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精霊の加護037 悪意ある工作
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精霊の加護
Zu-Y
№37 悪意ある工作
ワラを救出して、南府の船着き場に着いたのは昼下がり。遅くなった昼餉を摂りにリシッチャ亭へと戻った。
ここでワラのポジションが決まった。両横で手を繋ぐツリとクレ、両肩にフィアとチル、そしてワラは俺の頭の上にちょこんと座ったのだ。まるで帽子。ちなみに精霊だから重くない。笑
リシッチャ亭では女将さんのジューリアさんがぐったりしていた。
「おい、ジューリア、どうした?」
「ああ、お帰りなさい。こう言う日に限ってお客さんが多いものなのよ。」
「おめぇ、ひとりで店を開けたのか?」
「そりゃ、あなたたちが荒海に乗り出して行ったんですもの。ひとりでのほほんとしてられる訳ないじゃないですか。」
「ジューリア、おめぇはやっぱりいい女だなぁ。」と言ってジューリアさんを抱きすくめるマルコさん。あ、今回は、ジューリアさんは抵抗しない。余程疲れてるんだな。
それから俺たちは昼餉を摂りつつ、情報を整理した。
まず、ワラが封じられた、魔力を吸収する羽衣。これは明らかに魔具だ。魔法学院で詳しく調べてもらおう。
それから羽衣をワラに巻き付けた黒ずくめの魔術師と、ワラを呼び寄せた、精霊と交信できる奴。そして、このふたりを船でワラの縄張りまで運んだ漁師。こいつらの正体を暴かねばな。
あと、ワラを封じたことで、外海から魔物が入って来て湾内に居座り、ひと月に亘って南部は大きな損害を被った。もしこれが計画されたものなら悪意ある工作だ。この工作は、南部への、ひいてはトレホス王国への宣戦布告に等しい。
相手はいったいどこだ?トレホス王国とともにこの大陸を3分する、西のボドブリ帝国か、東の神聖ニュシト教国か?あるいは国家間の摩擦を望む裏の組織か?
指名クエスト達成の報告とともに、これらの懸念をギルマスに伝えねばならない。悪意ある工作の場合は、南部公爵様へも報告が行くに違いない。相手が特定されれば、当然、しっかりと報復することになる。一大事だ。
俺は、精霊たちと、ビーチェさんと一緒に冒険者ギルドに向かった。マルコさんも誘ったが、夜の営業に向けて仕込みをするからいいそうだ。あと漁師仲間にも、黒ずくめの魔術師と精霊と交信できる奴に、船を出した漁師がいないか探ってくれるそうだ。
遅い昼餉と情報の整理が終わって、冒険者ギルドに行ったのは夕方だった。ギルドの中に入ると、すぐに受付嬢から呼ばれた。
「ゲオルクさん!ギルマスがお待ちです。すぐに呼んで来ますから待ってて下さいね。」ピューッと中に消えた。
しばらくして、
「ゲオルク、よくやった。まさか1日で達成するとは思わなかったぞ。よく精霊様を鎮めてくれた!ほんとに凄いな、精霊魔術師は!」
と、興奮したギルマスが飛び出して来た。
「そのことだけどな、やっぱり精霊が暴れてたんじゃなかったぞ。」
「え?じゃぁなんだったんだ?」
「ここではちょっと。内密に話したいこともある。」
「分かった。ギルマスルームに来てくれ。ところでひとり増えてないか?」
「水の精霊と契約したんだよ。」
「なんだって?随分おとなしいな。」
「これで水の精霊が暴れてた訳じゃないって分かったろ?」
俺とビーチェさんはギルマスルームに通された。俺は事情をギルマスに話した。
「この羽衣を見てくれ。」俺は、吸魔の羽衣と名付けた、魔力を吸収する羽衣を取り出した。
「なんだこれは?うわっ、魔力が吸われるようだ。」いったん羽衣を手に取ったギルマスが、すぐに羽衣を手放した。
「ギルマス、あんた、術士上がりか?」
「ああ、神官をやってた。」
「そうか。この羽衣は魔力を吸い取る厄介な代物だ。しかも巻き付かれると自分では外せないんで余計質が悪い。吸魔の羽衣と名付けたがな、間違いなく魔具だ。」
