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言葉の裏に隠したモノ ~契約…?秘密をバラすなってこと?

まどろみの後で ②

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「おはよ!アーネスト」

 認めたカナンが真っ先に挨拶を告げるが、不意をつかれたショーティは頭上を仰ぎ、見下ろす彼と視線が絡む。
 心臓がつかまれ、きゅっと竦むような感覚を受けた。しかし、別段嫌な感覚だったわけではない。どちらかというと、期待感。
 癖にならなきゃ、いいけど…。
 思わずそう脳裏でつぶやくショーティである。

「おはよう。隣は空いているのかな」
「おはようアーネスト。どうぞ。随分ゆっくりとした朝食だね。夕べは遅かったの?」
「そうでもないよ。君と同じくらいじゃないかな」

 素気無く、それでも笑顔のオプション付きで返され、ショーティは肩を竦める。そして、ふとスイを見た。
 彼は、どこか居心地の悪そうな表情で、軽いため息をついている。

「ごちそうさん!」

 そんなスイの様子など気にもしていないだろうカナンが、朝からすごい量の朝食を平らげた。胸元で両手を重ね軽くお辞儀をするカナンを認めたスイは、

「じゃあ」と促すように席を立つ。
「へへっ、これから最後の課題やんの。アーネスト、お先」

 二人の後ろ姿を見送るショーティは、やおら食事をしているアーネストを見た。

「スイにはある意味、特別な人が2人いるみたいだ」
「そうかい?」

 スイの鉄面皮が崩れるのは今のところカナンと、そしてアーネストの前だけである。そして当のアーネストはカナンとは別の意味でスイを守っているような気がする。無論、口止めされたのはショーティであるが。

(どっちも愛情のような気がするけど…)

 つぶやきは口にはしなかった。これは禁句のような気がしたのだ。

「この僕が?」

 自身の考えを、思いついた言葉を心にしまうのは初めてのような気がして、思わず声をもらす。

「ショーティ?」
「あ、ごめん。独り言」

 そして、声に反応したアーネストに、ショーティはペロリと舌を出す。その様子にアーネストも笑みを覗かせた。最も彼らしい笑みであったが、本質の彼を知っているショーティとしては物足りなさを感じる。

「ごめん。アーネスト。僕も先に行くね」
「君も、課題なんて言うんじゃないだろうね」

 軽い冗談であろうことは解った。
 ははは、とショーティは素直に笑い声を上げる。

「違う、違う。このまま居たら、キスしたくなっちゃうから」

 冗談とも本気ともつかぬ言葉で周囲の耳が一斉にこちらを向くような気がした。だからと言って、彼がそれらを気にする輩かというと、NOである。

「君が場所を気にするとは思わなかったよ」
「やだな、アーネスト。場所じゃないよ。アーネスト信望者に殺されたくないだけ」

 それは事実。
 カナン程あからさまではなくとも、アーネストも学園では素晴らしい人気を維持している。情報を武器とするショーティなのだ。敵は少ない方がいいに決まっている。
 それに、受け入れたのはアーネストの方で、敵視されては適わない。

「ショーティ」

 行きかけたショーティを、アーネストがやんわりとした声音で呼び止めた。振り返るショーティの栗色の髪がさらりと揺れる。

「髪に、ごみが」

 立ち上がり、そう告げながらショーティの耳元をアーネストのしなやかな指がすり抜けた。
 そのビジュアルに、盗み見していた周囲は、ほおと感嘆のため息をつく。ショーティ自身はどのくらい把握しているか知らないが、見目に可愛らしい少年である彼もそこそこの人気があるのだ。
 朝っぱらからそんな二人の絡みなど、十代の少年らには刺激が強すぎる。

「”今日も、来るね?”」

 声は、その耳元へと微々たる音量で滑り込んだ。誰に聞かれるとも思えない食堂で、しかし、そんなヘマはしでかすはずもないと一瞥を投げ、アーネストは席に戻る。

(確信犯~!)

 踵を返して歩き出すショーティは苛立ちを抑えつつ、苦笑を浮かべるのだった。



 そんな彼の元にジェームズ・ルコントに関する報告書が届くのは、夕刻のことである。




             言葉の裏に隠したモノ END~


  ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

 次は、学園を卒業後2年ほど経過し、アーネストがサリレヴァントの社長に就任します。
 その際にちょっとした口論となったショーティはアーネストと距離を置く。そして所用で訪れた日本で1人の青年と出会う。そんな話になります。
 アーネスト以外との絡み?…があるので、本命以外は嫌!という方にはすみません…。
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