転生したら最強の神具を持っていた!~無自覚英雄は今日ものんびり街を救う~

にゃ-さん

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第1話 過労死したら見知らぬ女神がいた

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深夜のオフィスは、蛍光灯の白い光だけが虚ろに灯っていた。  
パソコンの画面に映る未処理の案件数は残り百二十七件。  
椅子にもたれた青年——三上タクトは、乾いた笑いを漏らした。

「終わるわけ…ないよな、これ……」

ブラック企業。それ以外の言葉が見つからない。  
終電なんてとっくに逃し、昨日からろくに休憩も取っていない。  
統計資料をまとめながら、ふと視界の端が滲んだ。頭が痛い。胸も重い。  
それでも彼は、惰性のようにマウスを動かした。

「あと少し……終わったら帰って…カップ麺食べて寝よ……」

その「少し」に到達する前に、彼の意識はふっと途切れた。

——次に目を覚ましたとき、天井は金色に輝いていた。

「……………………あれ?」

見慣れない豪奢な部屋だった。壁には見たこともない文様。  
床に敷かれた絨毯は、雲のように柔らかい。  
そして目の前には、光の粒を纏った女性が立っていた。

「ようこそ、選ばれし者タクトよ。」

金髪で碧眼の、まるで神話から抜け出したような美貌。  
白いドレスの裾が風もないのに揺らめき、部屋全体に柔らかな光が広がる。

「えっと……ここ、どこですか?っていうか、生きてますよね俺?」

「残念ながら、それは否よ。あなたは、あなたの世界で寿命を迎えたの。」

「ええ!? 寿命!? あんなの過労死って言うんですよ?!」

「はい、そう。過労死です。」

即答だった。

タクトは頭を抱えた。  
まさか死んだあとに、あっさり認められるとは。

「あなたの魂は、とてもまっすぐで努力家でした。そんなあなたに、私は新しい生を与えようと思います。」

「……転生、ってやつですか?」

「そう、それです。あなたは新しい世界――ここ以外の世界へと生まれ変わるの。」

なんだかテンプレじみた展開だなと、タクトは薄く笑う。  
疲労も不安も、今は不思議と感じない。

「ただし、一つだけ条件があります。」

「条件?」

「あなたには“神具”を持って転生してもらいます。」

女神の掌が光り、ひとつの腕輪が浮かび上がった。  
金属とも宝石とも言えない、不思議な輝き。  
円環の中央に淡い蒼の紋様が浮かび、微かに脈動しているようだった。

「これは“全能の腕輪(オムニア・ブレス)”。あなたの意思ひとつで、世界の理を変えることができます。」

「……それ、チートじゃないですか。」

「そう、チートです。」

また即答。

タクトは苦笑する。  
つい半日前まで、上司に怒鳴られながら残業していた自分が、いきなり“全能”とは。

「……でも俺、そんな偉そうなの、似合わないですよ。」

「あなたはもう、十分に頑張ってきたでしょう? 今度の人生は、好きに生きればいいのよ。」

女神の微笑みは、優しく温かかった。まるで休みなく働いていた自分を、すべて包み込む光のように。  
そして腕輪は光となってタクトの腕に絡みついた。

「転生の準備ができました。次に目を開けたとき、あなたは新しい世界にいます。」

女神の声が響き、タクトの意識が再び遠のいていく。

(俺、本当に……もう働かなくていいんだろうな……?)

——その問いの答えを知るのは、もう少しあとだった。

* * *

まぶしい朝の光。鳥のさえずり。  
タクトが目を覚ましたのは、草原の真ん中だった。  
青く澄んだ空が広がり、空気は驚くほど美味しい。

「うわ……異世界感すごい。」

自分の腕を見下ろすと、確かに金色の腕輪がついている。  
その表面に触れてみると、ふっと文字が浮かんだ。

――“使用者登録完了。ステータス解放しますか?”

「え、喋った!? ていうか選択式!?」

どこかから聞こえる音声通知のような声に驚きつつ、とりあえず口に出してみた。

「えっと……はい。」

瞬間、視界に光のパネルが展開された。まるでゲームのステータス画面のようだ。

――――――  
名前:三上タクト  
職業:無職(転生者)  
レベル:???  
HP:∞  
MP:∞  
攻撃力:∞  
防御力:∞  
スキル:全能権限、鑑定、創造、再構築  
――――――

「……いやいやいや、待て待て!無職なのに全能って何!?」

どう見てもチートの塊だった。  
目をこすっても変わらない。  
どこかで夢なんじゃないかと思ったが、頬をつねったら思い切り痛い。

「……本当に転生したのか……。」

そのとき、遠くから悲鳴が聞こえた。  
振り向くと、森の入口で一人の少女が魔物に囲まれている。  
狼のような魔獣が何匹もいっせいに飛びかかろうとしていた。

「うわ、やばい!誰か助けないと!」

タクトは反射的に駆け出した。  
足が異常に速い。風が身体を押し出す。  
気づくと少女との距離は一瞬で縮まり、狼たちの前に立っていた。

「お、お兄さん!?危ない、逃げて!」

「いや、えっと……どうすればいいんだろこれ。」

パニックになりつつ腕輪を見ると、ふわりと光が漏れた。  
その瞬間、狼たちが一斉に空中で止まった。

「……え?止まってる?」

まるで時間が止まったかのように、一匹残らずぴたりと動かない。  
試しに指を鳴らすと、蒼い光が走り、数秒後には狼たちが光の粒となって消えていった。

ぽかんとした少女の視線。  
何が起きたのか、タクト自身もよく分からなかった。

「あ、あの……助けてくださって、ありがとうございます!」

少女は膝をついて頭を下げた。  
栗色の髪に小さな杖を持った、若い魔法使いのようだ。

「い、いやそんな。俺、ただ光らせただけで。」

「そんな光らせ方、普通できません! 上級魔法師でも無理です!」

「う、うそ……?」

自分がとんでもないことをしたらしいと気づき、タクトは青ざめる。  
だが少女は感謝の眼差しを向けて微笑んだ。

「私はリリア。冒険者見習いです。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「えっと、タクトです。三上タクト。一応、人間……です、たぶん。」

「タクト様……助けていただいた御恩、一生忘れませんっ!」

「いや、“様”はいらないから!」

慌てて手を振るが、少女はきらきらした瞳で見つめてくる。  
気づけば周囲にいた他の冒険者たちも近づいていた。  
どうやらこの街の入り口近くの森だったらしい。

「おい、今の見たか? 一瞬で魔獣が消えたぞ!」  
「まさか……伝説の勇者様か!?」

「いやいやいや、違いますって!!」

必死で否定するタクト。だが、人々の視線はすでに英雄を見るように変わっていた。

こうして、転生早々“無自覚最強”の男が、知らぬ間に英雄として噂され始めるのだった。

(続く)
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