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大切な、友人 ~その判断は人それぞれだよね
一つの仮定として
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けれども!
やはり3回目となると少しならず、かなり訝しい。
なので、今日は……。
「ショーティさん。だから……まったく、他意はありません」
嫌がらせのように満たされたワイングラスを前に、ケインはやや困惑の色を見せながら冷や汗交じりに告げる。
「けどさ、もう、3回目。せっかくこれからって言うときに会社のcallって嫌がらせでしかないよ」
「たまたま偶然だとは思いますが、仕方がありませんよ。交通は発達しても時差だけはどうしようもないのですから。逆にどうして自分が連絡するといつもショーティさんといるのかそちらの方が気になります。自分はきちんと社長のスケジュールに乗っ取って仕事をしていますからね。ま、そりゃ少しはずれ込むこともありますが、けど、社長にとってはそれも計算の内です」
ふふん、と得意げに話すケインは、ワイングラスを小粋に持ち上げ、コクコクと喉を潤す。
「………!」
やや苦々しい思いでその仕草を見ていたショーティはケインの言葉を脳裏で復唱し、不意に一つの仮定に思い至る。
つまり……ショーティと約束をしている時間に、相手から連絡が入るのは予想の範疇であるということか?
「や。ちょっと待って」
「え?もう注いじゃいましたよ」
まずはショーティのグラスへ、それから自身のグラスへとワインを注ぐケインは、慌ててその手を止める。
「ワインじゃない」
「そうですか?」
なんだろう、この天然っぽいところは意外とアーネストの趣味なのだろうか?
思考を遮られて一瞬眉根を寄せるが、また揚々とワインを飲み、チーズに手を伸ばす仕草を見ると思わず笑みをそそられる。
いや、いや、そんなことより、ともう一度先ほど思い当たった思考を呼び覚ます。
ショーティだって仕事をしている身だ。
コテージにこもっている間は一切の連絡を絶っていたから、戻ってからは精力的に仕事に取り組んでいるし、すでにクリスマスも仕事が入っている。
まあ、連絡を絶っていた夏の頃は、アーネストとのスキャンダルが持ち切りだったらしいが、そもそも彼とは月学園からの友人で、ショーティは自分の志向を隠していない。女性も好きだし、男性もいける。そんな中でほこり一つと出てこないアーネストの相手として始終やり玉に挙げられる。けれど、それだけだし、世間もどこか楽しんでいる風潮もある。
けれど確かに、ずっと近くにいるが、アーネストに特定の誰かがいたことはない。
ないな。それははっきりと言える。
アーネストの雰囲気に変化がみられるのはスイといるときだけだ。
月の学園で一緒だったスイ・カミノクラ。今はドイツで生命科学分野の科学者をしている。
時折アメリカにやってくる彼に会うとき、彼の雰囲気は……そう柔らかく、なる。
うまい言い方がみつからない。
「宗教的感覚…?」
いや、そうでもないのか。
無宗教の自分にはわからないが、ただ本当に心の拠り所のように、宇宙空間でみつけた空気のようにアーネストが心地よく居られる場所のようなそんな存在。
多分、本人に告げると軽く流されるのだろうけれど。
「ショーティさん?」
「あ…」
そうだった。一人ではなかったのだった。
「ケインは……ストレートだよね?」
「え?今はワインを—————えぇっ⁉︎………いや、自分はストレートです!口説いてるんですか?いやほんとに勘弁してください」
「人聞き悪いなぁ。そんなに見境なく口説かないよ。確認しただけ。アーネストの回りの要注意人物を割り出しておかないと」
「本当のところ、ショーティさんは社長とどういう関係なんですか?そんな意味深なことを平気で言うくせに恋人じゃないんですよね」
「———友人、かな」
多分、どういう関係なのかなど気にしたことも確認したこともない。
けれど、多分、誰よりもそばにいると…は思う。気がするけれど。
なんだ、この否定の数々。
「ま、危険に巻き込まれたときには表に立ってあげられるくらいには思っているけれどね」
友情という言葉がどこまでを指すのか、わからない。恋だと自覚はしたが、友情と恋の境目など気の持ちよう一つだろう。それならばその二つを器用に使い分けていく。
アーネストに本当のところを告げるまでは、それはショーティにとって大したことではない。
夏のあの朝。
『おはよう、ショーティ』
コテージの一室で目が覚めたアーネストの姿は惚れ直すには十分で、言葉は本当にうっとりするほど心地よくて、誰も…スイさえ知らないその姿を知っている優越感はショーティの今を支えている。
まぁあの時は、なんでだよ、と悪態をついてしまったのも事実だが。
「ショーティさんは本当に社長のことを大切に思っているんですね」
「そんなこと当たり前だよ」
「うん、では飲みましょう!会社で支えている自分と、プライベートを支えているショーティさんに乾杯!」
「——————ケイン、もしかして酔ってる?」
ビール2杯にワインを二人で1本程度、けれど、どうみてもいい感じに出来上がっているケインにこれ以上飲ませるわけにはいかず、
「チェック」と素早く言い放つ。
「なんでですか!僕はもっと社長を褒め称えたいんですよ。容姿とかじゃなくてもっと本質的なところで」
「あーわかったわかった」
アーネストが仕事に邁進しているということは、秘書であるケインもそこそこハードだということだ。そして仕事柄、社長のことをべらべら話すわけにもいかない。
どれだけ愛されてるんだか。
呆れたような、どこか安堵のような笑みがこぼれるショーティであった。
やはり3回目となると少しならず、かなり訝しい。
なので、今日は……。
「ショーティさん。だから……まったく、他意はありません」
嫌がらせのように満たされたワイングラスを前に、ケインはやや困惑の色を見せながら冷や汗交じりに告げる。
「けどさ、もう、3回目。せっかくこれからって言うときに会社のcallって嫌がらせでしかないよ」
「たまたま偶然だとは思いますが、仕方がありませんよ。交通は発達しても時差だけはどうしようもないのですから。逆にどうして自分が連絡するといつもショーティさんといるのかそちらの方が気になります。自分はきちんと社長のスケジュールに乗っ取って仕事をしていますからね。ま、そりゃ少しはずれ込むこともありますが、けど、社長にとってはそれも計算の内です」
ふふん、と得意げに話すケインは、ワイングラスを小粋に持ち上げ、コクコクと喉を潤す。
「………!」
やや苦々しい思いでその仕草を見ていたショーティはケインの言葉を脳裏で復唱し、不意に一つの仮定に思い至る。
つまり……ショーティと約束をしている時間に、相手から連絡が入るのは予想の範疇であるということか?
