26 / 27
26 愛と友情(4) ~リュウジ~
しおりを挟む
「アオイ。お前は女として周りから見られていたことに失望した。だよな?」
アオイは、無言のまま、コクリと頷いた。
俺は、それを確認して話を続ける。
「いいか、俺以外の奴らはそう思ったかもしれない。しかしな、奴らだって悪気はないんだ……」
そうなのだ。
確かにアオイは可愛い。
それは万人が認める事。
だから、仕方がない事なんだ。
でも、俺は違う。アオイを男として認めている。男のお前だから俺は恋をした。
これを伝えるよりしかたない。
誰が何と言おうと俺だけはアオイを男だと思っている。それでいいじゃないか? と。
俺が、さぁ説得するぞ、と話を組み立てていると、アオイが口を挟んだ。
「ちょ、ちょっと待て。リュウジ。『俺』以外ってどういう意味だ?」
「えっ? どういう意味って……そのままだが」
「お前な……お前だって、オレの事を女扱いしてたじゃないか! 女以上に可愛いとかぬかすし、オレに女のエロい下着を着させようとしただろ!」
アオイは怒鳴る。
俺は意味がわからずポカンとした。
ん?
あれ?
俺の中でほつれた糸が再び絡みだす。
おかしい。
何かおかしいぞ?
もしかして、アオイが失望しているのは俺の事か?
心の中でサッと光が差し込んだ。
思わずため息が出る。
なんだよ……そういう事かよ。
俺は怒りで興奮するアオイに肩に手を置いた。
「アオイ。お前、もしかして勘違いしているな」
「何をだ?」
キッとして俺を睨むアオイ。
俺は冷静に言った。
「俺、お前の事は一度たりとも、女何て思った事はないが……」
「はぁあ? て、てめぇ! 何を言っているんだリュウジ! そんな事はないだろ! オレが女のようだからセックスした。付き合う事にした。親友になった……友達になった……声を掛けた……そうだろ? うっ、うう……」
アオイは始めこそ凄い剣幕だったが、最後は泣き声に変わっていた。
俺は、慰めるように話し掛ける。
「アオイ、何を言っているんだ。俺とアオイは男友達で親友。そして、男同士で愛し合う恋仲。これのどこに女の要素があるんだよ」
「嘘を言うな! でも、いいんだ……リュウジ。リュウジは、オレみたいな女の出来損ないを好きになる必要なんてないんだ……」
アオイは、泣き崩れた。
俺はアオイを胸に抱きたい衝動を抑え、頬に手を添えた。
「だから、誤解だって……」
「まだ、そんな事を言っているのかよ! じゃあ、それが誤解だって説明できるのかよ!」
アオイの問いかけに俺は後ずさりした。
説明だと……。
やばい。
ついにあの事をばらさないといけない。のか?
