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138.孤立?
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久方ぶりに学園に来たカーズは、ワカナの取り巻きを調べようとしたが思った以上に難航した。想定した以上に周りから避けられてしまったからだ。カーズが声を掛けようとしても逃げられたり、用事があるから後にしてくださいなどと言われて、まともに取り合ってもらえない。以前では考えられない境遇になったが、本人はいたって落ち着いて受け止めている。
「……掌を返す、か。まあ、当然と言えば当然か」
学園内に置いて、カーズが今までしてきたことはすでに知れ渡っていた。成績優秀だったのは婚約者のサエナリアのノートを丸写ししていたからであり、実際のカーズはたいしてそうでもないこと。更に、そのサエナリアの友人マリナに一方的な思いを抱いて迷惑をかけた挙句、サエナリアの心を傷つけたことも、学園どころか貴族社会でも知らないものはいないくらい知られているのだ。
「ふっ、これも自業自得というやつだな」
「ああ、だけど何もしない理由にはならねえ。そうだろ、兄貴?」
「!? レフトン!?」
カーズに声を掛ける者が現れた。驚いて振り返ると、さらに驚かされる。そこにいたのは王都を調べると言って出て行ったはずのレフトンだった。
「どうしてお前がこっちにいるんだ? 王都の方を調べていたんじゃなかったのか?」
「そっちは俺の仲間達で十分だ。俺は兄貴が心配だったんで学園に来たわけさ。………まあ、思った以上に厳しい評価をされてるみたいだけどな」
レフトンの言っていることは事実だ。レフトンは側近二人に王都の調査を頼んでから学園に向かったのだ。カーズが学園内で孤立するのは確実、ならば学園でワカナに関する情報収集は難しい。だからこそ、一人でも情報収集に長けたレフトンが駆けつけたのだ。カーズの助けになるために。
「そうか、すまない。こんなことでも心配かけてしまったな。不甲斐ない兄ですまない」
「まったくだよ。こっちは俺も手伝うから、兄貴は生徒連中よりも教師陣を見てくれよ。生徒側の方は俺が、」
レフトンが学園での方針を言いかけた時、生徒達から二人にとって聞き捨てならない声が聞こえた。
「やっぱりレフトン殿下の方が王太子の方がいいんじゃない? 長男があんなんだしさ」
「そうだな。長男がダメならまず次男に目を向けるだろう」
「何で三男のナシュカ殿下が王太子? レフトン殿下って問題起こしたっけ?」
「ナシュカ殿下の方が有能だからだろ。常に冷静沈着で礼儀正しいし」
「まあ、レフトン殿下は口調が不良みたいだしね。でも、カーズ殿下よりは有能なのは間違いないけど」
レフトンが来たことで、生徒たちはカーズとレフトンを比較し始めた。二人が耳にするかもしれないというのに、構うことなく口にする。
「「…………」」
カーズとレフトンは本来、王族としてこんな声は不敬だと黙らせる立場にある。だが、問題を起こして王太子ではなくなったカーズと王族どころか貴族らしからぬ振る舞いをしてきたレフトンでは、そんな気も起きなかった。気落ちするカーズだが、こんな時でもレフトンは明るく振舞う。
「………俺も結構人気あったんだな~。これは嬉しい誤算だぜ。しまったな、俺が王太子になる線もよかっかたも?」
「……レフトン、今からでもナシュカに譲ってもらうよう頼むか?」
「冗談だよ、冗談。俺よりもあいつの方が向いてるくらい兄貴でも分かるだろ?」
「それは当たり前だろう。お前は不良王子だからな」
「うーわ、ひっど。兄のために頑張る弟を不良だなんて!」
「なら、その口調と振る舞いはなんだ?」
「あー、そうだな! こりゃあ、否定できねえわな。一本取られたよ。へっ、兄貴も成長したってことか」
「ふっ、弟に成長とか言われても喜べないな」
いつの間にか二人は軽口を叩き合う。いや、レフトンがそういうふうに誘導したのだ。どうやら、レフトンなりにダメな兄を奮い立たせるつもりだったのかもしれない。
二人がそんなやり取りしているうちに、カーズの側近二人が駆け寄ってきた。
