45 / 80
09-5 ずっと俺の隣にいろ(5) 聖者と王の約束
しおりを挟む
王城の中庭に、夜明けの光が差し込んでいた。
昨日までの騒乱が嘘のように静かで、鳥のさえずりすら穏やかに響く。
だが、その静けさの中に立つ者たちの心は落ち着いていなかった。
結界が破られ、暗殺者がここまで巧妙に潜り込んでいたという事実は、王国に深い爪痕を残した。
結界師のカイルは、王の御前でひざまずく。
「私の能力不足の結果です。過信しておりました。すべて私に責任があります。どうか、罰をお与えください」
ユリウスは首を横に振る。
「お前はよくやってくれた。相手が少し優れていたというだけだ。不問とする」
「しかし……それでは、あまりにも……私は、私は……」
カイルの肩に手をかけた。
「結界が破られたのは今回が初めてだな? そう気を落とすな……成長の機会が与えられたと思えば悪くない。お前はもっと力を磨け。成長の糧とするのだ」
「は、はい! ありがとうございます!」
涙ながらに王の慈悲に感謝し退出していく。
重臣が口を開く。
「とはいえ、魔法障壁を破られた今、今後どうしたらいいか……カイルの成長を待ってはおれまい」
会議の参列者からは、そうだ、そうだ、と声が上がる。
王城内に屋敷を構える王族、貴族らにとっては他人事ではない。
いつ何時命を狙われるか分からないのだ。
「……私に考えがある」
手を挙げたユリウスに注目が集まる。
「王都の防衛は、魔力結界にあまりにも頼り過ぎていた……そこで私は提案する。王城の要所を警備する騎士団の設立……」
ユリウスは、ちらっとレオンハルトの顔を見た。
そして力強く宣言する。
「そして、騎士団の司令官には聖者レオンハルトを任ずる!」
「……!」
レオンハルトの名前が出て、それまで暗い雰囲気だった場が一気に沸き立つ。
「おー、それなら安心だ」
「聖者様に守って頂けるとあれば」
皆ほっとした面持ち。
(これでいい。でも……)
対照的にユリウスの気持ちは晴れない。
彼を危険な目に合わせるかもしれないという不安、そして相談もなく任務を押し付けたことへの申し訳なさ。
そんなものが渦巻いていた。
****
会議が終わり、人払いを済ませた後。
私室で待っていたレオンハルトに、ユリウスは真っ直ぐ歩み寄った。
「済まない、レオン。また、お前を頼ってしまうことになる。聖者なのに騎士団など……」
「いいぜ。問題ない」
「情けない……お前の名を出さなければ、皆の不安は拭えない。また、私はお前を利用してしまった」
「ふっ、何を気にやむ。俺は、嬉しかったぜ、ユリウス。誰でもない、俺を頼ってくれて……」
「しかし……」
レオンハルトは、やれやれまたか、と首を横に振った。
「元気出せって、子猫ちゃん」
大きな手で、彼の頭をポンポンと優しく撫でた。
「俺はお前の役に立てるのが嬉しいんだ。だから、どんどん俺を頼れよ。わがままでいい。なんでも聞いてやる。俺はお前のためだけにここに居るのだから……」
ユリウスの瞳が揺れる。
真っ直ぐな気持ちがどんどん押し寄せ、ユリウスの心は追いつけない。
「……どうして、そこまで」
「決まってんだろ。お前を好きだからだ」
「……!」
頬が一瞬にして真っ赤に染まる。
声が出ない。心臓が暴れ馬のように騒ぎ、言葉を押しつぶしてしまう。
レオンハルトはそんな反応を楽しむように口角を上げた。
「なぁ、もう隠すのはやめろよ。お前だって俺を求めてただろ」
「そ、そんなこと……!」
「夜中に俺の体にしがみついて、離さなかったのは誰だ?」
「……!」
ユリウスは両手で顔を覆った。
だが、次の瞬間、勇気を振り絞るようにレオンハルトを見上げる。
「……本当に、いいのか? 私はわがままで」
「何度でも言う。お前はわがままなままでいい」
その言葉に、ユリウスの心が溶けていく。
気がつけば、自ら一歩踏み出していた。
レオンハルトの胸に飛び込み、ぎこちなく腕を回す。
「……ありがとう」
小さな声だった。
だが、その一言には彼の全てが詰まっていた。
レオンハルトは優しく抱き返し、囁いた。
「感謝はいらねぇ。その代わり……ずっと俺の隣にいろ」
二人は、そのまま唇を合わせた。
****
さて、そんな二人の会話を扉の裏で聞いていた人物がいる。ロイである。
二人は、建国祭、この暗殺未遂事件を通して急速に距離が縮んだ。
それは察していた。
(……俺にだってチャンスはまだあるはずだ……)
唇を噛みしめ、静かにその場から消えていった。
昨日までの騒乱が嘘のように静かで、鳥のさえずりすら穏やかに響く。
だが、その静けさの中に立つ者たちの心は落ち着いていなかった。
結界が破られ、暗殺者がここまで巧妙に潜り込んでいたという事実は、王国に深い爪痕を残した。
結界師のカイルは、王の御前でひざまずく。
「私の能力不足の結果です。過信しておりました。すべて私に責任があります。どうか、罰をお与えください」
ユリウスは首を横に振る。
「お前はよくやってくれた。相手が少し優れていたというだけだ。不問とする」
「しかし……それでは、あまりにも……私は、私は……」
カイルの肩に手をかけた。
「結界が破られたのは今回が初めてだな? そう気を落とすな……成長の機会が与えられたと思えば悪くない。お前はもっと力を磨け。成長の糧とするのだ」
「は、はい! ありがとうございます!」
涙ながらに王の慈悲に感謝し退出していく。
重臣が口を開く。
「とはいえ、魔法障壁を破られた今、今後どうしたらいいか……カイルの成長を待ってはおれまい」
会議の参列者からは、そうだ、そうだ、と声が上がる。
