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第3章 組織編

暴いた者

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数分前。

 魔法協会の裏側にある倉庫からローグが出てきた。ローグは倉庫の外で待機していたミーラとルドガーに合流する。

「待たせたな、二人とも」
「ローグ!」
「坊主!」

 この二人を外に待機させたのは、トーレンとメルガーとの会話を誰にも邪魔させないためだった。その会話を王都中に聞かせることが目的だったため、二人に見張りを頼んだのだ。魔法協会をほぼ制圧した後で。

「「…………」」
「ん? どうした二人とも?(まあ、そうなるよな)」

 ローグはミーラとルドガーが複雑な顔をしていたのに気づいた。その理由はすぐに分かった。二人も知らなかった真実に戸惑っているのだ。

「ローグ! さっきの話って本当なの!?」
「ああ、本当だ」
「魔法で寿命が縮むとか、神じゃなくて国が与えたとかもか!?」
「それも本当だ」
「そんな!?」
「それをどう証明する!?」
「ここの幹部のトーレンとメルガーが否定しなかっただろ」
「「っ!?」」

 二人は、ローグに近づいて真偽を確かめてくるので、ローグは淡々と答えた。二人はローグの返事を聞いても、すぐには受け入れられないでいた。

「……私達が生まれて生きてきた国って、そんなところだったの?」
「……俺は、俺達は……そんな国のために……兵士になって、騎士になっていたのか?」

 この二人の反応は無理もない。おそらく、各地でもこんな感じの人が大勢いるだろう。自分たちの信じてきた常識が否定されることは、人にとって大きなショックになる。たやすく受け入れられるはずがないのだ。たとえ、証拠を揃えたとしても。

 ローグの狙いは、にあったのだ。ローグは前世の記憶を持っている。その記憶から、魔法の発現方法とリスクを知っていた。は、研究機関である魔法協会なら既にたどり着いていると予想できた。ローグがを魔法協会の幹部の前で口に出せばどうなるだろう、食いつかないはずがない。つまり、勝手に肯定してくれるというわけだ。

(まあ、魔法協会が思ってたよりも無能な組織だったら上手くはいかなかっただろうが、上手くいかなかったら力づくで潰す方針になったけどな。尤も、ルドガーに集めてもらった連中に制圧されるようだと大した戦力は残ってなかったのかもな)

 ローグが今度の作戦のことで考えていると、ルドガーが顔を上げた。どうやら、落ち着いてきたようだ。

「……とりあえず、ここから離れないか……あの二人は、もうすぐ出てくるんだろ?」
「…………っ!」
「そうだな。移動しよう。協力してくれた人たちもまとめないとな」

 3人は、最後の行動に出る。


隠し通路・出入口。

 今ここには、ローグ達3人しかいない。他の協力者たちは服装をきれいなものに変えて、解散した。そういう約束だったのだ。

「坊主……ローとか言ったな」
「今はローグ・ナイトだ」
「……そうか。ローグ、お前さんは本当に何者だ? どうやって、あんな真実を知ったんだ? あの二人が言ったように自分で推測して導き出したわけじゃないだろ?」
「やっぱり、そう思う? ミーラも?」
「う~ん、ちょっと分かんない」
「もし、もしもだ。本当に自分で推測して導き出したってんなら、とんでもない天才だぞ」
「なら、問題ない」
「「えっ?」」
「こんな大それた計画を立てて実現できたんなら、俺は十分天才じゃないか!」
「「っ!」」
「違う?」
「……ふっ、そうだな。お前さんは天才みたいだな。聞いた俺が馬鹿だったな」
「よく分からないけど、ローグはすごいってことだね!」

 3人は世間話をしながら、魔法協会のほうに向かった。真実を暴かれた魔法協会が、真実を知った人々がどう動くのかを確認するために。
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