そもそも、アオイには当然バレていたと思っていた。
しかし、これまでのやり取りから、アオイは全く知らなかったってことになる。
まったくアオイは世間知らずというか、箱入り娘っぷりには困る。
いや、箱入り息子か……。
それなら、簡単にさらっと伝えればいい事なのだが、本人を前にそれを敢えて口にするのは、非常に恥ずかしい。
何故だか、恥ずかしい。
告白をした時だって、こんなに恥ずかしくなかったのにだ。
が、それを言わないとアオイは納得してくれないだろう。
俺は、観念して「わかったよ。言うよ」と答えた。
しかし、なかなか口から言葉が出て行かない。
なんという羞恥プレイ……。
アオイは腕を組み、指を小刻みに揺する。
「何か言えよ!」
アオイは、やっぱり出まかせなんだろ? と言わんばかりに回答を促してくる。
「……ちょっと待て、勇気がいるんだ……」
「は?」
とうとう、年貢の納め時か……。
よし。
いまさら恥ずかしがっても仕方ない。
しかも、相手はアオイだ。
俺も男だ。覚悟を決めるしかない。
俺は勇気を振り絞って声に出した。
「オホン……実は、俺は、オトコの娘が大好きなんだ!」
やばい……。
口にしただけで、猛烈な羞恥心が襲う。
体中の血液が沸騰し汗が滴り落ちる。
はぁ、はぁ。
動悸息切れがする。
体中が熱くて火を噴きそうだ。
俺は恐る恐るアオイの表情を伺った。
アオイはポカンとしている。
でも、分かるぞ。
すぐに、ぷぅーっと吹き出して大笑い。
ずっと、これをネタにからかわれ続けるに違いない。
でも、背に腹は代えられないのだ。
アオイを失うかどうかの瀬戸際なのだから。
俺は照れ隠しに、頭に手を置いて空口笛を吹いた。
「ひゅ、ひゅ、ひゅ。あーあ、言ってしまった……恥ずい……アオイの顔をまともに見れないぜ。あははは」
「……」
手でうちわのように仰ぐ。
ぜんぜん、汗は引かない。
「……ふーっ。熱い、熱い」
「……」
恥ずかしくて、やたら口数が増える俺。
しかし、無反応のアオイが気になって仕方ない。
まぁ、いい。
この場を早く立ち去る。
そして、この黒歴史はすぐに封印する。
それでいい。
俺は、アオイの手を取った。
「という訳さ。な? 誤解は解けただろ? 帰るぞ。アオイ!」
しかし、アオイは手を引っ込めて抵抗した。
そして真顔で言った。
「おい、なんだ。オトコの娘って?」
「へ? 知らないの?」
アオイは、コクリと頷く。
は!?
オトコの娘を知らないだと!?
俺は、ついに恥ずかしさの境地にたどり着く。
この羞恥心に悶え苦しんだ一連の戦いが、独り相撲だっただと!?
行き場のない気持ちが怒りとなって噴出す。
ようは八つ当たりだ。
「アオイ! て、てめぇ、よくも俺に恥かかせてそんな……」
「あはは。何だかよく分からないが、リュウジ。お前、顔真っ赤だぞ。あははは」
えっ?
そこには、ぷっーっと吹き出したアオイの顔。
ああ……アオイが笑っている。
なんていい笑顔。
何が、そんなに楽しいんだ?
俺は他人事のように、ころころ笑うアオイの顔を観察していた。
そこで、ふと気が付いた。
あれ?
こんなアオイの笑顔を見るのはいつ以来だっけ?
そんな風に思って、一気に心が洗われるのを感じた。
いままで、俺は何を怒っていたのだろうか?
気持ちが落ち着き、心が休まっていく。
やはり、俺にはアオイの笑顔が必要なんだ。
俺はそう思い一人納得した。
ところで、あまりにも大笑いするアオイ。
俺は、釣られて笑いながらもツッコミを入れた。
「……おい、アオイ。笑いすぎだぞ」
「ふふふ。悪い、悪い。で、オトコの娘ってなんだ?」
「それはな、見た目は女の子でな」
「うん」
「中身は、おチンチンがついていて胸ぺったんな男の事だ……」
自分で言ってやはり恥ずかしい。
しかし、アオイは意にも返さず問い返してくる。
「へぇ。つまり、お前は女じゃなく男が好きなわけ?」
「なっ、何言っているんだよ。オトコの娘なんだから当たり前だろ? あー。堪らない。だってよ、可愛いのに男なんだぞ。男なのに可愛いんだぞ? やべぇ、興奮する」
つい、体をギュッと抱く仕草をして、はっとした。
やばっ……俺の悪い癖。
つい興奮して余計なまねを……。
しまったと思って、アオイの顔をチラッと見た。
すると、アオイはまたしても吹き出す寸前の笑顔。
くっ……。
まぁ、いいぜ。今日は、その笑顔に免じてピエロになってやる。
アオイは、笑いながら言った。
「ぷっぷぷ。お前、すごいエロい顔になっているぞ。あははは。それにしても、お前は、変わったのが好みなんだな」
