偽物の番

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第3章。交差する運命

王宮へ

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早く、少しでも早く……

着いて来られない獣達は山へ帰り、狼の群れと王都へ向かう。

ヴゥ…… 狼達が唸り声を上げ警戒している。
休憩していた場所は山道の途中、ガサガサと音がする方を見れば。私が獣化した時より大きな野生の虎が近付いてきた。

「ルナ! 離れろ!」
「待って。この子から敵意は感じないわ」

じっと瞳を見ると、何故か微笑んでいるように見えた。

「一緒に行ってくれるの?」

ジリジリと下がる狼達の前へ出て虎と対峙する。グルグルと喉を鳴らす姿に何故か笑ってしまった。

ゆっくり近付きふわりと抱きつけば、身体を擦り付けてきて、

「ちょ、ちょっと待って! きゃっ!」

コロンと倒れた私の顔をペロペロ舐められてかなりくすぐったい。

首の匂いを嗅いだあと、ぽすんと前に座ると大きな前足でバンバン地面を叩く。

「ルナから離れろ!」
剣を構えたラルフさんにビックリして虎に抱きつく。
「ダメ! あなたも彼を傷付けちゃダメよ。周りにいる子達も私の仲間なの」

じっと瞳を見て話しかけると、まるでフンッと渋々承諾した雰囲気でまたクスクス笑ってしまった。

「おい、いつまで抱きついている」

腰を持たれ虎から離されると、何故かラルフさんと睨み合っている。

「きっと一緒に行ってくれるのよ」

前足を出し地面に腹を付け座ると尻尾を左右に振り"行ってやるよ"と言われている様に感じた。

「ミアキスのリーリアは獣に命令は出来るが、獣が自ら従う事は無い。これも白虎だからか?」
「分からないけど、この子達は自分の意志で来てくれているわ」




王都へ近付くにつれ、人が多くなってくるが、獣達を従え走る私達に人々は恐れ道をあける。

「もうすぐ王都へ入る。このまま突き進むぞ!」

目の前に見えたのは王都への入り口。人族からの宣戦布告に警戒して憲兵が槍を構えた。

「何者だ! 人族なら通す事は出来ない止まれ!」
「何だあれは! うわっ!」

「俺は獅子一族だ! そこを退け!」

スッと目の前に走り出た虎が憲兵へ向かい咆哮する!

「こ、殺される!」「逃げろ!」

自分たちより大きな獣に散り散りになった憲兵の前を振り向く事無く進む。

王都の人々は突然の出来事に、建物へ逃げ路地裏へ隠れ、私達はガランとした道を王宮へ向けひた走る。


******

「大変です! 獣の群れが王都へ入り今、王宮へ向かっております!」

騎士からの報告を受けたユーヴは、目の前に座る1人の初老の男性へと視線を合わせる。

「お前達の仲間か? 一体何をするつもりだ。答えろボリス!」
「調子に乗るな小僧。勇敢な我が虎一族が獣に頼る事など無い!」

ボリス。長年虎一族を纏め、人族嫌いの者達の頂点に君臨する。インセルノが起こした獅子一族惨殺と、人族からの宣戦布告について話し合いをしていたのだ。

「獣の事は来た時、俺が相手してやる。それより龍一族の総意はインセルノを龍一族から追放。人族の国とは戦争をしない。今戦っても苦しむのは我ら獣人達だ」
「人族など、噛み殺せば良い。獣人族が人族に迫害され奴隷にされてきた過去は消えん」
「いつまで過去に囚われていては、前には進めないと何度話せば理解するんだ!」

話は平行線を辿り、お互い引くつもりが無い。

「ユーヴ様! 先頭に虎が走り二人の獣人が馬に乗ったまま城へ入りました! 早くお逃げ下さい!」

ドドド…… 地鳴りの様な音が近付き聞き覚えがある声が聞こえた。

「邪魔するな! ランドルフが来たとユーヴへ伝えろ! おい! 何処にいる!」

馬に乗ったまま近付く声は、はぁ……

「こっちだ! ランドルフお前何やってんだ!」

ランドルフの前にはフードを被った小柄な人が一緒の馬に乗っている。
しかし、その前に居るのは大型の虎。

「そこか! お前ら邪魔だ!」

騎士達に道を開けさせるとランドルフと小柄な人が馬から降りる。虎は小柄な人を守るように真横に付くと俺を威嚇した。

「大丈夫よ。この人は優しいのよ」

小柄な人が俺を見てニコリと笑った。赤い瞳は、

「フーニア様… 何故…」

「今はルナと言います。ユーヴさんが龍王になられたとお聞きしましたが、私は人族との戦争を止めに参りました!」

バサッとフードを取ると、フーニア本人なのだが纏う空気が違う。




「オーリガ… いや、あの子は人族に殺され…」

扉から出てきたボリスは自身の眼を疑う。亡くなったと聞いた娘オーリガに生き写しの娘が、虎を従え背後には獣達が付き従うのだ。まさか、あの伝承は事実だったと言う事か? 
違う! オーリガは調べたが白虎ではなかった。じゃあ、この娘は何者だ?

「今はルナと言います。ユーヴさんが龍王になられたとお聞きしましたが、私は人族との戦争を止めに参りました!」

「小娘!! 先に戦争と言ってきたのは人族だ! 我ら獣人族がどれほど虐げられてきたかも知らぬ癖に!」
「ではお聞きします。獣人族は一度も人族を傷付けていないと仰りますか?
獣人と人族の番以外から産まれた者達を傷付けていないと仰りますか?」

足が震える、今すぐ逃げ出したいくらいに怖い。ユーヴさんの後ろから出てきた男性は私を睨みながら、その威圧感に圧倒されそうになる。が、私は負けない! 目を反らさずキッと睨み合う。

「ボリス殿、私もルナと同じ気持ちです。お答え下さい!」

肩にあたたかな手が置かれ、私の隣に立つのはラルフさんだ。大丈夫、1人じゃない。

「私もフーニア様と同意見だ。アリアを狂気に走らせたのは我々獣人なのだと、何故認めない!」
 
男性との間に立ったのはユーヴさんだ。チラリとラルフさんを見上げると力強く頷いた。

「獣人を仲間として共に暮らしている人族も居ます。誰か知りませんが私の話を聞いて頂けませんか?
 お願いします。私がこの目で見てきた真実を無かった事にしないで下さい!」

よく見ると、男性の瞳は私と同じような赤。じっと見ていると何だか不思議な気持ち。

「そこまで言うなら聞いてやろう。但し我ら虎一族の前に1人で立て」
「俺は一緒に行く。ルナを1人にはさせない!」
「黙れ! この娘が言ったのだ。逃げても誰も責めはせん、さぁ、どうする?」

不敵に笑う男性の前に進み、目の前に立つと私もふわりと笑う。

「ええ。私があなた達の罪を教えてあげるわ」
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