「お前は触っててなんともないのか?」
「俺は魔力を放出できないからな。この羽衣が俺から魔力を吸いたくても、吸えないのさ。魔法学院で、この羽衣の魔力を吸い取る仕組みを解明して欲しい。頼めるか?」
「ゲオルクからの正式な依頼か?」
「いや、公的な依頼になると思うぞ。
新たに契約した水の精霊のワラだがな、ひと月前に、黒ずくめの魔術師からこの羽衣を巻き付けられ、魔力を吸い取られて、このひと月は身動き取れなくなって、海中に漂っていたんだ。」
「なんだって?」ギルマスの血相が変わり、身を乗り出して来た。
「まぁ落ち着いて聞け。
昨日、今日と浜から湾に向かって呼び掛けたが反応はなくてな、ただ、そこら中にいる小さい精霊たちが案じていたから、返事がなくても海にいることだけは確信していた。
そこで、俺と契約している精霊たちに頼んで探してもらったら、南府の真南10㎞沖の海中に漂うワラを見付けてくれた。だからワラを救出しに、船で沖に出たんだ。」
「ちょっと待て。あの荒れた海に船を出したのか?」
「ああ、そうだ。あんたが紹介してくれたリシッチャ亭のご亭主のマルコさんが船を出してくれたよ。俺とビーチェさんも船に乗り込んで、マルコさんと3人で現場に行ったんだ。
船で近付いて、ようやくワラと直接交信で来た。ワラは、羽衣に魔力を吸い取られたせいで無力化され、水深30mの海中を漂っていたんだ。ワラからいる場所を聞き、その情報を頼りに網を投げ込んでワラを引き上げた。弱っていたワラから吸魔の羽衣を取り外して回復させ、その場で契約したんだ。」
「では水の精霊が暴れていた訳ではなかったのだな。」
「だから最初からそうだと言っているじゃないか。」
「じゃあ海が荒れたのはなんでだ?」
「ワラが弱ったせいで、外洋から魔物が湾内に侵入して来て居座ってたんだ。」
「そうだったのか!で、その魔物は。」
「元気になったワラも含めて、うちの精霊たちが追い払ったよ。魔力を一気に放出して威嚇しただけで、一目散に外洋へ逃げて行ったぜ。」
「そうか、では水の精霊を鎮めるのが指名依頼だったが、救出したことで依頼達成と見做そう。それから魔物の追放も追加認定しよう。指名依頼の報酬は大金貨5枚だ。そこに魔物追放の報酬も加えるが、魔物は何だったんだ?」
「さあ。一目散に逃げるところを遠目に見ただけだからな。」
「うーん、それだと魔物を追い払った報酬が算定できないな。」
「確かにそれは一理あるな。
なあ、皆で追っ払った魔物って、何だったか分かる?」
『『『『『リヴァイアサン。』』』』』』
「なんだと?」
驚いて食い付くギルマスに、精霊たちは俺の陰に隠れた。
「すまん。人見知りなんだ。」
「ああ、そうだったな。こちらこそすまん。
リヴァイアサンなら、湾内があれだけ荒れてたのも頷ける。リヴァイアサンを追い払ったんだから少なく見積もっても大金貨2枚にはなるな。ところでリシッチャ亭の亭主だが…。」
「マルコさんには、今回の報酬の半分を渡すつもりだ。」
「それは助かる。冒険者ギルドは冒険者以外には賞金を出せんのだ。」
「俺は、マルコさんへの報酬は、当然のものだと思ってるよ。そもそもマルコさんが船を出してくれなかったら、ワラを仲間にできなかったし、魔物も追い払えなかったからな。」
「しかしその黒ずくめの魔術師はいったい何者なんだ?大体、水の精霊を無力化して何の得がある?結果的に魔物が湾内に侵入して海が荒れ、漁も島との往来も途切れた。まったくいいことなどないではないか!」
「南部、ひいてはトレホス王国にとってはまさにその通りだな。」
「なんだと?まさか…。」
「魔物を引き込むために精霊を無力化したとしたら?南部を疲弊させるのが目的だとしたら?」
「弱体化した南部に侵攻して来るつもりか!おのれ、ボドブリ帝国が仕掛けて来たか、それとも神聖ニュシト教国の仕業か?」
「あるいは両方が手を組んでるかもしれんな。」
「なんだと!」
「そして他の可能性もある。」
