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笑わない、その瞳
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しおりを挟む「あの、大丈夫ですか? 眞杉さんは少し人見知りな所があるので」
「……知ってる、これが最初なわけじゃないし」
なるほど。どうやらこの男性はかなり眞杉さんにご執心らしく、先程眞杉さんから逃げられたショックから立ち直れずにいるらしい。
しかし目の前の男性、スッキリとした短髪にキリッとした顔つきの清潔感のある人だと思うのだけど……眞杉さんは彼の事をなぜ避けるのだろう?
「仕方ないんだ、彼女に俺みたいな男はタイプじゃないってハッキリと断られてるし」
「え、あの眞杉さんがですか? それっていつの話です?」
あの大人しい眞杉さんが、どうしてこの男性を振ったりしたのだろう? つい最近、彼女が言っていた「彼氏が欲しい」という言葉はいったい何だったの?
「三年前の彼女の誕生日。あの日は俺としてはもの凄く気合を入れたんだ、だけどあっさりと振られて……その後はずっと逃げられてる」
「三年、ですか……?」
そんなに前からこの人は眞杉さん一筋なんだ……そこまで思われている彼女がちょっとだけ羨ましい気もしないでもない。まあ、眞杉さんが逃げてる理由を知らないからそう思えるのかもしれないけれど。
でもちょっとだけ報われて欲しい気もしないでもない。
「……ねえ、横井さん。ここまで話を聞いたんだから、コイツに協力してもいいと思ったりしない?」
「……はい? 私が、ですか?」
目の前で微笑んだままの梨ヶ瀬さん、彼は何と言った? 一度梨ヶ瀬さんを見つめて今度は男性に視線を移すと、すでに彼はキラキラと期待の眼差しを私に向けていて……
「協力なら梨ヶ瀬さんがいれば十分じゃないですか? 私は話を聞いただけでどう考えても無関係ですし」
「それがね、赴任してきたばかりの俺に出来る事なんてそれほどないんだ。横井さんは眞杉さんと仲も良いようだし、鷹尾を助けると思ってね?」
鷹尾さんという名の男性は梨ヶ瀬さんの隣で大きく頷いている。やめて、どんどん断りづらい状況を作られてるとしか思えない。
「ですが……」
「別にいいんだよ、断っても。だけど横井さんが眞杉さんと親しいと分かった以上、これからは遠慮なく君を巻き込ませてもらうから」
それって脅迫じゃないの! とんでもない事を笑顔で言い出した梨ヶ瀬さんを前に、返す言葉も無かった。見かけの優しさなんて少しもあてにはならない。
「ね、お願い横井さん」
「お願いしますっ!横井さん」
断ってもいいと言いながらその選択を与えないヘビのような男と、こちらの迷惑を考えずでかい声を出しながら頭を下げる男。
ろくでもない二人に捕まってしまったような気がしてならない。
だからと言って眞杉さんとの関わりを無かった事にもしたくなくて、私は渋々ながらも梨ヶ瀬さんと共に鷹尾さんのために協力することになったのだった。
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