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最終章 白雉の微睡
付・六月晦大祓
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※現在、神社では祭祀の前に祓が奏上される。六月と十二月に行われる大祓では「大祓詞」が奏上されるが、この「大祓詞」の原型となったと考えられているのが「六月晦大祓」である。「六月晦大祓」の成立は七世紀中頃以降とされるが誰が記録したのかは明らかでなく、一説には近江大津京の時代に作られたとも云われている。日本書紀には天智天皇が中臣金に祝詞を奏上させたという記録が残っている。
集侍はれる親王、諸王、諸臣、百官人等諸聞食せと宣る
――集まり侍る親王、諸王、諸臣、百官人ら皆、聞し召せと宣る
天皇が朝廷に仕奉る比礼挂くる伴男、手襁挂くる伴男、靫負ふ伴男、剱佩く伴男、伴男の八十伴男を始めて、官官に仕奉る人等の過犯しけむ雑雑の罪を今年の六月の晦の大祓に祓給ひ清給ふ事を諸聞食せと宣る
――天皇のおわす朝廷で、御膳を賄う官人、弓矢と剣で守る武官、その他の諸官が犯した様々な罪を今年の六月晦日の大祓で祓い清めることを聞し召せと宣る
高天原に神留り坐す皇親神漏岐神漏美の命以ちて、八百万の神等を神集に集賜ひ、神議に議賜て、我が皇孫之尊は豊葦原の水穂の国を安国と平けく所知食と事依し奉き
――かつて高天原におられる皇親神、神漏岐と神漏美の命によって八百万の神々が集まり議り、我らの皇孫之尊に豊葦原の水穂の国を安らかに治めよと命じられた
如此依し奉し国中に荒振神達をば神問しに問し賜ひ、神掃に掃賜ひて語問し、磐根樹の立草の垣葉をも語止て、天磐座放ち天の八重雲を伊頭の千別に千別て天降依し奉き
――神々は国中の荒ぶる神になぜ荒ぶるのかと問い質し、従わない神を追い払い、樹木草草に至るまで押し鎮めた。そして天磐座を開け放ち、八重雲を伴わせながら皇孫を天から地に降ろした
如此依さし奉し四方の国中と大倭日高見之国を安国と定奉て、下津磐根に宮柱太敷立て、高天原に千木高知て、皇御孫之命の美頭の御舎仕奉て、天之御蔭日之御蔭と隠坐て、安国と平けく所知食む
――皇孫は国中と大和の地が安らかな国であると定め、地に大きな柱を立て天に届くかのような高さの屋根に千木を置いて皇孫の宮とされ、天の陰、日の陰から国を安んじられた
国中に成出む天の益人等が過犯けむ雑々の罪事は天津罪と、畦放、溝埋、樋放、頻蒔、串刺、生剥、逆剥、屎戸、ここだくの罪を天津罪と法別て、
――やがて国中に増えていった人々が犯した様々な罪には、天津罪である畦放、溝埋、樋放、頻蒔、串刺、生剥、逆剥、屎戸と、
国津罪と生膚断死膚断、白人胡久美、己が母犯せし罪、己が子犯せし罪、母と子と犯せし罪、子と母と犯せし罪、畜犯せし罪、昆虫の災、高津神の災、高津鳥の災、畜仆し蟲物為罪、ここだくの罪出でむ
――国津罪である生膚断、死膚断、白人胡久美、自分の母を犯す罪、自分の子を犯す罪、母と子を犯す罪、子と母を犯す罪、家畜を犯す罪、昆虫の災、高津神の災、高津鳥の災、他人の家畜をまじないで呪い殺す罪が現れ出た
如此出ば天津宮事を以て、大中臣天津金木を本打切末打断て、千座の置座に置足はして、天津菅曾を本苅断末苅切て、八針に取辟て、天津祝詞の太祝詞事を宣れ
――これらの罪が現われたなら高天原の天津宮の儀式に則り、大中臣がたくさんの木の枝の両端を切り落としてそれらを台の上に置き、菅の葉の両端を切り落として細かく裂いたものを束ね持って祝詞を奏上せよ
如此乃良ば 天津神は天磐門を押披て、天之八重雲を伊頭の千別に千別て、所聞食む 国津神は高山乃末短山之末に登坐して、高山の伊穂理短山の伊穂理を撥別て、所聞食む