「どんな可能性だ?」
「王国と、帝国あるいは教国が険悪になれば互いに軍備を増強するだろうな。そして戦に発展すればさらに武器がいる。」
「裏組織の武器商人たちか?」
「あくまでも可能性だがな。これが悪意ある工作なら、帝国にしろ、教国にしろ、裏組織にしろ、もはや王国に宣戦布告して来たのと同じだと思うぞ。」
「その通りだな。これは一刻も早く、南部公爵様に報告せねばならん。」
「黒ずくめの魔術師や精霊と交信できる奴を捕らえられればいいが、工作員なら、もう王国にはいまいよ。だからこそ、奴らが残した魔具の解析は重要だ。仕組みの解明もそうだが、どこの品か分かれば仕掛けて来た連中を割り出す有力な証拠となる。
あとは、せいぜい奴らを沖に運んだ漁師を探し出すことだな。敵の息が掛かった協力者か、あるいは結構な報酬を積まれた只の漁師か、いずれにせよ南府の漁師については、マルコさんに頼んで、もう調べ出しているぞ。しかし南府の漁師とは限らん。」
「ゲオルク、手回しがいいな。それから魔具の羽衣の解析については、ギルドから魔法学院に依頼しよう。公的なものとしてな。」
「やっぱ、当然そうなるよな。」
「それと俺はこれから、魔法学院、教会、公爵邸と巡る。すまんが、ゲオルクも同道してくれんか?」
「いや、それは断る。当面は南部で対処すべき案件だよな。そこに部外者の俺がしゃしゃり出る必要はないだろ。」
「確かにそうだな。そう言えばゲオルクはしばらく南府にいるのだろう?」
「いや、間もなく南府に着く予定の仲間ふたりと合流したら、いったん東府に帰る。」
「そうか。それも致し方あるまい。ただし、状況が悪化したらまた指名依頼を出す。そのときは駆け付けてくれよ。」
「ああ、分かった。」
「報告、感謝する。受付で報酬を受け取って帰ってくれ。それと明日、もう一度ギルドに顔を出して欲しい。」
「まだ何かあるのか?今日、まとめて済ませられないかな?」
「すまんが、ここでの即決は無理でな。今晩中に処理するから明日の朝まで時間をくれ。」
「分かった。」
俺たちはギルマスルームを出て、受付で報酬を受け取った。精霊を鎮めると言う依頼が、精霊を救出する事態になったものの、その結果は同じと評価されて予定通りの大金貨5枚、リヴァイアサンを追い払ったことで大金貨2枚、合計大金貨7枚だ。
俺たちはそのままリシッチャ亭に帰り、俺は夕餉に、ジューリアさん自慢の本土料理コースを注文した。マルコさんの島料理に匹敵するくらい旨かった。
夕餉を終えて温泉の大浴場に精霊たちと入った。水浴びが好きな精霊たちは大はしゃぎだった。特にワラが。笑
レストランの営業時間が引けた頃、俺はマルコさんを訪ねた。
「おう、ゲオルクか。今ちょうど夕餉を終えたとこよ。」
「マルコさん、今日は船を出してくれて本当にありがとうございました。荒れた海を静めた報酬がギルドから出たので、そこから船のチャーター料をお支払いします。」
俺は大金貨3枚をマルコさんの前に置いた。
「え?何でこんな大金なんだ?」
「ギルドからの報酬が大金貨7枚だったんです。マルコさんとスピリタスで山分けってことですが、端数は頂きました。マルコさん3枚、うちが4枚。これでいいですか?」
「いいも悪いもあるかよ。こんなに貰っちまってすまねぇ。」
マルコさんは、ジューリアさんとビーチェさんに向き直った。
「ジューリア、おめぇよく留守を守って、ひとりで昼の営業を切り盛りしてくれたな。これはその祝儀だ。
それからビーチェ、ゲオルクと行くんだろう?これは餞別だ。今まで看板娘をやってくれてありがとよ。」
「あなた、ありがとうございます。」「叔父さん、ありがとうっ!」
そう言って、マルコさんは大金貨を1枚ずつ、ジューリアさんとビーチェさんに渡した。ふたりは礼を言って受け取った。こう言うとき、変に遠慮するのは、マルコさんの男気にケチを付けることになる。
「さて、そろそろ休みます。」
「僕はこの後、稽古するよ。」ビーチェさんからアイコンタクトが来た!
