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ディストピア

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ーー死後の世界とは一体どのような場所なのだろうか?

はじめは高齢者の終活の一環として用いられていたものだった。それは棺桶を模したようなベットで、横たわり特殊なナノマシンを注入することでその人に「ある夢」を見せることができ世間では一躍いちやく話題になっている。

その「夢」は天国や地獄、すなわち死後の世界だ。

 死を恐れている高齢者にとって死後の世界を見せることは終末医療のメンタルケアの分野において絶大な効果をもたらし世間にすぐに浸透しんとうした。

これを読んでいるあなたも終活の準備を始めてもいいかもしれないーー

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 朝日が昇る夜明け前、このシステムを開発した男はたばこを吸いながら週刊誌の記事を見て悪態あくたいを付いた。

 人間は物事に意味を求める。それは死ぬことにでさえ例外ではない。死ぬことですべてが無意味になることをみんな恐れているんだ。そこで死んだ先の出来事をイメージさせると、人は不思議なことに死への抵抗は薄まることが分かった。

 はっ、天国も地獄もありやしねえよ。あくまでよくできたイメージ映像だ。

 自分の寿命を縮める毒煙を肺に溜め、ゆっくりと吐き出す。

「これをきっかけにさらに老人に高い保険や商品を売りつける….ただのビジネス、か」

そうつぶやきたばこの吸い殻を灰皿に落とし、持っていた週刊誌を壁に投げつける。

「ちっ、たばこが切れちまった」

多少増税されたとしてもあのシステムを開発した莫大なロイヤリティーがあるのでいくら買おうが関係ないしどれだけ吸おうが止めてくれる人も居ない。

やはりもう一度言おう。死んだ先には何もない。

大事なのは今を生きているこの瞬間だ。

男は新しいタバコを買いにドアを開け、差し込んだ朝日に目を細めた。

この後、「夢」を見させるナノマシンは若者にドラッグとして予想外の使われ方をするがもう俺には関係のないことだ。確かに「天国」はみれるだろうな。

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