銀色の雲

火曜日の風

文字の大きさ
32 / 91
3章 まず行動、目的は後からやってくる

4話 出会いは裏路地で その2

しおりを挟む

 日が沈んだスラム街の狭い路地奥、2人の姉弟が座り込み肩を寄せ合って、通りの方を見つめていた。その姉弟は、人族の街には居ないはずの種族であった。茶色の髪をかき分けて、三角のフカフカの耳が、頭に乗っかっている。そして、お尻の部分には猫族の尻尾と違う、長い毛に覆われた、フサフサの尻尾があった。クッド族である、犬系の種族であった。

「これまでか・・・」
「おねーちゃん・・・」

 弟は姉の服をつかみ、今にも泣きそうな表情で、姉を見上げていた。通りの方を見つめていた姉は、振り返り弟をそっと抱きしめた。そして、弟にしか聞こえない小さな声で話し始めた。

「大丈夫よ、私が何とかするから。いい? 後で迎えに来るから、ここでじっとしていなさい」
「・・・でも」
「かならず・・・必ず、戻ってくるから。返事は?」
「うん、待ってる」

「よし!」と姉は、弟の頭に手を置く。そして、その手を彼の後頭部に回し彼女は、弟の額に口づけをした。その時、彼女の鼻は、皮の臭いを感じ取った。近い、来る… そう思った彼女は、弟の体を近くの物陰に押し込み、彼に背を向け立ち上がった。そして、もう一度弟の方を振り返り、彼の姿、その顔を再び確認し、そのまま長く見つめ続けていた。

 弟は姉を見つめたまま、何かを言おうと口を開こうとした。しかし姉は人差し指を口に当て、静かにするように目で合図をしていた。弟をそれを見て、両手で口を塞ぎ頭を縦に何度も振り続けた。彼女は、それを見て振り返り、その先にある通りを見た。そして、強くなる皮の臭いで、彼女は通りの方に向かってゆっくり歩き始めた。

 彼女が歩き始めるとほぼ同時に、通りに皮の鎧を着た兵士が姿を現した。兵士は、そこで立ち止まり、ゆっくりと彼女の方を向いた。兵士の目は彼女をとらえると、強く息を吸い込んだ。そして大声をだそうとした時、彼女は兵士に向かって走り出した。そして兵士に体当たりした。体当たりを食らった兵士は、バランスを崩し後方に倒れた。

「ノロいな」

 彼女は倒れた兵士を、そのまま見下ろしていた。そして少しづつ、少しずつ回り込み、彼女を見ている兵士の視界を、弟の居る場所から離していった。そして、その視界が弟から消え去った時。彼女は、ゆっくりと兵士から距離を取り始めた。


 そんな出来事を、倒れた兵士の十数メートル後方で、偶然見ていた人物がいた。つい先程、スラム街に入って来た麻衣であった。

「おおぉ~犬娘だぁ、キタコレ! 助けないと!」

 麻衣は右人差し指に、エネルギー弾の準備をした。そして、地面に倒れ座り込んでいる兵士に照準を合わせようと、うっすらと先端が光っている指先を顔の前に上げた。兵士を撃とう… と思ったが、さすがに兵士を攻撃するのマズいな… と思いとどまる。ならばと、犬娘を撃とう… と照準を変える。しかし… と考え込んだ。兼次から事件を起こすな! と言われているのと、さらに攻撃するな! と言われたのを、思い出し迷っていた。


「捕まえて見ろ! お前にできるか?」と犬耳の彼女は、倒れている兵士の顔を見て、口元だけで兵士を嘲笑う。そして、スラム街の奥に向かって走って行った。

「いたぞー! 追えー! 捕まえろー!」

 路地に兵士の大声が鳴り響いた。近くにいた兵士は、その声で気づき逃げていった人影を追って走り始めた。体当たりを食らった兵士も、急いで起き上がると、続いて走り追って行った。