「おい、てめえら、その後にまたナニするつもりじゃねぇだろうな?」マルコさんのお邪魔虫が発動する。
「しない…かな?」眼を逸らすビーチェさん。お、これは部屋に来る気満々っぽい♪
ところがここで思わぬ伏兵が…。
「ビーチェ、せっかく冒険者に戻ったのに、妊娠したらまた中断よ。」
「え?ああ、それもそうだよね。義叔母さん、ありがと。
ゲオっち、そう言う訳だから、しばらくお預けだよ。」
「うん、でも俺がAランクになったら口説くぞ。」
「いいよ。僕もそれまで待ってるね。」
「おい、だからそれは…。」
「あなた、野暮はおやめなさいな。」ジューリアさんのひと言でマルコさんは口をつぐんだ。笑
俺は部屋に戻ってベッドに入った。すぐに精霊たちが潜り込んで来る。両横をツリとクレ、胸の上にフィア、腹の上にチル。ワラはどうするかと思っていたら、俺の股座を枕にして、両腿の間にすっぽり収まった。笑
外からはヒュンヒュンと、ビーチェさんの刀術の稽古の音が聞こえる。この音を子守唄に、俺は眠りに就いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
設定を更新しました。R4/3/13
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
Zu-Y
№37 悪意ある工作
ワラを救出して、南府の船着き場に着いたのは昼下がり。遅くなった昼餉を摂りにリシッチャ亭へと戻った。
ここでワラのポジションが決まった。両横で手を繋ぐツリとクレ、両肩にフィアとチル、そしてワラは俺の頭の上にちょこんと座ったのだ。まるで帽子。ちなみに精霊だから重くない。笑
リシッチャ亭では女将さんのジューリアさんがぐったりしていた。
「おい、ジューリア、どうした?」
「ああ、お帰りなさい。こう言う日に限ってお客さんが多いものなのよ。」
「おめぇ、ひとりで店を開けたのか?」
「そりゃ、あなたたちが荒海に乗り出して行ったんですもの。ひとりでのほほんとしてられる訳ないじゃないですか。」
「ジューリア、おめぇはやっぱりいい女だなぁ。」と言ってジューリアさんを抱きすくめるマルコさん。あ、今回は、ジューリアさんは抵抗しない。余程疲れてるんだな。
それから俺たちは昼餉を摂りつつ、情報を整理した。
まず、ワラが封じられた、魔力を吸収する羽衣。これは明らかに魔具だ。魔法学院で詳しく調べてもらおう。
それから羽衣をワラに巻き付けた黒ずくめの魔術師と、ワラを呼び寄せた、精霊と交信できる奴。そして、このふたりを船でワラの縄張りまで運んだ漁師。こいつらの正体を暴かねばな。
あと、ワラを封じたことで、外海から魔物が入って来て湾内に居座り、ひと月に亘って南部は大きな損害を被った。もしこれが計画されたものなら悪意ある工作だ。この工作は、南部への、ひいてはトレホス王国への宣戦布告に等しい。
相手はいったいどこだ?トレホス王国とともにこの大陸を3分する、西のボドブリ帝国か、東の神聖ニュシト教国か?あるいは国家間の摩擦を望む裏の組織か?
