月について語ってみようか

つきとねこ

文字の大きさ
99 / 136
Birthday

scene.3

しおりを挟む
scene.3

「こ、これ、何!?」

 通話画面の向こうに現れたアーネストに、開口一番尋ねた言葉は微苦笑で受け止められ、

「何って…誕生日プレゼントだよ。誕生日おめでとう、ショーティ。気に入ってもらえたかな?」

 そのまま優雅にも、さも当たり前のように告げるアーネストに、やや拍子抜けしたショーティは、誕生日……と口内でつぶやいた。

 言われて見れば確かに誕生日だった。すっかり忘れていたショーティは、妙に自信ありそうなアーネストに、やられたと素直に思う。思うけれど、

「って言うか、こんな高価なものじゃなくても」
「………気にいらなかったかい?」

 そういう問題じゃなかった。アーネストは時折こう言う高価なものを先の理由で贈ってくれる。それはショーティ自身のことを良く考えてくれているのだから嬉しいことでもあった。けれど、ショーティは記念日を祝うことに慣れていない。両親も、

「そういえば、誕生日だったわね」とケーキを買うくらいだった。とは言っても月学園からこちら一緒に暮らしていないのだからそれは随分と幼い頃の話だ。

 ショーティ自身、アーネストに誕生日だからとプレゼントし始めたのは最近のことだった。それも過ぎた後になって(様々な諸事情と重なっていたのも事実)思い出し。そのため、アーネストに似合いそうで、自分にもわかりやすいもの、として贈ったのがクリスタルでできた楽器を演奏するキリギリスの置物。

 彫りが良くアーネストの生活の一部に似合いそうだなと思ったのが1つ。クリスタルの優雅さ、楽器を奏でるその姿をふとした空き時間に眺める、そんな余裕のある暮らしもいいなと思ったのも1つ。さらに言うなら、揃えるとオーケストラになるという一緒に暮らした年数を確認できる自分への褒美も兼ねて………。
 
 んんっ!わざとらしい咳払いを一つ交えたのは、自分の思考に少しだけ照れたからだったが、ふと、アーネストが声のトーンを落とし、更に溜息を一つつく。

 あ…。

「君に似合いそうだと思ってすぐに購入してしまってね…。やっぱりショーティの意見を聞いてからにすれば良かったかな」
「違う、違うよ、アーネスト。気に入ったよ。結構シンプルでかっこいいし。ルビーと違ってなんかこう、タイトに見せてくれるっていうか」

 それは事実。うん、間違いなく。と鏡の中の自分を思い出してみる。途端、嬉しいのだが、赤面した自身の情けない顔も思い出し、

「……本当に?」

 更に窺うようなアーネストの視線に、

「本当だって。周りに言われて…見たんだけど、自分でも自然で気に入ったよ。
たださあっ」

 思いきり肯定して、それからここからが本題だと言わんばかりに口を開くが、

「それは良かった。君に何を贈ろうかと、これでも必死に考えたんだよ」

 通話のその画面上で、見ため清廉な表情がにっこりと笑みを浮かべる。

 ルビーのピアスの時もそうだったが、それほど見た目を気にしないショーティだ。なのに、アーネストがこれほどの物を贈ってくれる……。これが他人に起きたことならば……。

『愛されてるねぇ』

 絶対にそう揶揄うはずで——————。

「!! ずるいよ、アーネスト!!」

「何がだい?」

 上気した頬を自覚して愛しい存在を睨みつけるが、アーネストは小さく笑いながら、

「今日は早く帰れるのかな?できればもう一度仕切り直しをしたいしね」

 などと言う。

 ——————仕切り直し!?

「~~~~『草月』も、僕へのプレゼントだったわけ?」
「そうだよ」

 勿論、という響きを否定せずに告げるアーネストは、

「だからショーティの好きなようにさせていただろう?」と続ける。

 先日の二人きりを満喫したデートがそのような事実を含んでいたとなると、

「何!? じゃああれ、僕の誕生日じゃなかったら即行、帰ってたわけ!?」
「多分……、ね。まあ、あれはあれで楽しませてもらったけど」

 なんだか、もう、どうしたいって………。

 深いため息がもれてきそうでしかし次の瞬間、ショーティは、はっとしたようにアーネストを見た。

 もしかして……。いや、だけど—————————!

「ショーティ?」

 その表情に気付いたのかアーネストが窺うように名を呼び、その響きに促されるまま、

「ね、アーネスト。……あの日…あ、愛してるって言ったのって、まさかと思うけど、僕の誕生日だったから…、とか?」

「————————————」

 初めての甘い囁き。何よりも身体の奥に触れ、心を満たしたその言葉…。が?

「……って言うか、その沈黙って、何?」

 ショーティの言葉には僅かながら怒気が含まれていた。しかし、

「いや、まあ…当たらずとも遠からずかな、とも思えて……」との答えは火をつけるには充分で。

「僕、今日帰らないからね!!」

 思った瞬間には、口から飛び出していた。

 そんなことないよ、とか。
 それもあるけどね、とか。
 もっと言葉はたくさんあるはずなのに、当たらずとも、遠からず!?

 じゃあ、じゃあ、誕生日じゃなかったら!?

「……そう。じゃあ、しょうがないね」

 怒り爆発のショーティに、しばしの沈黙の後告げるアーネストは深いため息をついた。そしてその響きのまま告げられて、ショーティ自身は思わず唖然としてしまう。

「……………アーネスト…?」
「『ショーティ・アナザー』が、帰ってくる気がないんだろう? じゃあ僕はお怒りが解けるまで待つしかないんじゃないかな。ね、かなん」

 アーネストの足元辺りで、妙に嬉しそうな「わん」という声がした。その声がなぜかさらにショーティの怒気に油を注ぎ、

「そうそうショーティ、そのピアスは外さないようにね。前と似たような細工がしてあるから」
「って言うかっっ!! いったい誰の誕生日だって!?」

 思い出したかのように告げる冷静なまでのアーネストに、ショーティは思わず通話を切っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...