「カーズ殿下! 何とか教師の方々と話をする機会ができました!」
「生徒側は無理ですので教師や使用人たちなら話を聞けそうです」
「「!」」
どうやら、彼らもカーズが孤立することを見越していたようだ。
「何だ。兄貴にも優秀な側近がいるじゃん。俺来なくてよかった?」
「いや、この場合は俺がダメすぎたんだ。あいつらにも迷惑かけたな。後でしっかり謝らないとな」
こうして、学園の方ではカーズとレフトン、それとカーズの側近二人二人による情報収集が始まった。
「……掌を返す、か。まあ、当然と言えば当然か」
学園内に置いて、カーズが今までしてきたことはすでに知れ渡っていた。成績優秀だったのは婚約者のサエナリアのノートを丸写ししていたからであり、実際のカーズはたいしてそうでもないこと。更に、そのサエナリアの友人マリナに一方的な思いを抱いて迷惑をかけた挙句、サエナリアの心を傷つけたことも、学園どころか貴族社会でも知らないものはいないくらい知られているのだ。
「ふっ、これも自業自得というやつだな」
「ああ、だけど何もしない理由にはならねえ。そうだろ、兄貴?」
「!? レフトン!?」
カーズに声を掛ける者が現れた。驚いて振り返ると、さらに驚かされる。そこにいたのは王都を調べると言って出て行ったはずのレフトンだった。
「どうしてお前がこっちにいるんだ? 王都の方を調べていたんじゃなかったのか?」
「そっちは俺の仲間達で十分だ。俺は兄貴が心配だったんで学園に来たわけさ。………まあ、思った以上に厳しい評価をされてるみたいだけどな」
レフトンの言っていることは事実だ。レフトンは側近二人に王都の調査を頼んでから学園に向かったのだ。カーズが学園内で孤立するのは確実、ならば学園でワカナに関する情報収集は難しい。だからこそ、一人でも情報収集に長けたレフトンが駆けつけたのだ。カーズの助けになるために。
「そうか、すまない。こんなことでも心配かけてしまったな。不甲斐ない兄ですまない」
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レフトンが学園での方針を言いかけた時、生徒達から二人にとって聞き捨てならない声が聞こえた。
「やっぱりレフトン殿下の方が王太子の方がいいんじゃない? 長男があんなんだしさ」
「そうだな。長男がダメならまず次男に目を向けるだろう」
「何で三男のナシュカ殿下が王太子? レフトン殿下って問題起こしたっけ?」
「ナシュカ殿下の方が有能だからだろ。常に冷静沈着で礼儀正しいし」
「まあ、レフトン殿下は口調が不良みたいだしね。でも、カーズ殿下よりは有能なのは間違いないけど」
レフトンが来たことで、生徒たちはカーズとレフトンを比較し始めた。二人が耳にするかもしれないというのに、構うことなく口にする。
「「…………」」
カーズとレフトンは本来、王族としてこんな声は不敬だと黙らせる立場にある。だが、問題を起こして王太子ではなくなったカーズと王族どころか貴族らしからぬ振る舞いをしてきたレフトンでは、そんな気も起きなかった。気落ちするカーズだが、こんな時でもレフトンは明るく振舞う。
「………俺も結構人気あったんだな~。これは嬉しい誤算だぜ。しまったな、俺が王太子になる線もよかっかたも?」
「……レフトン、今からでもナシュカに譲ってもらうよう頼むか?」
「冗談だよ、冗談。俺よりもあいつの方が向いてるくらい兄貴でも分かるだろ?」
「それは当たり前だろう。お前は不良王子だからな」
「うーわ、ひっど。兄のために頑張る弟を不良だなんて!」
「なら、その口調と振る舞いはなんだ?」
「あー、そうだな! こりゃあ、否定できねえわな。一本取られたよ。へっ、兄貴も成長したってことか」
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こうして、学園の方ではカーズとレフトン、それとカーズの側近二人二人による情報収集が始まった。
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