指名クエスト達成の報告とともに、これらの懸念をギルマスに伝えねばならない。悪意ある工作の場合は、南部公爵様へも報告が行くに違いない。相手が特定されれば、当然、しっかりと報復することになる。一大事だ。
俺は、精霊たちと、ビーチェさんと一緒に冒険者ギルドに向かった。マルコさんも誘ったが、夜の営業に向けて仕込みをするからいいそうだ。あと漁師仲間にも、黒ずくめの魔術師と精霊と交信できる奴に、船を出した漁師がいないか探ってくれるそうだ。
遅い昼餉と情報の整理が終わって、冒険者ギルドに行ったのは夕方だった。ギルドの中に入ると、すぐに受付嬢から呼ばれた。
「ゲオルクさん!ギルマスがお待ちです。すぐに呼んで来ますから待ってて下さいね。」ピューッと中に消えた。
しばらくして、
「ゲオルク、よくやった。まさか1日で達成するとは思わなかったぞ。よく精霊様を鎮めてくれた!ほんとに凄いな、精霊魔術師は!」
と、興奮したギルマスが飛び出して来た。
「そのことだけどな、やっぱり精霊が暴れてたんじゃなかったぞ。」
「え?じゃぁなんだったんだ?」
「ここではちょっと。内密に話したいこともある。」
「分かった。ギルマスルームに来てくれ。ところでひとり増えてないか?」
「水の精霊と契約したんだよ。」
「なんだって?随分おとなしいな。」
「これで水の精霊が暴れてた訳じゃないって分かったろ?」
俺とビーチェさんはギルマスルームに通された。俺は事情をギルマスに話した。
「この羽衣を見てくれ。」俺は、吸魔の羽衣と名付けた、魔力を吸収する羽衣を取り出した。
「なんだこれは?うわっ、魔力が吸われるようだ。」いったん羽衣を手に取ったギルマスが、すぐに羽衣を手放した。
「ギルマス、あんた、術士上がりか?」
「ああ、神官をやってた。」
「そうか。この羽衣は魔力を吸い取る厄介な代物だ。しかも巻き付かれると自分では外せないんで余計質が悪い。吸魔の羽衣と名付けたがな、間違いなく魔具だ。」
「お前は触っててなんともないのか?」
「俺は魔力を放出できないからな。この羽衣が俺から魔力を吸いたくても、吸えないのさ。魔法学院で、この羽衣の魔力を吸い取る仕組みを解明して欲しい。頼めるか?」
「ゲオルクからの正式な依頼か?」
「いや、公的な依頼になると思うぞ。
新たに契約した水の精霊のワラだがな、ひと月前に、黒ずくめの魔術師からこの羽衣を巻き付けられ、魔力を吸い取られて、このひと月は身動き取れなくなって、海中に漂っていたんだ。」
「なんだって?」ギルマスの血相が変わり、身を乗り出して来た。
「まぁ落ち着いて聞け。
昨日、今日と浜から湾に向かって呼び掛けたが反応はなくてな、ただ、そこら中にいる小さい精霊たちが案じていたから、返事がなくても海にいることだけは確信していた。
そこで、俺と契約している精霊たちに頼んで探してもらったら、南府の真南10㎞沖の海中に漂うワラを見付けてくれた。だからワラを救出しに、船で沖に出たんだ。」
「ちょっと待て。あの荒れた海に船を出したのか?」
「ああ、そうだ。あんたが紹介してくれたリシッチャ亭のご亭主のマルコさんが船を出してくれたよ。俺とビーチェさんも船に乗り込んで、マルコさんと3人で現場に行ったんだ。
船で近付いて、ようやくワラと直接交信で来た。ワラは、羽衣に魔力を吸い取られたせいで無力化され、水深30mの海中を漂っていたんだ。ワラからいる場所を聞き、その情報を頼りに網を投げ込んでワラを引き上げた。弱っていたワラから吸魔の羽衣を取り外して回復させ、その場で契約したんだ。」
「では水の精霊が暴れていた訳ではなかったのだな。」
「だから最初からそうだと言っているじゃないか。」
「じゃあ海が荒れたのはなんでだ?」
「ワラが弱ったせいで、外洋から魔物が湾内に侵入して来て居座ってたんだ。」
「そうだったのか!で、その魔物は。」
「元気になったワラも含めて、うちの精霊たちが追い払ったよ。魔力を一気に放出して威嚇しただけで、一目散に外洋へ逃げて行ったぜ。」
「そうか、では水の精霊を鎮めるのが指名依頼だったが、救出したことで依頼達成と見做そう。それから魔物の追放も追加認定しよう。指名依頼の報酬は大金貨5枚だ。そこに魔物追放の報酬も加えるが、魔物は何だったんだ?」
