなよ」
僕の腕を掴んで、引き寄せられる。為されるがままだ。
「蜂谷君は意気地なしなのか、私に興味がないのかどっち?……ていうか私本当はこういう事出来るタイプじゃないんだけどなぁ」
「い、いや、そういうわけじゃなくて…すいません。だけどこれは緊張しちゃいますって」
店員さんがやってきて絢子さんはよくわからない名前のカクテルを注文して、俺は訳もわからずビールを注文した。
緊張して何も話せずにいると二つの飲み物がテーブルに置かれた。
「とりあえずカンパイしよ?」
ゆっくりとグラスを持ち上げ、軽く淵を合わせる。絢子さんはカクテルに少しだけ口をつけた。真似したわけじゃないけど、俺も少しだけ口に含んだ。妙な緊張で苦味が口に残る。
何も話さない絢子さんの方をチラッと見ると、とんでもなく物憂げな表情をしている。
ふうっとひと息ついて俺の方を向く。
「あのさ……今回のプロジェクトの件で管理職が転勤になるかもって話覚えてる?」
「はい、誰なんですかね」
「それね、私なんだ。本社に転勤だって」
「え?マジっすか?いつですか?」
こんな時期に移動なんて珍しいタイミングだ。半期でも年度末でもなんでもないのに。
「今月いっぱいで支社から移動なの。すごい急じゃない?」
「ていうか、綾子さんいないとヤバい事になりません?」
「君たちのコンビならなんとかなるでしょ。一応他の主任達にフォロー頼んでるから大丈夫なんだけどさ」
「いや、なんとか頑張りますけどね。どうかな」
「なんか今回のプロジェクトのチームが上手く回ってないみたいでね。チームのリーダーの補佐してくれないかって」
「それって大抜擢ですよ。すごいじゃないですか」
めでたい事だけど、絢子さんは浮かない表情だ。
「すごいでしょ。すごいのよ、私って。ふふっ」
そう言って力なく笑う。
「そうなんだ。すごいなぁ、絢子さん」
俺も頑張らないとなぁと思う。
だけど絢子さんがいなくなるのは嫌だな。
単純に寂しくなるのもそうだし、頼れる人がいなくなるのは不安だ。
「本社っていっても、今のオフィスとはそんなに離れてないし通勤時間だってほとんど変わらないしね。知った顔も多いからさ。ありがたい事なんだけどね……」
「何か心配な事でもあるんですか?」
この感じは明らかに何か気になってるよな。
「そうね……ある。とても気になる事」
「なんですか?移動までに何か協力出来る事あれば言って下さい」
絢子さんはカクテルを一気に喉に流し込み、勢いよくテーブルに置くと、その手を俺の腕に絡めて密着してきた。
「蜂谷君の事……最大の心残りだよ」
「俺……ですか」
この状況は、そういう事なんだと思うけど……まさか俺の事をそうやって見てくれていたなんて。
確かにいつも声かけてくれるし、朝も帰りも挨拶してくれる。谷山とセットで挨拶してくれてると思ってたけど、あれは俺のところにわざわざ来てくれてたのか?
そういえばいつま仕事中も気にかけてくれてたし……まさか妙にボディタッチ多かったのは俺だけだったのか?
「こんなタイミングで移動なんてね。ホント最悪。谷山君が蜂谷君に女の子紹介するとかさ、ホントは気が気じゃなくてさぁ。しかも、なんか上手くいってるみたいだし。ていうか私が前からアプローチしてたの気付かなかったの?」
ちょっと混乱してきた。
嬉しい事なんだけど。
「すいません……でも俺だって…いや、すいません」
「なんかね…蜂谷君って私の事ちょっと気に入ってくれてるのかなって思ってた。もう少し時間があればよかったのに。ライバルは出てくるし、そんな時に移動とかってさ。どうなってんのよぉ」
俺の腕を掴んで揺さぶる。
こんなかわいい絢子さんは初めて見た。
「ホントどうなってるんでしょうね」
間の抜けた事しか言えない自分が情けない。
「何それ。ムカつく。こんなに自分に見合わない事しちゃうくらい蜂谷君の事好きなのに。ねぇ、私、ホントに蜂谷君の事好きなの」
これって側から見たらカップルシートでいちゃつきながら耳元で囁き合ってる様にしか見えないんだろうな。
とか考えてたけど、絢子さんは店員さんにカクテルのおかわりを次々と注文してる。
「ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいです。絢子さんの言う通り俺も絢子さんの事気になってました。でも……」
「でも……なに?谷山君に紹介してもらった子が気になるの?」
ちょっと飲み過ぎじゃない?
どんどん絢子さんの身体が近くなっている。
これはマズい。俺も良からぬ期待が沸々と沸き出してきた。健全な男子としては当然の反応だと思うけど。
「その子の事がどうとかっていうのは……正直まだわかりません」
咄嗟に嘘をついてしまったけど、ナオちゃんの事は好きになっていると自分では思っている。
「そうなの?蜂谷君に告白しちゃったのって先走りしすぎたのかな?えー、めっちゃ空回りしちゃってるじゃん。今日しかないって思ったのに」
「いや、空回りだなんて。そんな事ないです、ホントありがたいです。絢子さんの事、憧れていたのは事実ですから。カッコいいし、めっちゃ面倒見いいし、仕事出来るし。それと……」
自分でもよくわからなくなってきた。雰囲気にやられかけてるかもしれない。
「それと?」
俺の腕を掴んで少し上目遣いで睨んでる。
ヤバい!綾子さんかわいすぎるって!
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