――祝詞が奏上されれば、天津神は天磐門を開き八重雲を押しのけてこれをお聞きになり、国津神は高い山の頂で雲や霧を掻き分けてこれをお聞きになるだろう
如此所聞食てば、皇御孫之命の朝廷を始て、天下四方国には、罪と云ふ罪は不在と
――神々が祝詞をお聞きになれば、皇孫の朝廷を始め国中から罪という罪は無くなる
科戸之風の天之八重雲を吹放事之如く、朝之御霧、夕之御霧を、朝風夕風の吹掃事之如く、大津辺に居る大船を舳解放、艫解放て大海原に押放事之如く、彼方之繁木が本を焼鎌の敏鎌以て打掃事之如く
――あたかも風が雲を散り散りに吹き飛ばすように、朝夕に吹く風が朝夕の霧を吹き払うように、大きな港に船をつなぎとめている舫の綱を解き放ち大海原に押し出すように、繁った藪を焼いた鎌で薙ぎ払うように
遺る罪は不在と祓賜ひ清賜事を、高山之末短山之末より佐久那太理に落多支都速川の瀬に坐す瀬織津比咩と云神大海原に持出なむ、如此持出往ば、荒塩之塩の八百道の八塩道之塩の八百会に坐す速開都比咩と云神、持かか呑てむ 如此かか呑ては、気吹戸に坐す気吹主と云神、根国底之国に気吹放てむ 如此気吹放ては 根国底之国に坐す速佐須良比咩と云神、持さすらひ失てむ
――祓われた罪や穢れは高い山から迸る急流の瀬におられる瀬織津比咩が海へと流し遣るであろう。海に流された罪や穢れは海の彼方におられる速開都比咩が吞み込んでしまうだろう。海の底に飲み込まれた罪や穢れは気吹主によって黄泉の国へと吹き込まれるだろう。黄泉の国へと吹き込まれた罪や穢れは速佐須良比咩が持ち去るので消えてなくなってしまう
如此失てば、今日より始て罪と云ふ罪は不在と、高天原に耳振立聞物と馬牽立て、今年の六月の晦日の夕日之降の大祓に、祓給ひ清給ふ事を諸聞食せと宣る 四国の卜部等、大川道に持退出て祓却と宣る
――このように失われてしまえば、この日から罪や穢れは無くなるだろう。高天原の神々に届くように耳の良い馬を引き立てて、今年の六月晦日の夕日から行う大祓により、祓い給い、清め給う事を諸々の人々は聞き給え。四国の卜部たちは大川に出て祓いを行え
集侍はれる親王、諸王、諸臣、百官人等諸聞食せと宣る
――集まり侍る親王、諸王、諸臣、百官人ら皆、聞し召せと宣る
天皇が朝廷に仕奉る比礼挂くる伴男、手襁挂くる伴男、靫負ふ伴男、剱佩く伴男、伴男の八十伴男を始めて、官官に仕奉る人等の過犯しけむ雑雑の罪を今年の六月の晦の大祓に祓給ひ清給ふ事を諸聞食せと宣る
――天皇のおわす朝廷で、御膳を賄う官人、弓矢と剣で守る武官、その他の諸官が犯した様々な罪を今年の六月晦日の大祓で祓い清めることを聞し召せと宣る
高天原に神留り坐す皇親神漏岐神漏美の命以ちて、八百万の神等を神集に集賜ひ、神議に議賜て、我が皇孫之尊は豊葦原の水穂の国を安国と平けく所知食と事依し奉き
――かつて高天原におられる皇親神、神漏岐と神漏美の命によって八百万の神々が集まり議り、我らの皇孫之尊に豊葦原の水穂の国を安らかに治めよと命じられた
如此依し奉し国中に荒振神達をば神問しに問し賜ひ、神掃に掃賜ひて語問し、磐根樹の立草の垣葉をも語止て、天磐座放ち天の八重雲を伊頭の千別に千別て天降依し奉き
――神々は国中の荒ぶる神になぜ荒ぶるのかと問い質し、従わない神を追い払い、樹木草草に至るまで押し鎮めた。そして天磐座を開け放ち、八重雲を伴わせながら皇孫を天から地に降ろした
如此依さし奉し四方の国中と大倭日高見之国を安国と定奉て、下津磐根に宮柱太敷立て、高天原に千木高知て、皇御孫之命の美頭の御舎仕奉て、天之御蔭日之御蔭と隠坐て、安国と平けく所知食む