「はぁ? お前、分かっていて言っているのか? アオイ、お前が、オトコの娘なんだよ!」
「オレの事か? オトコの娘って」
アオイは、自分を指さし、素で驚いた顔をした。
俺は、無言でコクリと頷いた。
アオイは、人差し指を自分の顎に当てて考えを問う。
「つまり、お前はオトコの娘が好きで、オレはオトコの娘で、お前はオレが好きって事?」
「うむ」
「な、な、な。じゃあ、リュウジは、男のオレを好きになったって事?」
「うむ」
アオイはようやく気が付いたようだ。
俺はアオイの目まぐるしく変わる表情を愛おしく見つめる。
アオイは、いろいろな気付きを得るたびに、目をキラキラさせるのだ。
「そ、そうなのか。男のオレを……じゃあ、ちょっとまて。男同士の親友っていうのは?」
「そんなの、あたり前だろ? 男同士なんだから」
「はぁ……そんなぁ。そうだったのか……」
アオイから張りつめていたものがスッと消えたように感じた。
「ははは。だから、誤解っていっただろ? まったく、アオイはよ」
俺はアオイの頭をポンポンと撫でてやる。
ほら、笑顔を見せろよ。
そして、俺を幸せにしてくれ。俺のアオイ……。
そんな俺の期待とは裏腹に、アオイは急に下を向いた。
黙ったままじっとしている。
アオイのその様子に、焦りを感じた。
誤解は解けたんじゃないのか?
まだ、怒っているのか?
「どうした? アオイ……」
アオイの肩に手をかけようとした。
と、そのとき、アオイの足元にポタリと水滴が垂れた。
えっ、なんだ?
直ぐにアオイの嗚咽が耳に入った。
「うっ、うう……うう」
俺は覗き込むようにアオイを見る。
「……泣いているのか?」
俺の言葉にアオイは顔を上げた。
目には大粒の涙。
それが、ぽろぽろと溢れ出す。
訴えかけるような目。
口は何か言おうと小刻みに震える。
ああ、どうして、そんな顔をしている?
そんな悲しい顔を……。
やめてくれ。アオイ。
俺にそんな顔を見せないでくれ……。
胸が締め付けられて、いたたまれない。
俺は、思わずアオイは引き寄せた。
そして、固く抱きしめる。
「どうしたんだよ、アオイ! 泣くなよ……」
「だって、だって……リュウジとさよならすると思っていたから……」
「バカ! そんな事あるものか!」
「だって、だって……うっ、ううう」
アオイは俺の胸に顔を埋めた。
そして、声を出して、わんわんと泣いた。
我慢していたものが堰を切って溢れだした。
そんな風に。
分かるよ。アオイ。
アオイは、ずっと一人で悩んでいた。
そして、孤独と戦っていたんだ。
寂しかっただろう。
頑張ったな。アオイ。
俺は、アオイの頭の後ろに手を回し優しく撫でた。
アオイは俺の胸で泣き続けていたが、しばらくして落着きを取り戻した。
俺は、アオイの頬を両手で包み込み、アオイの額に額を合わせた。
「……アオイ、大丈夫。俺はずっとお前のそばにいる。だから、泣くな」
アオイは、涙で潤んだ目で俺を見る。
そして口を開いた。
「泣くなって?……リュウジ、お前も泣いているじゃないか……」
「えっ?」
俺は咄嗟に頬を触った。
涙……。
そっか。
俺は泣いていたのか……。
そうだよな。
俺もホッとしたんだ。
もう二度とアオイと会えなくなってしまったら。
そんな心配をずっとしていたのだから……。
俺は慌てて腕で涙をぬぐった。
「泣いてなんかない。これは汗だ!」
「……リュウジ、それ絶対に涙だろ? ……ふふふ」
アオイは、泣き笑いをした。
俺もつられて笑う。
「違うって……汗だ、汗。まぁ、涙ともいうな……」
「ぷっ! やっぱり泣いていたんじゃねぇか! あははは」
「ははは。まぁな……いいだろ!」
俺は口を尖らす。
でも、すぐにぷっと吹き出した。
お互い泣いてスッキリした。
アオイは、ハレバレした表情。
俺も、きっとそんな顔をしているはずだ。
アオイは言った。
「でも、本当にごめんな。オレ、完全に勘違いしていて……心配かけたよな?」
「いいって……俺がちゃんと言わなかったのが悪いんだから。だから、いいか、明日からは学校来いよ! いいな!」
俺がそう言うと、アオイは、にっこりと笑って言った。
「う、うん。分かった」
素直なアオイが戻ってきた。
これで、またいつも通りの俺達。
俺は、よし!と、ベンチを立ち上がった。
しかし、アオイはオレのシャツの裾を握って引っ張る。
「なぁ、リュウジ」
「ん?」
アオイは、上目遣いに言った。
「仲直りのキス。してくれ……」
頬を赤らめて目をチラッと逸らす。
くぅうう、堪らない。
可愛い、可愛い、可愛い、あぁ、言い足りない。
アオイ! お前、やっぱり最高に可愛いぜ!
