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隠さない、その喜び
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しおりを挟むそういう割には隣のストーカーの男性の事を気にしているように見える。ただの幼馴染なら、こんな風に一緒に謝りたいと言いになんて来ないでしょうし。
そう思ったのが顔に出てたのだろう、梨ヶ瀬さんが私の考えていたことをそのまま口にした。
「じゃあどうしてこの男についてきたの? この人がストーカー行為をしていたことを貴女は知っているんだよね?」
「はい、すみません。私は彼の横井さんに対する行動を知ってて、それで……」
女性の話ではストーカー男はまだ大学生らしく、彼女はこの男性より年上で小さい頃から面倒を見ていた弟のような存在だったらしい。
女性は今でもこの男性のお節介を妬いていたが、このところ様子がおかしかったためそっと見張っていたそうで……
何度も注意したがストーカー行為を止めない男性に、これ以上続けるのならば彼との縁を切り警察に相談すると話したらしい。
いつの間にか彼が所持していた写真や持ち物などを、女性は証拠として持ち帰っていたそうだ。
「もちろんこんなことで横井さんの不安がなくなるとは思いません。相当怖い思いもして、気持ち悪さもあったはず。ですから……」
そのまま俯いてしまう女性、やはり男性の未来が心配なのだと分かる。弟みたいなものといいながらも、彼女はずっと男性の手を握ってる。
女性の気持ちは痛いほど伝わってくるが、今本当に大事なのは……
「こんな風に幼馴染の女性にばかり謝ってもらってていいんですか? 私にストーカー行為をしたのは貴方ですよね?」
私にきちんと謝罪するべきなのは幼馴染の女性でなく犯人であるこの人だ、それは私も梨ヶ瀬さんも譲れないことのはず。
彼が大学生ならば善悪の区別も、やってはいけない行為も人に迷惑をかけた時に取るべき行動もちゃんと分かってるでしょう?
それなのに自分は幼馴染に隠れたまま、すべて変わってもらうなんてありえない。
「それは、その……俺も反省して……」
「そんな話し方じゃ聞こえませんよ、ちゃんと私の目を見て謝れますよね?」
今誰かに庇ってもらってこの場をやり過ごしたとしても、本人が二度とやらないと思ってくれなくては意味がない。
きちんと被害にあった私と向き合ってほしいのだ。そんな思いが伝わったのか、彼はその場で立ち上がり、深く頭を下げて……
「本当にすみませんでした。自分の感情をコントロール出来ず、横井さんに迷惑かけました」
今度はハッキリと聞こえる声で謝ってくれた。隣の女性もホッとした顔で男性の片腕を撫でている。
これでもういいでしょ、傍にいてくれる人がいるしきっと大丈夫。私はそう思ってたのに、ここで梨ヶ瀬さんが待ったをかける。
「ねえ、さっき話してた証拠になる写真や持ち物って、今も持ってきているの?」
「え? はい、鞄の中に入れてきてます。ですが……」
梨ヶ瀬さんの言葉に少し女性は戸惑っていたが、彼が「出して」とだけ言うと鞄から私の隠し撮り写真や小物を出してテーブルに並べた。
その数々を両手で集めてさっさと鞄に仕舞うと梨ヶ瀬さんは……
「これは念のためこっちで預からせてもらうね? 俺は横井さんみたいに簡単にその男を信じるほどお人好しじゃないから」
言い方は優しかったが、彼は今まで見たことないくらい厳しい表情で男性を睨んでいて。まるで次に私に何かあれば、今度こそは許さないと言っているようだった。
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