――皇孫は国中と大和の地が安らかな国であると定め、地に大きな柱を立て天に届くかのような高さの屋根に千木を置いて皇孫の宮とされ、天の陰、日の陰から国を安んじられた
国中に成出む天の益人等が過犯けむ雑々の罪事は天津罪と、畦放、溝埋、樋放、頻蒔、串刺、生剥、逆剥、屎戸、ここだくの罪を天津罪と法別て、
――やがて国中に増えていった人々が犯した様々な罪には、天津罪である畦放、溝埋、樋放、頻蒔、串刺、生剥、逆剥、屎戸と、
国津罪と生膚断死膚断、白人胡久美、己が母犯せし罪、己が子犯せし罪、母と子と犯せし罪、子と母と犯せし罪、畜犯せし罪、昆虫の災、高津神の災、高津鳥の災、畜仆し蟲物為罪、ここだくの罪出でむ
――国津罪である生膚断、死膚断、白人胡久美、自分の母を犯す罪、自分の子を犯す罪、母と子を犯す罪、子と母を犯す罪、家畜を犯す罪、昆虫の災、高津神の災、高津鳥の災、他人の家畜をまじないで呪い殺す罪が現れ出た
如此出ば天津宮事を以て、大中臣天津金木を本打切末打断て、千座の置座に置足はして、天津菅曾を本苅断末苅切て、八針に取辟て、天津祝詞の太祝詞事を宣れ
――これらの罪が現われたなら高天原の天津宮の儀式に則り、大中臣がたくさんの木の枝の両端を切り落としてそれらを台の上に置き、菅の葉の両端を切り落として細かく裂いたものを束ね持って祝詞を奏上せよ
如此乃良ば 天津神は天磐門を押披て、天之八重雲を伊頭の千別に千別て、所聞食む 国津神は高山乃末短山之末に登坐して、高山の伊穂理短山の伊穂理を撥別て、所聞食む
――祝詞が奏上されれば、天津神は天磐門を開き八重雲を押しのけてこれをお聞きになり、国津神は高い山の頂で雲や霧を掻き分けてこれをお聞きになるだろう
如此所聞食てば、皇御孫之命の朝廷を始て、天下四方国には、罪と云ふ罪は不在と
――神々が祝詞をお聞きになれば、皇孫の朝廷を始め国中から罪という罪は無くなる
科戸之風の天之八重雲を吹放事之如く、朝之御霧、夕之御霧を、朝風夕風の吹掃事之如く、大津辺に居る大船を舳解放、艫解放て大海原に押放事之如く、彼方之繁木が本を焼鎌の敏鎌以て打掃事之如く
――あたかも風が雲を散り散りに吹き飛ばすように、朝夕に吹く風が朝夕の霧を吹き払うように、大きな港に船をつなぎとめている舫の綱を解き放ち大海原に押し出すように、繁った藪を焼いた鎌で薙ぎ払うように
遺る罪は不在と祓賜ひ清賜事を、高山之末短山之末より佐久那太理に落多支都速川の瀬に坐す瀬織津比咩と云神大海原に持出なむ、如此持出往ば、荒塩之塩の八百道の八塩道之塩の八百会に坐す速開都比咩と云神、持かか呑てむ 如此かか呑ては、気吹戸に坐す気吹主と云神、根国底之国に気吹放てむ 如此気吹放ては 根国底之国に坐す速佐須良比咩と云神、持さすらひ失てむ
――祓われた罪や穢れは高い山から迸る急流の瀬におられる瀬織津比咩が海へと流し遣るであろう。海に流された罪や穢れは海の彼方におられる速開都比咩が吞み込んでしまうだろう。海の底に飲み込まれた罪や穢れは気吹主によって黄泉の国へと吹き込まれるだろう。黄泉の国へと吹き込まれた罪や穢れは速佐須良比咩が持ち去るので消えてなくなってしまう
如此失てば、今日より始て罪と云ふ罪は不在と、高天原に耳振立聞物と馬牽立て、今年の六月の晦日の夕日之降の大祓に、祓給ひ清給ふ事を諸聞食せと宣る 四国の卜部等、大川道に持退出て祓却と宣る
――このように失われてしまえば、この日から罪や穢れは無くなるだろう。高天原の神々に届くように耳の良い馬を引き立てて、今年の六月晦日の夕日から行う大祓により、祓い給い、清め給う事を諸々の人々は聞き給え。四国の卜部たちは大川に出て祓いを行え
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