「や。ちょっと待って」
「え?もう注いじゃいましたよ」
まずはショーティのグラスへ、それから自身のグラスへとワインを注ぐケインは、慌ててその手を止める。
「ワインじゃない」
「そうですか?」
なんだろう、この天然っぽいところは意外とアーネストの趣味なのだろうか?
思考を遮られて一瞬眉根を寄せるが、また揚々とワインを飲み、チーズに手を伸ばす仕草を見ると思わず笑みをそそられる。
いや、いや、そんなことより、ともう一度先ほど思い当たった思考を呼び覚ます。
ショーティだって仕事をしている身だ。
コテージにこもっている間は一切の連絡を絶っていたから、戻ってからは精力的に仕事に取り組んでいるし、すでにクリスマスも仕事が入っている。
まあ、連絡を絶っていた夏の頃は、アーネストとのスキャンダルが持ち切りだったらしいが、そもそも彼とは月学園からの友人で、ショーティは自分の志向を隠していない。女性も好きだし、男性もいける。そんな中でほこり一つと出てこないアーネストの相手として始終やり玉に挙げられる。けれど、それだけだし、世間もどこか楽しんでいる風潮もある。
けれど確かに、ずっと近くにいるが、アーネストに特定の誰かがいたことはない。
ないな。それははっきりと言える。
アーネストの雰囲気に変化がみられるのはスイといるときだけだ。
月の学園で一緒だったスイ・カミノクラ。今はドイツで生命科学分野の科学者をしている。
時折アメリカにやってくる彼に会うとき、彼の雰囲気は……そう柔らかく、なる。
うまい言い方がみつからない。
「宗教的感覚…?」
いや、そうでもないのか。
無宗教の自分にはわからないが、ただ本当に心の拠り所のように、宇宙空間でみつけた空気のようにアーネストが心地よく居られる場所のようなそんな存在。
多分、本人に告げると軽く流されるのだろうけれど。
「ショーティさん?」
「あ…」
そうだった。一人ではなかったのだった。
「ケインは……ストレートだよね?」
「え?今はワインを—————えぇっ⁉︎………いや、自分はストレートです!口説いてるんですか?いやほんとに勘弁してください」
「人聞き悪いなぁ。そんなに見境なく口説かないよ。確認しただけ。アーネストの回りの要注意人物を割り出しておかないと」
「本当のところ、ショーティさんは社長とどういう関係なんですか?そんな意味深なことを平気で言うくせに恋人じゃないんですよね」
「———友人、かな」
多分、どういう関係なのかなど気にしたことも確認したこともない。
けれど、多分、誰よりもそばにいると…は思う。気がするけれど。
なんだ、この否定の数々。
「ま、危険に巻き込まれたときには表に立ってあげられるくらいには思っているけれどね」
友情という言葉がどこまでを指すのか、わからない。恋だと自覚はしたが、友情と恋の境目など気の持ちよう一つだろう。それならばその二つを器用に使い分けていく。
アーネストに本当のところを告げるまでは、それはショーティにとって大したことではない。
夏のあの朝。
『おはよう、ショーティ』
コテージの一室で目が覚めたアーネストの姿は惚れ直すには十分で、言葉は本当にうっとりするほど心地よくて、誰も…スイさえ知らないその姿を知っている優越感はショーティの今を支えている。
まぁあの時は、なんでだよ、と悪態をついてしまったのも事実だが。
「ショーティさんは本当に社長のことを大切に思っているんですね」
「そんなこと当たり前だよ」
「うん、では飲みましょう!会社で支えている自分と、プライベートを支えているショーティさんに乾杯!」
「——————ケイン、もしかして酔ってる?」
ビール2杯にワインを二人で1本程度、けれど、どうみてもいい感じに出来上がっているケインにこれ以上飲ませるわけにはいかず、
「チェック」と素早く言い放つ。
「なんでですか!僕はもっと社長を褒め称えたいんですよ。容姿とかじゃなくてもっと本質的なところで」
「あーわかったわかった」
アーネストが仕事に邁進しているということは、秘書であるケインもそこそこハードだということだ。そして仕事柄、社長のことをべらべら話すわけにもいかない。
どれだけ愛されてるんだか。
呆れたような、どこか安堵のような笑みがこぼれるショーティであった。
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