王城内に屋敷を構える王族、貴族らにとっては他人事ではない。
いつ何時命を狙われるか分からないのだ。
「……私に考えがある」
手を挙げたユリウスに注目が集まる。
「王都の防衛は、魔力結界にあまりにも頼り過ぎていた……そこで私は提案する。王城の要所を警備する騎士団の設立……」
ユリウスは、ちらっとレオンハルトの顔を見た。
そして力強く宣言する。
「そして、騎士団の司令官には聖者レオンハルトを任ずる!」
「……!」
レオンハルトの名前が出て、それまで暗い雰囲気だった場が一気に沸き立つ。
「おー、それなら安心だ」
「聖者様に守って頂けるとあれば」
皆ほっとした面持ち。
(これでいい。でも……)
対照的にユリウスの気持ちは晴れない。
彼を危険な目に合わせるかもしれないという不安、そして相談もなく任務を押し付けたことへの申し訳なさ。
そんなものが渦巻いていた。
****
会議が終わり、人払いを済ませた後。
私室で待っていたレオンハルトに、ユリウスは真っ直ぐ歩み寄った。
「済まない、レオン。また、お前を頼ってしまうことになる。聖者なのに騎士団など……」
「いいぜ。問題ない」
「情けない……お前の名を出さなければ、皆の不安は拭えない。また、私はお前を利用してしまった」
「ふっ、何を気にやむ。俺は、嬉しかったぜ、ユリウス。誰でもない、俺を頼ってくれて……」
「しかし……」
レオンハルトは、やれやれまたか、と首を横に振った。
「元気出せって、子猫ちゃん」
大きな手で、彼の頭をポンポンと優しく撫でた。
「俺はお前の役に立てるのが嬉しいんだ。だから、どんどん俺を頼れよ。わがままでいい。なんでも聞いてやる。俺はお前のためだけにここに居るのだから……」
ユリウスの瞳が揺れる。
真っ直ぐな気持ちがどんどん押し寄せ、ユリウスの心は追いつけない。
「……どうして、そこまで」
「決まってんだろ。お前を好きだからだ」
「……!」
頬が一瞬にして真っ赤に染まる。
声が出ない。心臓が暴れ馬のように騒ぎ、言葉を押しつぶしてしまう。
レオンハルトはそんな反応を楽しむように口角を上げた。
「なぁ、もう隠すのはやめろよ。お前だって俺を求めてただろ」
「そ、そんなこと……!」
「夜中に俺の体にしがみついて、離さなかったのは誰だ?」
「……!」
ユリウスは両手で顔を覆った。
だが、次の瞬間、勇気を振り絞るようにレオンハルトを見上げる。
「……本当に、いいのか? 私はわがままで」
「何度でも言う。お前はわがままなままでいい」
その言葉に、ユリウスの心が溶けていく。
気がつけば、自ら一歩踏み出していた。
レオンハルトの胸に飛び込み、ぎこちなく腕を回す。
「……ありがとう」
小さな声だった。
だが、その一言には彼の全てが詰まっていた。
レオンハルトは優しく抱き返し、囁いた。
「感謝はいらねぇ。その代わり……ずっと俺の隣にいろ」
二人は、そのまま唇を合わせた。
****
さて、そんな二人の会話を扉の裏で聞いていた人物がいる。ロイである。
二人は、建国祭、この暗殺未遂事件を通して急速に距離が縮んだ。
それは察していた。
(……俺にだってチャンスはまだあるはずだ……)
唇を噛みしめ、静かにその場から消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
嫌いなあいつが気になって
水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!?
なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。
目に入るだけでムカつくあいつ。
そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。
同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。
正反対な二人の初めての恋愛。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる
虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。
滅びかけた未来。
最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。
「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。
けれど。
血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。
冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。
それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。
終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。
命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。
オメガバースの世界に転生!?アルファに生まれ変わってパパになります
みたらしのだんご
BL
オメガバースの世界に転生します。村でのびのびします。
ボーイズラブ要素はゆっくり出していきますのでしばしお待ちを
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる