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大切な、友人 ~その判断は人それぞれだよね
失ったモノ
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2112年 1月
さすがに年始のニューヨーク、寒さは半端じゃない。しかし。
「Happy New Year!!」
一斉に夜空に上がる歓声は半ば熱気にあふれる白熱した試合のそれと似ていた。
道行く人々が抱擁と挨拶を交わす。それが他人であろうとなかろうと構わないように。ニューヨークの新年はカーニバルそのものだった。
しかし、先ほど手袋を落としたことに気づいたショーティはどこか憂鬱であった。
そしてたった今交わされた言葉も。
隣には久しぶりのアーネストの姿がある。こんな人混みの中なのに、ショーティのことを思って外で食事を終えたところだ。
そしていつものように『飲み足りないな』と告げたショーティににっこりと最上級ともいえる笑みを向けて、
「この近くにとてもいいbarがあるからそこで飲みなおそうか」と告げてきた。
「まだショーティは連れて行っていないところだし、きっと気にいると思うよ」
うん、アーネストがそう言うならきっと気に入るのだろうと思う。
そうだけれど、僕が言いたいのはそこじゃないし、アーネストが気づいてないとは思えない。あのアーネスト・レドモンだ。
「それってさ、アーネスト。僕のこと、避けているわけ?」
これだけ人が溢れていては手袋はみつからないだろう。ポケットの中で温まるはずの指が先から冷えていく。
「僕が?ショーティを?」
美味しい料理とアルコール。年末年始の忙しさをしばし忘れさせてくれるレストランはアーネストのもてなしとしては最高だった。けれど、ショーティにしてみればもどかしいばかりのものだ。もてなされればもてなされるほど、どこか距離感を覚える。
「避けていないというんだね?…じゃあ、なんで触れないの?」
「え?」
意味を解せないといった様子でアーネストが問いかける。
「なんで抱かないのさ」
だから、はっきりと言葉にする。
もちろん、本当にそれを望んでいるわけではない——————。
いや、この際きれいごとは言わない。
知っているから、アーネストがくれる熱を。アーネスト自身の熱を、身をもって知っているものを、この距離をどうにかして埋めたいと、埋められるのではないかと願ってしまう場所を、求めてしまう。それはいけないことなのか。
そもそも、そういう関係であった。
—————————なのに。
「………ショーティは、僕の大事な、大切な友人だから」
—————え?
何を言ってるのだろう、と思った。
大切な、友人だから………だから……抱かない?
「なに、それ?」
つまり、どういうことだ、と考える。今までの自分たちの関係は、なんだったのかと。
「それに…そういう相手は僕じゃなくてもいるだろう?」
「!ここ半年はいないよ!」
脳が沸騰するかと思った。
ショーティは自分を隠していない。アーネストがどのように自分を見ているのか。捉えているのか。そんなことを確認したこともない。
けれども、つまりはそういうことなのか、とも思う。
今の今まで3年以上もの間、友人だと思っていた自分は何なのか。
そして、騒々しい新年の波が周囲を過ぎる。
うるさい。
まっすぐに見つめてくるアーネストの視線が、形のいい口元が妙に腹立たしい。
思わず胸元に手を伸ばすと、パン!と軽快な音が響いてきた。
瞬時、音が止まる。
「……これが、応えってわけ」
ほらやっぱり、ニューヨークの冬は寒い。手袋をしていない手が赤くなっていく……。思考と、動きが制御できなかった。
そのまま人波の中を器用に後ずさる。
「Happy New Year!!」
声が二人の間に割り込んで、知らずショーティは深夜の中に駆けだしていた。
~~~~~~
何をやっているんだ、と本気で思う。
昔なじみのbarが空いていたのでそこに転がり込んだ。
腹が立っているし、恥ずかしいし、なんだかもうわけがわからない。
考えなければ、考えるんだと自分に言い聞かせるが、グラスを持つ手が寒くて冷たくて、
「手袋…失くしたんだっけ」
そんなどうでもいいことをつぶやいてしまう。
自分の行動が問題なのだとわかっていた。しかし、それを今さら変えるつもりはないし、大事な友人だと言ってくれたのだからいいじゃないか、とも思う。
けれども今は無理だ、と心が告げる。
喉元を過ぎるアルコールがやけにひりつく。
そして、ふらりと立ち上がると、会計を済ませ、通りに出た。
妙に空気が重かった。顔を上げられなくなる前に、新しい酸素を取り入れないと……。
意を決して顔を上げるショーティの目の前には華やかなイルミネーションと花火、人の波。けれど欲しいものは目に入らない。そばにいない。
いや、大丈夫だと自身に言い聞かせて、それでも思わず探してしまう。
見上げた夜空にあるだろう月を。
けれど、ニューヨークのビル群に遮られ……捕らえることはできなかった。
大切な、友人 END
~・~・~・~・~・~・~・~・
いつも読んでくださり、ありがとうございます。次は、僕が僕のためにやろうと思うこと~に出てきた ″高階透″ の視点で書きます。お付き合いくださるとうれしいです。
