追放されたので辺境でスローライフしてたら、いつの間にか世界最強の無自覚賢者になっていて元婚約者たちが土下座してきた件

uzura

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第2話 ボロ小屋とボロ本と、ひとりきりの開拓生活

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その日、朝露に濡れた空気が澄んでいた。  
リオン・グレイアードは、辺境の地にあるボロ小屋の前で伸びをした。  
屋根は半分ほど抜け、壁には大きな隙間。木の床はきしみ、夜には冷たい風が吹き込む。  
だが王都での侮辱と絶望を思えば、この静けさが何よりの安らぎだった。

「うん、今日もいい天気だな。」

リオンは、独り言のように呟きながら、小さな畑に目をやる。  
昨日、古代語で詠った詠唱によって生まれた草花は、夜を越えてさらに成長していた。  
まだ芽吹いて一日しか経っていないのに、もう葉が青々と繁っている。

「やっぱり……普通の魔法じゃないよな。」

手帳を開き、試しに王立学園でも使っていた簡易魔力測定術を唱えてみる。  
淡い光の輪が浮かび上がり、彼の前に魔力値が表示された。

【総魔力量:測定不能】

「……測定不能って、そんなのあるか?」

額を押さえ、苦笑いが漏れる。  
学園時代はずっと「E」だった。魔法陣に指を当てても反応がなかったほどだ。  
辺境に来てから突然これだ。何がどうなっているのか、さっぱりわからない。  
だが、それでも不思議と焦りはなかった。

リオンは腰を下ろし、草の上に本を広げた。  
古めかしい文字が並ぶ、母から譲り受けた一冊。  
「アトラ・ノア・コーデックス」と表紙に刻まれている。  
学園にいた頃、教授にこの本を見せたとき、「ただの古代写本の模倣だ、価値はない」と鼻で笑われた。  
しかし今となっては、彼が一番信じられる相棒でもある。

ページをなぞると、指先に微かな熱が宿る。  
リオンの脳裏に、文字の意味が自然と浮かび上がる。  
彼が古代語を読める理由は不明だが、それを気に病むことももうなかった。

「さて、今日は川の方まで木を取りに行くか。」

小屋の修繕には材料がいる。斧を肩にかけ、リオンは森へと足を踏み入れた。  
辺境の森は王都の緑とは違う。荒々しい生命の気配に満ち、常に何かの鳴き声が響いている。  
魔物も多いと聞いていたが、身構えるより先に胸が高鳴った。  
「魔物」――学園で聞いたそれは、いつも他人事だった。  
だが今は、自分の足で生きるための相手でもある。

森の奥で数本の木を切り倒し、縄でまとめようとしたとき、低いうなり声が聞こえた。  
振り向くと、漆黒の毛並みを持つ狼のような魔獣がいた。  
牙を剥きながら、じりじりと距離を詰めてくる。

(……出たか。)

リオンは咄嗟に杖代わりの枝を握り、構えた。  
学園では一度たりとも上手く使えなかった攻撃魔法を、試すにはちょうどいい機会だった。

「ええと……“炎精、灯せ”だったか。」

彼が呟くと、枝の先にぽっと小さな火が灯った。  
それを見た狼は、その場で身を固め……突然鳴き声を上げて逃げ出した。

「あれ? 逃げたのか?」

理由が分からず首を傾げたとき、周囲の空気が一変した。  
木々がざわめき、地面から金色の光が立ち昇る。  
どうやらほんの「焔の灯り」の詠唱に、本の古代呪式が連動してしまったらしい。  
リオンの小さな火球は膨張し、瞬く間に狼がいた場所の地面を焼き焦がした。

「ちょ、ちょっと待て!止まれ!消えろ!」

慌てて別の呪文を重ねた。  
「水流、清めの環っ!」

瞬間、上空に水の輪が現れ、轟音とともに炎を鎮めた。  
森の一角は見事に更地になり、蒸気が上がっている。

「……はは。どう見ても『適性:無』の威力じゃないな。」

リオンは額を掻いた。魔力の枯渇もない。  
王都の環境では何かに抑えつけられていたようだ。  
「無能」と言われた理由が間違いだったのか、それとも王都のシステム自体が歪んでいたのか。  
考えても答えは出ない。だが少なくとも、ここでは魔法が、ちゃんと自分の声に応えてくれる。

木材を運んで戻る途中、村の入り口でミーナが待っていた。

「あ、リオンさん!あの畑、また光ってましたよ!どうしてあんなことができるんですか?」

「ああ、ちょっと試してただけなんです。……あれ、やっぱり目立ちましたか。」

「ええ、村中が見に来てました。あの、よかったら、この村の外れにある壊れた風車も直してもらえませんか?『賢者様』ならできると思って。」

「け、賢者様って呼ぶのやめてください!」

必死に否定するも、ミーナはきょとんとした顔をするばかりだった。  
彼にとっては普通のこと、けれど村人には奇跡に見える。  
その夜、畑の成果をお礼にもらって、リオンはささやかな食卓を囲んだ。  
木の皿に盛られた新鮮な野菜を見て、久しぶりに笑みがこぼれた。

「うまいな……やっぱり、自分で育てたからかな。」

ひと口ごとに胸が温かくなる。  
誰に評価されなくてもいい。こんな時間があれば、それで十分だった。

翌日、風車小屋の修繕を頼まれて見に行くと、想像以上に壊れていた。  
歯車は錆び、内部には泥が溜まり、回転軸の石柱にはひびが入っている。  
普通なら解体するしかない代物だ。だがリオンは、ふと本を開いた。

「修復、再生、均衡……“リストア”」

彼の唱えた古代語が風のように響くと、石柱のひびが閉じ、歯車が滑らかに動き出した。  
風車全体が一瞬光り、次の瞬間には、かつての姿を取り戻して回転を始めた。

「う、動いた……!」

ミーナが感嘆の声を上げる。リオンは首を傾げ、淡々と答えた。

「うーん、ただ少し形を戻しただけのつもりなんですけど。」

その言葉に、ミーナは両手を合わせる。

「やっぱり賢者様です!だって、この風車、二十年以上動かなかったんですもの!」

村人たちが集まってきて、感謝の言葉を伝えてくる。  
リオンはただ微笑み、居心地の悪さに少し戸惑った。  
彼が望んでいたのは静かな生活で、称賛でも信仰でもない。  
しかし――村人の笑顔に触れた瞬間、ほんの少しだけ胸の奥が温かくなった。

「まあ……誰かの役に立てるなら、それはそれで悪くないか。」

夕暮れ、風車の回転音とともに風が村を撫でる。  
リオンは本を膝に置き、静かに目を閉じた。  
ページの隙間から、光の粒が立ち上る。  
古代の詩が、遠い記憶のように彼の中で響く。

『聖環の鍵を継ぐ者よ。真に愚かであれ。欲を知らぬ心こそ、魔を従える。』

淡い声が頭の奥で響いたが、リオンは気のせいだと思い、あくびをひとつして小屋へ帰った。  
星が瞬く夜空の下、辺境の地で一人の「無能」と呼ばれた青年が、知らぬ間に伝説へ歩み出していた。

続く
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