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矛盾

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ーーこの国には一つの伝説がある。それは山の頂上に建っている神殿しんでんの奥の部屋に鎮座ちんざしている台座に突き刺さっている一本の剣であった。内乱や戦争がが絶えず利権や私欲、様々な思惑おもわくによって混沌としていた国内外を治めた一人の大英雄が握っていた剣だ。

その剣は一度振るえば大岩を真っ二つにし、すべてを貫き、切れないものはこの世には無いと言わしめた。

そして国を治めた大英雄はその剣を台座に突き刺し姿を消した。

大英雄が姿を消してから数百年後、再び国に危機が訪れ伝説の剣が必要となる事態になった。

しかしここで問題がひとつ起こった。

剣が台座から抜けないのだ。

国の中で一番の怪力を誇る大男が全力を出してもすんとも動かず、国のあらゆる賢者達が知識を振り絞るも台座から剣を抜くことは叶わずもうダメかと全員が思った矢先、その神殿を管理している巫女がつぶやくように言った。

「何でも切れる伝説の剣なのに抜こうとしても押しても引いても傷ひとつ付かないこの台座、最強じゃない?」

巫女の意外な発想にその場にいた全員が衝撃を受けた。

すぐに賢者達は台座の成分を分析して台座と同成分の新素材を開発することに成功した。

そしてその新素材を元に国中の鍛冶屋が防具を作り上げた。

どんな武器からの攻撃や衝撃からでも傷ひとつ付かないその圧倒的な防御力で国の立場は一気に逆転し、隣国すらも支配する大国へと成長した。

そして今では国を守った伝説の防具としてひとつの籠手が神殿にひっそりと祀られているというーーー

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