「さあ。一目散に逃げるところを遠目に見ただけだからな。」
「うーん、それだと魔物を追い払った報酬が算定できないな。」
「確かにそれは一理あるな。
なあ、皆で追っ払った魔物って、何だったか分かる?」
『『『『『リヴァイアサン。』』』』』』
「なんだと?」
驚いて食い付くギルマスに、精霊たちは俺の陰に隠れた。
「すまん。人見知りなんだ。」
「ああ、そうだったな。こちらこそすまん。
リヴァイアサンなら、湾内があれだけ荒れてたのも頷ける。リヴァイアサンを追い払ったんだから少なく見積もっても大金貨2枚にはなるな。ところでリシッチャ亭の亭主だが…。」
「マルコさんには、今回の報酬の半分を渡すつもりだ。」
「それは助かる。冒険者ギルドは冒険者以外には賞金を出せんのだ。」
「俺は、マルコさんへの報酬は、当然のものだと思ってるよ。そもそもマルコさんが船を出してくれなかったら、ワラを仲間にできなかったし、魔物も追い払えなかったからな。」
「しかしその黒ずくめの魔術師はいったい何者なんだ?大体、水の精霊を無力化して何の得がある?結果的に魔物が湾内に侵入して海が荒れ、漁も島との往来も途切れた。まったくいいことなどないではないか!」
「南部、ひいてはトレホス王国にとってはまさにその通りだな。」
「なんだと?まさか…。」
「魔物を引き込むために精霊を無力化したとしたら?南部を疲弊させるのが目的だとしたら?」
「弱体化した南部に侵攻して来るつもりか!おのれ、ボドブリ帝国が仕掛けて来たか、それとも神聖ニュシト教国の仕業か?」
「あるいは両方が手を組んでるかもしれんな。」
「なんだと!」
「そして他の可能性もある。」
「どんな可能性だ?」
「王国と、帝国あるいは教国が険悪になれば互いに軍備を増強するだろうな。そして戦に発展すればさらに武器がいる。」
「裏組織の武器商人たちか?」
「あくまでも可能性だがな。これが悪意ある工作なら、帝国にしろ、教国にしろ、裏組織にしろ、もはや王国に宣戦布告して来たのと同じだと思うぞ。」
「その通りだな。これは一刻も早く、南部公爵様に報告せねばならん。」
「黒ずくめの魔術師や精霊と交信できる奴を捕らえられればいいが、工作員なら、もう王国にはいまいよ。だからこそ、奴らが残した魔具の解析は重要だ。仕組みの解明もそうだが、どこの品か分かれば仕掛けて来た連中を割り出す有力な証拠となる。
あとは、せいぜい奴らを沖に運んだ漁師を探し出すことだな。敵の息が掛かった協力者か、あるいは結構な報酬を積まれた只の漁師か、いずれにせよ南府の漁師については、マルコさんに頼んで、もう調べ出しているぞ。しかし南府の漁師とは限らん。」
「ゲオルク、手回しがいいな。それから魔具の羽衣の解析については、ギルドから魔法学院に依頼しよう。公的なものとしてな。」
「やっぱ、当然そうなるよな。」
「それと俺はこれから、魔法学院、教会、公爵邸と巡る。すまんが、ゲオルクも同道してくれんか?」
「いや、それは断る。当面は南部で対処すべき案件だよな。そこに部外者の俺がしゃしゃり出る必要はないだろ。」
「確かにそうだな。そう言えばゲオルクはしばらく南府にいるのだろう?」
「いや、間もなく南府に着く予定の仲間ふたりと合流したら、いったん東府に帰る。」
「そうか。それも致し方あるまい。ただし、状況が悪化したらまた指名依頼を出す。そのときは駆け付けてくれよ。」
「ああ、分かった。」
「報告、感謝する。受付で報酬を受け取って帰ってくれ。それと明日、もう一度ギルドに顔を出して欲しい。」
「まだ何かあるのか?今日、まとめて済ませられないかな?」
「すまんが、ここでの即決は無理でな。今晩中に処理するから明日の朝まで時間をくれ。」
「分かった。」
俺たちはギルマスルームを出て、受付で報酬を受け取った。精霊を鎮めると言う依頼が、精霊を救出する事態になったものの、その結果は同じと評価されて予定通りの大金貨5枚、リヴァイアサンを追い払ったことで大金貨2枚、合計大金貨7枚だ。
俺たちはそのままリシッチャ亭に帰り、俺は夕餉に、ジューリアさん自慢の本土料理コースを注文した。マルコさんの島料理に匹敵するくらい旨かった。