俺は、そんな気持ちを押さえて男前に言い返す。
「ふっ……いいぜ」
俺は、アオイの顎をクイっとしゃくる。
そして、目を閉じると、唇を近づけた。
チュッ!
唇が重なったと思いきやすぐに濃厚なキス。
舌を絡め、唇を吸い、互いの唾液が行き来して混ざりあう。
そして、舌先で弾き合い、ちゅぱっ、ちゅぱっ、と音を鳴らした。
俺達は、久しぶりのキスを思う存分楽しんだ。
長いキスの後、アオイは、よだれを拭いながら言った。
「はぁ、はぁ、やっぱり、リュウジのキス。オレ大好きだ」
「俺もだ。アオイ。はぁ、はぁ」
俺は、アオイの体をギュッと抱いた。
俺達は、公園を後にして歩き出した。
手を繋ぐのも久しぶり。
温かくて柔らかい指先。
もう、この手は絶対に離さない。
そう、指先をギュッと握って、ふと思いついた。
「……ていうか、アオイ。お前、なんで、そんな大事な事を俺に言わなかったんだ? 親父さんの事とか、中学の時の事とか」
「な……いや、お前に嫌われるかと思って」
アオイは明らかに動揺している。
俺は追い打ちをかけるように言った。
「んなわけあるかよ! 考えてみれば、アオイが一番悪いんじゃねぇか。親友なんだから、そんな秘密事はなしだろ?」
「た、確かにな。オレが悪かったかも……」
しょぼくれるアオイ。
俺は、ここぞとばかりに提案する。
「じゃあ、俺の願いを聞いてくれたら許してやるよ」
「なんだよ。願いって……」
不安がるアオイに、俺は得意になって言った。
「明日、体育ないから、俺がプレゼントしたエロ下着を着てきてくれ。あー、ちゃんと上もだぞ。透けても着るんだぞ」
「へ?」
口を半開きにして呆けるアオイ。
しばらくして、アオイは大笑いする。
「ぷははは。なんだよ、リュウジ。早速、オトコの娘って奴をご所望か?」
「その通り! アオイのエロ可愛いところ、見たいからさ!」
俺は、ウインクしてアオイに合図を送る。
アオイは、笑い過ぎで涙が出てきたのだろう。
目じりに溜まった涙を拭きとった。
そして、俺に人差し指を向けて言った。
「いいぜ。オレは、お前が大好きなオトコの娘だもんな! 思う存分萌えさせてやる!」
アオイは、無言のまま、コクリと頷いた。
俺は、それを確認して話を続ける。
「いいか、俺以外の奴らはそう思ったかもしれない。しかしな、奴らだって悪気はないんだ……」
そうなのだ。
確かにアオイは可愛い。
それは万人が認める事。
だから、仕方がない事なんだ。
でも、俺は違う。アオイを男として認めている。男のお前だから俺は恋をした。
これを伝えるよりしかたない。
誰が何と言おうと俺だけはアオイを男だと思っている。それでいいじゃないか? と。
俺が、さぁ説得するぞ、と話を組み立てていると、アオイが口を挟んだ。
「ちょ、ちょっと待て。リュウジ。『俺』以外ってどういう意味だ?」
「えっ? どういう意味って……そのままだが」
「お前な……お前だって、オレの事を女扱いしてたじゃないか! 女以上に可愛いとかぬかすし、オレに女のエロい下着を着させようとしただろ!」
アオイは怒鳴る。
俺は意味がわからずポカンとした。
ん?
