偽物の番

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第3章。交差する運命

妹の為に

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クワイエさん達が人族嫌いの中でも若い獣人の所へ行き、話をしてくれると申し出てくれた。

私はラルフさん達と共にヒァマーさんが居るネコ族の村でマルク兄さんと合流する事になった。

「ラルフさん。身体は大丈夫ですか? あれは私専用の薬なので何かあったら…」
「そんな顔するな。もし本当に番の香りが分からなくなるのなら好都合だ」

馬に股がると後ろにラルフさんが乗り、獣達と共にネコ族の村まで走った。


「やっと来たな!」

マルク兄さんに馬から下ろされ、ガバッと抱きつかれた。かなり心配させちゃったみたい。

「マルク兄さん。全ての人を説得出来なかった、でも一緒に考えてくれる仲間が出来たの!」
「よくやった。とりあえず中へ入れ、ヒァマーさんも待っているが、人族側の情報が入った」
「そろそろルナを返して下さい」
「お前はずっと一緒だったんだ! 兄妹の再会を邪魔するな」
「二人とも、置いてくわよ!」
毎度の二人は放置してリーリアさんと一緒に門をくぐる。

屋敷の中へ入ると人々が忙しなく行き交う、リーリアさん達も呼ばれて違う部屋へ行ってしまった。マルク兄さんとラルフさんと共に向かった部屋の中から女性の怒鳴り声が聞こえる。

「もっと情報を集めなさい! 国境付近に兵を集めて侵入を阻止するのよ!」

こんこん。ノックをして中へ入るとリーリアさんに良く似た女性が私を見て、一瞬動きが止まる。
「オーリガの娘ルナと申します」

「あなたがルナさんなのね。よく無事にここまで…」

少し涙ぐみながら、そっと肩を抱かれると私の顔を覗き込んだ。

「本当にオーリガにそっくりね。こっちに座って、まずは虎一族がどうなったか説明して貰えるかしら?」
「私の母を知っているんですか?」
「えぇ、よぉく知っているわ! あのおてんば姫には私もルガも苦労したもの」
クスクス笑いながらソファへ座ると、膝に置いた手に手を重ねてにっこり笑った。

「あとでゆっくり話してあげるわ。それより今は状況が悪化しているの、人族の王宮から騎士達がこちらへ向かって出陣してしまったのよ。
話し合いの時間は既に無いわね、国境で獣人の国への侵入を阻止する為に、今は準備するしかないわ」
「今! 私へ協力してくれる仲間が人族嫌いの方々へ話をしに行ってくれてます」
「一人一人説得している暇は無いのよ。人族の国で暮らしていた獣人や迫害を受けてきた半獣人達の受け入れもやっているけど人数は増える一方。
王宮へ行っても取り合ってもらえず、今は私たちだけでやるしかないの」

思っていたよりも緊迫した状況の中、私が出来る事は……

「マルク兄さん! 私人族の国へ行ってセンドリックさんへ話してくるわ。シャド兄さんも王都に居ると思うから、きっと協力してくれる」
「そんな危ない事、させる訳無いだろう!」
「マルク兄さん大丈夫よ。だってセンドリックさんだってシリウス王の息子だもん、話せば分かってくれるわ」
「俺がルナと一緒に行こう」

対面に座って話を聞いていたラルフさんが、私を見てふっと笑う。隣に居たマルク兄さんはラルフさんの肩を掴み、

「ルナが危険な目に合うかも知れないんだぞ! 軽々しく言うな!」
「問題無い。俺がルナを守れば済む話だ」
「あー!! クソッ! よし俺が行くルナは残れ」
「嫌よ! マルク兄さんは私が王都へ行きたいって言えば連れて行くと約束したじゃない!」
「チッ! ルナお前ラルフと付き合って性格変わってねぇか? クソッ。分かった、王都までは連れて行くが、王宮へは簡単に入れ無い」
「ルガの所にショワン様が居るなら大丈夫かも知れないわ」

ヒァマーさんの話では、ショワン爺さんは神出鬼没だとシリウス王が話していたらしい。

「もしかすると抜け道を知っているかも」
「あの爺さんなら有り得るな。じゃあホーナンへ行くぞ。妹の為に俺は何だってやってやる」




******
グラムside

ルナと別れてメラン公爵家へ向かった。あの女の父親らしいが、この男には俺と同じ狂気を感じる。

人族の貴族共は、華やかな生活を維持する為。人には言えない闇を多く抱えていた。メラン公爵家には後継者がおらず、俺が次期公爵として社交会へ入り情報を集め、宰相である男へ渡す。
俺が公爵になれば、ルナを引き取り不自由ない暮らしをさせてやれる。今更獣人の国へ興味は無いが、最初の計画が失敗し、このままなら戦争も起こらず終わる。そう思っていた。

「グラム。これで獣人達を皆殺しに出来るぞ!」
普段、冷静な男が酒に酔い上機嫌で帰宅したのだ。話を聞くと獅子一族を残虐し、インセルノと番アリアが王宮へ来たらしい。
宰相とセンドリック王が二人を保護した。正当な獣人の王はインセルノで、謀反をした獅子一族とユーヴへ王自ら鉄槌を下した。が、逆にインセルノへ罪を擦り付け、番アリアを連れて人族へ助けを求めに来た。との筋書きだ。

「あの娘。インセルノの本物の番だったのだ。血の秘密を伝え娘の復讐にも手を貸してやった、これであのケダモノ達を…」

どう言う事だ? 最初の計画とも違う、

「お祖父様。どう言う事でしょうか?」
「お前には半分ケダモノの血が流れていたな。でも、私の駒であり続けるなら生かしといてやる。ケダモノ達の命は私の掌の上だ」

あの日から、屋敷にある書物や宰相が知らない配下に調べさせると宰相の真の目的が分かった。
彼の家族は獣人達に無惨に殺されていた。"復讐"この男もアリアと同じ闇を背負い生きてきたのだ。メラン家は元々獣人共存派だったが、男の家族を襲ったのは共存派として信じていた獣人達だった。

「復讐か…… それよりルナの足取りは分かったか? あの男が言っていた街に居なかったんだな」
「はい、コウモリが探しております」
「傷ひとつ付けるな! ルナは私の大切な妹だ!」
「御意に」

さて、私も出掛けよう。ルナの為に全ての不安を排除してあげよう。愛する妹の為に……

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