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言葉の裏に隠したモノ ~契約…?秘密をバラすなってこと?

真実 ② 〜アーネストにとってスイとは…。

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「……アーネスト」

 ショーティは、紅茶を口にしながらその名を呼んだ。ゆっくりと確かめるように。

「そんなにスイが大事?」
「え?」

 そして問いかけるショーティは、カップをゆっくりと置いた。出方次第で話の矛先が変わるのだ。吉と出るか凶と出るか、アーネストが真実を知っていれば話が早いのだが、それを確認することもままならない。
 そして、突然の問いにも関わらず笑みを携えたままのアーネストは、

「友人だよ」

 当然じゃないか、と暗に告げるような響きで言葉を綴る。
 思わず唖然とするショーティであったが、

「———————ほんとにそれだけ?」

 易々と話してはくれないだろうとわかっていながらも、その真意を探る。
 言葉の端から、表情の変化から、判断すべき材料を探しながらみつめるが、アーネストは少しの間を置き、

「何か、あったのかい?…ルコント氏が何か?」と伺うように訊いてくる。

 ほんとにね…。

 ショーティは脳裏でつぶやき、一度小さな息を吐くと、やや開き直った感で早口に、

「関係ないよ。ジェームズも第六ドームも全て。…カナンがさ、あんなに懐いているスイの変化は驚くべきものだよね」と告げた。

 急な話題転換にアーネストは少しだけ不思議そうな表情を見せたが、別段、追求するような事も無く、

「そうだね」と優雅な笑みで頷く。

 言葉の裏に隠れている “それが、何?” との言葉が見えるような気がして、ショーティは思わず前髪をかきあげた。そして、なぜ善良なお坊ちゃまという印象が強いのだろうと不思議に思う。
 いや、確かに1年の頃はショーティ自身もそう思っていた。

 貴族だという彼の所作は綺麗と言えるもので、穏やかな態度と笑顔、どれ一つとっても怪しいと思ったことなどない。けれど最近になって、アーネストの態度には”隙がない”と思い始めた。いわゆる、取りつくしまがないと言う奴だ。妙に追い込まれるような、手札の全てを見透かされているような、そんな感覚。
 やはり隠し事はできないと思ってしまう。
 それが負けを認めていることでも、アーネストに期待さえしている自分に気付いていた。確証など一つもないのに。

「考えてみたんだ、僕。9月の旧校舎爆破解体、あの時、そうカナンとスイが巻き込まれたあの時、二人の関係を一新させる何かがあったんだよ」

 そう、それは正しくスイの出生についてであっただろう。

「ショーティ?」

 軽く口を噤んだショーティを柔らかく促すようにアーネストが名を呼ぶ。
 ついと目を細め、軽い笑みを浮かべたショーティは、

「そして僕は、ユリの花の香りが未だに忘れられない」と口を開いた。半ば覚悟を決めていた。

 扉は開けてみなければその先にあるものなど見えはしない。

 さあ、どうするの?アーネスト。
 まっすぐにアーネストの瞳をみつめる。室内のライトの加減か、今は金色よりも茶が占めており、考え込んでいるようにも、聞き入っているようにも見えた。そのため、ショーティは更に口を開く。

「…ドーム解体に巻き込まれて怪我をしたスイが入院した時、お見舞いに行ったんだけどさ。アーネストも来てたよね?すれ違ったもんね。……そして残っていたユリの香り。あれ、アーネストだよね?同じ香りがアーネストからもしてたし……それだけで、なんて言ってほしくないな」
「———それで?」

 否定でも肯定でもなく、笑みは至って穏やかなままで、ショーティは軽く肩を竦めた。何を言っても彼には効かないのだろうかと思う。しかし、本心を訊いてみたい。

「皆から一歩も二歩も引いていたはずのスイに懸命に話掛けていたのはカナンだった。でも、アーネストも結構気にかけていたよね?」

 自然と目を惹くカナンの容姿に、勿論それだけじゃなく見ていた存在に、嫌が応にも目に入るスイ。そして二人を見続けていると、アーネストがスイのそばに寄ってくる。
 スイが、ではなく、アーネストが、である。

「そして第6ドーム。わざわざ危険の中に飛び込んだ」
「それでスイが大事?第6ドームは君がけしかけたんじゃなかったかな?それにショーティ。君が同じ立場でも僕はそうするよ」

 絶対に嘘だ、と瞬間、零す。理由もなく、素直にそう思えることが妙におかしかった。

「ねぇアーネスト。僕は結構本音トークだと思わない?」

 苦笑を打ち消して尋ねるショーティに、

「君の、本音?」

 ようやく確信と理解したアーネストが、それでもティーカップに手を伸ばし、ゆっくりと口元へ運ぶ。自然、それを待つ側になるショーティは、その間の取り方にも惚れ惚れとしていた。
 考えながら話しているはずの自分が、けれど、アーネストの思いのままに導かれているのではないか、と思ってしまう。
 話してはいけないのだろうか。
 一抹の不安が過ぎった。

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