あれ?
俺の中でほつれた糸が再び絡みだす。
おかしい。
何かおかしいぞ?
もしかして、アオイが失望しているのは俺の事か?
心の中でサッと光が差し込んだ。
思わずため息が出る。
なんだよ……そういう事かよ。
俺は怒りで興奮するアオイに肩に手を置いた。
「アオイ。お前、もしかして勘違いしているな」
「何をだ?」
キッとして俺を睨むアオイ。
俺は冷静に言った。
「俺、お前の事は一度たりとも、女何て思った事はないが……」
「はぁあ? て、てめぇ! 何を言っているんだリュウジ! そんな事はないだろ! オレが女のようだからセックスした。付き合う事にした。親友になった……友達になった……声を掛けた……そうだろ? うっ、うう……」
アオイは始めこそ凄い剣幕だったが、最後は泣き声に変わっていた。
俺は、慰めるように話し掛ける。
「アオイ、何を言っているんだ。俺とアオイは男友達で親友。そして、男同士で愛し合う恋仲。これのどこに女の要素があるんだよ」
「嘘を言うな! でも、いいんだ……リュウジ。リュウジは、オレみたいな女の出来損ないを好きになる必要なんてないんだ……」
アオイは、泣き崩れた。
俺はアオイを胸に抱きたい衝動を抑え、頬に手を添えた。
「だから、誤解だって……」
「まだ、そんな事を言っているのかよ! じゃあ、それが誤解だって説明できるのかよ!」
アオイの問いかけに俺は後ずさりした。
説明だと……。
やばい。
ついにあの事をばらさないといけない。のか?
そもそも、アオイには当然バレていたと思っていた。
しかし、これまでのやり取りから、アオイは全く知らなかったってことになる。
まったくアオイは世間知らずというか、箱入り娘っぷりには困る。
いや、箱入り息子か……。
それなら、簡単にさらっと伝えればいい事なのだが、本人を前にそれを敢えて口にするのは、非常に恥ずかしい。
何故だか、恥ずかしい。
告白をした時だって、こんなに恥ずかしくなかったのにだ。
が、それを言わないとアオイは納得してくれないだろう。
俺は、観念して「わかったよ。言うよ」と答えた。
しかし、なかなか口から言葉が出て行かない。
なんという羞恥プレイ……。
アオイは腕を組み、指を小刻みに揺する。
「何か言えよ!」
アオイは、やっぱり出まかせなんだろ? と言わんばかりに回答を促してくる。
「……ちょっと待て、勇気がいるんだ……」
「は?」
とうとう、年貢の納め時か……。
よし。
いまさら恥ずかしがっても仕方ない。
しかも、相手はアオイだ。
俺も男だ。覚悟を決めるしかない。
俺は勇気を振り絞って声に出した。
「オホン……実は、俺は、オトコの娘が大好きなんだ!」
やばい……。
口にしただけで、猛烈な羞恥心が襲う。
体中の血液が沸騰し汗が滴り落ちる。
はぁ、はぁ。
動悸息切れがする。
体中が熱くて火を噴きそうだ。
俺は恐る恐るアオイの表情を伺った。
アオイはポカンとしている。
でも、分かるぞ。
すぐに、ぷぅーっと吹き出して大笑い。
ずっと、これをネタにからかわれ続けるに違いない。
でも、背に腹は代えられないのだ。
アオイを失うかどうかの瀬戸際なのだから。
俺は照れ隠しに、頭に手を置いて空口笛を吹いた。
「ひゅ、ひゅ、ひゅ。あーあ、言ってしまった……恥ずい……アオイの顔をまともに見れないぜ。あははは」
「……」
手でうちわのように仰ぐ。
ぜんぜん、汗は引かない。
「……ふーっ。熱い、熱い」
「……」
恥ずかしくて、やたら口数が増える俺。
しかし、無反応のアオイが気になって仕方ない。
まぁ、いい。
この場を早く立ち去る。
そして、この黒歴史はすぐに封印する。
それでいい。
俺は、アオイの手を取った。
「という訳さ。な? 誤解は解けただろ? 帰るぞ。アオイ!」
しかし、アオイは手を引っ込めて抵抗した。
そして真顔で言った。
「おい、なんだ。オトコの娘って?」
「へ? 知らないの?」
アオイは、コクリと頷く。
は!?