夕餉を終えて温泉の大浴場に精霊たちと入った。水浴びが好きな精霊たちは大はしゃぎだった。特にワラが。笑
レストランの営業時間が引けた頃、俺はマルコさんを訪ねた。
「おう、ゲオルクか。今ちょうど夕餉を終えたとこよ。」
「マルコさん、今日は船を出してくれて本当にありがとうございました。荒れた海を静めた報酬がギルドから出たので、そこから船のチャーター料をお支払いします。」
俺は大金貨3枚をマルコさんの前に置いた。
「え?何でこんな大金なんだ?」
「ギルドからの報酬が大金貨7枚だったんです。マルコさんとスピリタスで山分けってことですが、端数は頂きました。マルコさん3枚、うちが4枚。これでいいですか?」
「いいも悪いもあるかよ。こんなに貰っちまってすまねぇ。」
マルコさんは、ジューリアさんとビーチェさんに向き直った。
「ジューリア、おめぇよく留守を守って、ひとりで昼の営業を切り盛りしてくれたな。これはその祝儀だ。
それからビーチェ、ゲオルクと行くんだろう?これは餞別だ。今まで看板娘をやってくれてありがとよ。」
「あなた、ありがとうございます。」「叔父さん、ありがとうっ!」
そう言って、マルコさんは大金貨を1枚ずつ、ジューリアさんとビーチェさんに渡した。ふたりは礼を言って受け取った。こう言うとき、変に遠慮するのは、マルコさんの男気にケチを付けることになる。
「さて、そろそろ休みます。」
「僕はこの後、稽古するよ。」ビーチェさんからアイコンタクトが来た!
「おい、てめえら、その後にまたナニするつもりじゃねぇだろうな?」マルコさんのお邪魔虫が発動する。
「しない…かな?」眼を逸らすビーチェさん。お、これは部屋に来る気満々っぽい♪
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「ビーチェ、せっかく冒険者に戻ったのに、妊娠したらまた中断よ。」
「え?ああ、それもそうだよね。義叔母さん、ありがと。
ゲオっち、そう言う訳だから、しばらくお預けだよ。」
「うん、でも俺がAランクになったら口説くぞ。」
「いいよ。僕もそれまで待ってるね。」
「おい、だからそれは…。」
「あなた、野暮はおやめなさいな。」ジューリアさんのひと言でマルコさんは口をつぐんだ。笑
俺は部屋に戻ってベッドに入った。すぐに精霊たちが潜り込んで来る。両横をツリとクレ、胸の上にフィア、腹の上にチル。ワラはどうするかと思っていたら、俺の股座を枕にして、両腿の間にすっぽり収まった。笑
外からはヒュンヒュンと、ビーチェさんの刀術の稽古の音が聞こえる。この音を子守唄に、俺は眠りに就いた。
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設定を更新しました。R4/3/13
更新は火木土の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
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カクヨム様、小説家になろう様にも投稿します。
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ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
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村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
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そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
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気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
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