さすがに年始のニューヨーク、寒さは半端じゃない。しかし。
「Happy New Year!!」
一斉に夜空に上がる歓声は半ば熱気にあふれる白熱した試合のそれと似ていた。
道行く人々が抱擁と挨拶を交わす。それが他人であろうとなかろうと構わないように。ニューヨークの新年はカーニバルそのものだった。
しかし、先ほど手袋を落としたことに気づいたショーティはどこか憂鬱であった。
そしてたった今交わされた言葉も。
隣には久しぶりのアーネストの姿がある。こんな人混みの中なのに、ショーティのことを思って外で食事を終えたところだ。
そしていつものように『飲み足りないな』と告げたショーティににっこりと最上級ともいえる笑みを向けて、
「この近くにとてもいいbarがあるからそこで飲みなおそうか」と告げてきた。
「まだショーティは連れて行っていないところだし、きっと気にいると思うよ」
うん、アーネストがそう言うならきっと気に入るのだろうと思う。
そうだけれど、僕が言いたいのはそこじゃないし、アーネストが気づいてないとは思えない。あのアーネスト・レドモンだ。
「それってさ、アーネスト。僕のこと、避けているわけ?」
これだけ人が溢れていては手袋はみつからないだろう。ポケットの中で温まるはずの指が先から冷えていく。
「僕が?ショーティを?」
美味しい料理とアルコール。年末年始の忙しさをしばし忘れさせてくれるレストランはアーネストのもてなしとしては最高だった。けれど、ショーティにしてみればもどかしいばかりのものだ。もてなされればもてなされるほど、どこか距離感を覚える。
「避けていないというんだね?…じゃあ、なんで触れないの?」
「え?」
意味を解せないといった様子でアーネストが問いかける。
「なんで抱かないのさ」
だから、はっきりと言葉にする。
もちろん、本当にそれを望んでいるわけではない——————。
いや、この際きれいごとは言わない。
知っているから、アーネストがくれる熱を。アーネスト自身の熱を、身をもって知っているものを、この距離をどうにかして埋めたいと、埋められるのではないかと願ってしまう場所を、求めてしまう。それはいけないことなのか。
そもそも、そういう関係であった。
—————————なのに。
「………ショーティは、僕の大事な、大切な友人だから」
—————え?
何を言ってるのだろう、と思った。
大切な、友人だから………だから……抱かない?
「なに、それ?」
つまり、どういうことだ、と考える。今までの自分たちの関係は、なんだったのかと。
「それに…そういう相手は僕じゃなくてもいるだろう?」
「!ここ半年はいないよ!」
脳が沸騰するかと思った。
ショーティは自分を隠していない。アーネストがどのように自分を見ているのか。捉えているのか。そんなことを確認したこともない。
けれども、つまりはそういうことなのか、とも思う。
今の今まで3年以上もの間、友人だと思っていた自分は何なのか。
そして、騒々しい新年の波が周囲を過ぎる。
うるさい。
まっすぐに見つめてくるアーネストの視線が、形のいい口元が妙に腹立たしい。
思わず胸元に手を伸ばすと、パン!と軽快な音が響いてきた。
瞬時、音が止まる。
「……これが、応えってわけ」
ほらやっぱり、ニューヨークの冬は寒い。手袋をしていない手が赤くなっていく……。思考と、動きが制御できなかった。
そのまま人波の中を器用に後ずさる。
「Happy New Year!!」
声が二人の間に割り込んで、知らずショーティは深夜の中に駆けだしていた。
~~~~~~
何をやっているんだ、と本気で思う。
昔なじみのbarが空いていたのでそこに転がり込んだ。
腹が立っているし、恥ずかしいし、なんだかもうわけがわからない。
考えなければ、考えるんだと自分に言い聞かせるが、グラスを持つ手が寒くて冷たくて、
「手袋…失くしたんだっけ」
そんなどうでもいいことをつぶやいてしまう。
自分の行動が問題なのだとわかっていた。しかし、それを今さら変えるつもりはないし、大事な友人だと言ってくれたのだからいいじゃないか、とも思う。
けれども今は無理だ、と心が告げる。
喉元を過ぎるアルコールがやけにひりつく。
そして、ふらりと立ち上がると、会計を済ませ、通りに出た。
妙に空気が重かった。顔を上げられなくなる前に、新しい酸素を取り入れないと……。
意を決して顔を上げるショーティの目の前には華やかなイルミネーションと花火、人の波。けれど欲しいものは目に入らない。そばにいない。
いや、大丈夫だと自身に言い聞かせて、それでも思わず探してしまう。
見上げた夜空にあるだろう月を。
けれど、ニューヨークのビル群に遮られ……捕らえることはできなかった。
大切な、友人 END
~・~・~・~・~・~・~・~・
いつも読んでくださり、ありがとうございます。次は、僕が僕のためにやろうと思うこと~に出てきた ″高階透″ の視点で書きます。お付き合いくださるとうれしいです。
応援ありがとうございます!
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