悪役令嬢が行方不明！？

139.深読み？

王宮の一室。具体的には王太子に準備された部屋で、王太子になった第三王子ナシュカとその婚約者、それと側近の少年が会話していた。ワカナ・ヴァン・ソノーザの脱走事件について状況を整理していたのだ。

「……ナシュカ殿下、本当にいいのですか？　私達が王宮に残るというのは」

心配そうにするのは王太子妃のバイラ・エス・レックスだ。側近から婚約者になったという前例はあるが珍しいことでもある。

「構わないよ。今回は兄二人に任せてみようと思うんだ」

「本当にいいのか？　片方の兄は問題起こしたばかりだぞ？」

意外そうに聞くのは側近のバート・デイ・アイムズだ。彼はこの状況で自分達が王宮に残ることが少し不満のようだ。いつもなら行動に出てもおかしくないというのに。

「何だったら俺が王都に出て、」

「バート。僕達が出たらダメなんだ」

バートの言葉を遮ってナシュカは断言する。

「これはカーズ兄さんの名誉挽回の機会と考えてるんだ。兄さんは今のままだと貴族社会で孤立し続けるだろうしね。王族の一員がそんな立場だと弟である僕まで舐められるだろ？　たとえ僕が王太子であってもね」

「！」

「………やはりそうでしたか。兄君のことを考えてのことだったのですね」

「……まあ、それもあるけどね」

ナシュカが王太子になったのは事実だ。だが、だからと言って上の兄二人が注目されなくなるるかどうかと言えばそうでもない。カーズもレフトンも問題があっても王族だ。その立場を様々な考えを持った者達が注目することだろう。

「貴族は派閥争いをするものだ。兄さんたちを王太子に担ごうとする派閥も出てくるだろうね。特に何もしないでいる方を狙って近づく者は僕は好かない。いいように利用できると思われるからね」

「！　そうか！　この件でカーズ殿下とレフトン殿下に行動してもらうことで、お二人が何もしないような能無しと思われないようにするつもりなんだな」

「それにお二人の行動が成功すれば王族のメンツが保たれます、何もなせなければそれまでです。ナシュカ殿下の落ち度にはなりませんね」

「……まあ、そうかな（本当にバイラのことが心配だったんだけどな）」

実は、ナシュカは今度ばかりは婚約者になったバイラの傍にいて守ろうと考えていた……だけだった。婚約者を持ったのは初めてだったため、男として婚約者を優先することこそが常識だと親から教わっていたのでその通りにしたのだ。それにカーズのようになりたくないという思いもあった。だからこそ、王宮に残ったのだが、バイラとバートには深読みされてしまったようだ。

「（……まあ、言わない僕が悪いんだけどね。バイラ本人にそのことを口にするのも気恥ずかしいから、今はそういうことでいいか。それにしてもバートは同じ男なんだから察してくれてもいいのに）」

ナシュカは自分の周りが優秀すぎることを今回だけは恨めしく思った。深読みしすぎるのも考え物かもしれない。