偽物の番

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第3章。交差する運命

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サハさんが準備した馬車に三人で乗り込んだ。

「兄さん、あの夜会で焚いた香は…」
「あれか… 同じ香りがすると意識が朦朧として自由に操れる」
「解除するモノはあるのよね?」
「もちろん」

ホッとして、対面に座るラルフさんを見れば同じように安堵の表情を浮かべた。


行き先は兄さんが所有する屋敷。そこはメラン公爵も知らない隠れ家らしい。

「明日、アンドリューの所へ行き解除するが。元々、戦争をして人族と獣人族を統一するつもりだったんだ。
全ては半獣人の弟の為にな…

しかし、メラン公爵に弟フレデリックを暗殺したのは獣人族だと言われ信じている」
「フレデリックさんは… 殺されてしまったの? でもサハさんの話しでは…」
「大丈夫だ。フレデリックは生きている。だが、それを今伝える訳には行かない」


私達の話をじっと聞いていたラルフさんが口を開く。

「何故、伝えない? 本当に弟の為に戦争までする気があるなら真実を教えれば良い」

「ハハ! だからおキレイなランドルフだと言うんだ。もし暗殺が失敗していたと知ったら、メラン公爵は貴族共を纏め謀反を起こすだろうな。今まで散々甘い汁を吸ってきた奴らが自分たちの利権を主張して、
“穢れた血は王族と認めない“と。

いくら獣人族の力が強くても、本能には勝てない。再び獣人族を奴隷とする術を持つメラン公爵に勝てると思うか?」

グッと押黙るラルフさんを見て、兄さんが声を上げて笑った。

「アハハ! だから戦争をする道を選んだんだ。メラン公爵家へ入ってから色々調べたが、調香師達が残したレシピが跡形も無く消えていた。
母が持っていた一冊のみ俺の手元にあるが。それ以外はきっと公爵が何処かへ隠しているはず」
「兄さん、もしかしたらショワン爺さんなら何か知ってるかも。前にメラン家の事を言ってたわ」

顎に手を当て、何か考えていた兄さんが、
「ショワン爺さんか… 確かシリウス王と繋がりがあったな。薬師だったか?」
「うん、ルガーダさんも居るから、もし公爵さんが何かしてもきっと解除する事が出来ると思うの」

考え込む兄さんから視線を外し、ラルフさんへ話しかけようとした時。急に馬車が止まり座席から落ちそうになる。
「っ! ルナ大丈夫か?」
「ありがとうラルフさん」

咄嗟に身体を包みこまれ、びっくりしていると、
「グム! 屋敷が…」
慌てて外を見ると、轟々と燃え盛る屋敷から黒煙が立ち上る。

ガタン…

「やはり獣じゃダメでしたね」

真っ黒な服を着た人が馬車へ入って来る。外からは複数の足音とキン! と刃物がぶつかる音。

「お前等! 裏切ったのか!」
「グラム様。我々は元々メラン公爵家側ですよ、お館様からやっと貴方の始末を指示され安堵しております。
やはり、我らコウモリは人族へ仕える身ですから」

何が起こったのかは分からない。でも、兄さんを獣人族を見下しているのは明白。

「ランドルフはルナを連れて逃げろ!」
兄さんが足元にある剣を手に斬りかかる。
「兄さん! 私も戦うわ!」
「もちろん俺もだ」
素早く反対側の扉から出るとサハさんが囲まれて腕から血を流している。

「姫さん逃げろ!」
数人が気付き此方へ向かって来たが、
「お前等の相手は俺だ」
ラルフさんは、相手から剣を奪い次々倒していく。

「キミがグラムの妹か」
背後に立つ男の声に顔を向けると、腕を捕まえられそうになり、肘でみぞおちを思い切り突く。相手がウッと唸り少し距離が開き相手を睨み付けた。
「あなた達、何故兄さんを襲ったの?」
「答える義理は無い!」

伸びて来た手を掴み、そのまま背を向け投げ飛ばす。
「ルナ!」
兄さんの声に振り返ると私を庇うように覆い被さった背中にナイフが突き刺さった。
「死ね!」「兄さん!」

ゆっくり時間が流れるようだった。兄さんを横へ押しのけナイフを抜いた男が再び手を振り下ろす前、暗闇から何かが飛び出した。
目の前の男が宙を舞い、木に身体がぶつかると地面へ倒れ込んだ。

低いうなり声が轟き、飛び出してきたのは野生の熊、その後ろから現れたのは、

「まさか…」
次々と現れるのは狼の群れ。

「っ! 引くぞ!」

兄さんと最初、対峙していた男の声でコウモリ達は散り散りに逃げていく。 
「兄さん! しっかりして!」
「グム!」

兄さんはぐったりとしながらも、優しく微笑み私の顔へ手を伸ばした。しっかりと掴み呼びかけるも目を閉じ荒い呼吸を繰り返すだけ。

「気を失ったみたい。姫さんがこの獣達を呼んだの?」
近寄り身体の匂いを嗅ぐ獣達からは、先程の殺気は無くなり甘えてくる。
「多分… ありがとう、あなた達のおかげで助かったわ」
声を掛けながら撫でれば満足したのか森の中へ消えて行く。

「サハ、ここに居たら又、奴らが戻って来るかも知れない。俺がグラムと馬に乗る」
「分かった。姫さんはボクだね、おばさんの所で良い?」
「うん、ショワン爺さんならきっと兄さんを助けてくれるはず」

馬車に繫がられた馬を外し、サハさんと馬に乗る。
「飛ばすからちゃんと掴まっててよ」
「大丈夫、もし私を落しても兄さんだけは必ず連れて行って」

轟々と燃え盛る屋敷の明かりを背に暗闇を見つめた。
兄さんを死なせはしない、必ず連れて帰る!

意識が無い兄さんと自分の身体を馬車にあった縄で括りつけたラルフさんが、
「急ごう、血を流し過ぎている」

馬の首元へ手をやり、
「お願い兄さんを助けたいの」
小さく囁けば、2頭は嘶きを上げ走り出したのだった。









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