「あぁーあ、犬娘が行っちゃったよ… これは、私を迷わせた、兼次ちゃんが悪い!」と言いながら麻衣は、犬耳の女性が出てきた辺りまで歩き始めた。  


 取り残された犬耳の少年は、薄暗く狭い路地で地面に座り込んでいた。自身の体に、腕を巻き付ける。小さく、小さく、その体を、その足を、引き寄せ縮こまった。そして、物陰の隙間から、先の通りを息を潜め見ていた。
 暫らく見ていると、その先に黒い人影が現れた。彼からは、星明りの逆光で人影としか見えなかった。彼は、その人影を見上げると、その頭に2つの膨らみを見つけた。
 彼は、その頭の膨らみを、耳だ… と思い込む。そして、姉が返って来た… と考えると、自然に体が動き、その人影に向かって走った。

「おねーちゃん」と彼は、その人影の服をつかんだ。
「だから、スカート引っ張んなって! って、え?」と、そこに現れたのは麻衣であった。彼が耳と間違えた2つの膨らは、彼女のツインテールの根元の部分であった。

 彼は麻衣のスカートから手を離すと、ゆっくりと後ずさりを始めた。表情は強張り、今にも泣きそうな表情だった。

「マジデスカ… 犬耳男の娘だ。かわいーんだけど。まって、まって… にげないでぇー」

 彼は麻衣から背を向けると、走って逃げようとした。足で地面を強く蹴り、腕を懸命に振る。しかし、彼の体は進まなかった。虚しく空を切る両足、そして彼は地面を見る。その足は、地面から浮き上がっていた。

「だめだよー、にげちゃ。大丈夫! おねーちゃんは味方だよ!」

 彼の後方から、麻衣の声が聞こえた。彼は驚きの表情で、その声の方を振り返る。そこには、右手を彼の方に向け立ち尽くす麻衣の姿があった。そして麻衣は、彼の方へ歩み寄る。それと同時に、彼の体は自身の意思とは無関係に、回転し麻衣の方を向いた。

「大丈夫、怖がらないでー。なにも、何もしないからねー。えへへへぇ」

 麻衣は怯えている彼に向かって、歩き始めた。それと同時に、彼の体は地面に尻から落ちると。「あぅ」という小さな声が、口から洩れた。彼は尻を引きずりながら、両手で器用に麻衣から遠ざかろうと、少しづつ後退を始めた。
 麻衣は後退する彼を見ると、すばやく彼の元に移動する。そして彼の前で座り、両手を彼の両肩に置いた。

「そこにいるのは誰だ!」

 麻衣の後方から、突然声が聞こえた。彼女は声の方へ振り返ると、そこには中央広場で話かけた兵士が立っていた。彼女は両手に力を入れ、少年の体勢を押し下げる。そして自身に引き寄せて、兵士から見えない様にした。

「さっきの兵士さん、どうしたの?」

 麻衣は首だけで振り返り、兵士を見上げる。それと同時に彼女の両手に、震えている少年の振動が伝わった。彼女は少年の震えから、これは見つかるとまずい展開かも? …と思い、この場をやり過ごす展開を考え始めた。

「お前は、さっきの女だな? ここで、何をしている?」
「我慢できなかったの! 見ないでくれるかな?」

「・・・こんな所で、するなよ」
「だからー、見てないで素早く立ち去る! はいっ、行った、行った!」
「す…すまん」と兵士は、気まずそうに立ち去った。

「大丈夫、もう行ったよ」と麻衣は振り返り、少年を見た「何があったの? 話してごらん、助けてあげる。でも、その前にぃー」と彼女は、その手を少年の頭に乗せる。

「犬耳だぁー、えへへへへ、尻尾もいいかなー?」
「お、おねーちゃん。くすぐったい・・・」

 それから麻衣による、少年への犬耳、尻尾のお触りタイムが始まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...