オトコの娘を知らないだと!?
俺は、ついに恥ずかしさの境地にたどり着く。
この羞恥心に悶え苦しんだ一連の戦いが、独り相撲だっただと!?
行き場のない気持ちが怒りとなって噴出す。
ようは八つ当たりだ。
「アオイ! て、てめぇ、よくも俺に恥かかせてそんな……」
「あはは。何だかよく分からないが、リュウジ。お前、顔真っ赤だぞ。あははは」
えっ?
そこには、ぷっーっと吹き出したアオイの顔。
ああ……アオイが笑っている。
なんていい笑顔。
何が、そんなに楽しいんだ?
俺は他人事のように、ころころ笑うアオイの顔を観察していた。
そこで、ふと気が付いた。
あれ?
こんなアオイの笑顔を見るのはいつ以来だっけ?
そんな風に思って、一気に心が洗われるのを感じた。
いままで、俺は何を怒っていたのだろうか?
気持ちが落ち着き、心が休まっていく。
やはり、俺にはアオイの笑顔が必要なんだ。
俺はそう思い一人納得した。
ところで、あまりにも大笑いするアオイ。
俺は、釣られて笑いながらもツッコミを入れた。
「……おい、アオイ。笑いすぎだぞ」
「ふふふ。悪い、悪い。で、オトコの娘ってなんだ?」
「それはな、見た目は女の子でな」
「うん」
「中身は、おチンチンがついていて胸ぺったんな男の事だ……」
自分で言ってやはり恥ずかしい。
しかし、アオイは意にも返さず問い返してくる。
「へぇ。つまり、お前は女じゃなく男が好きなわけ?」
「なっ、何言っているんだよ。オトコの娘なんだから当たり前だろ? あー。堪らない。だってよ、可愛いのに男なんだぞ。男なのに可愛いんだぞ? やべぇ、興奮する」
つい、体をギュッと抱く仕草をして、はっとした。
やばっ……俺の悪い癖。
つい興奮して余計なまねを……。
しまったと思って、アオイの顔をチラッと見た。
すると、アオイはまたしても吹き出す寸前の笑顔。
くっ……。
まぁ、いいぜ。今日は、その笑顔に免じてピエロになってやる。
アオイは、笑いながら言った。
「ぷっぷぷ。お前、すごいエロい顔になっているぞ。あははは。それにしても、お前は、変わったのが好みなんだな」
「はぁ? お前、分かっていて言っているのか? アオイ、お前が、オトコの娘なんだよ!」
「オレの事か? オトコの娘って」
アオイは、自分を指さし、素で驚いた顔をした。
俺は、無言でコクリと頷いた。
アオイは、人差し指を自分の顎に当てて考えを問う。
「つまり、お前はオトコの娘が好きで、オレはオトコの娘で、お前はオレが好きって事?」
「うむ」
「な、な、な。じゃあ、リュウジは、男のオレを好きになったって事?」
「うむ」
アオイはようやく気が付いたようだ。
俺はアオイの目まぐるしく変わる表情を愛おしく見つめる。
アオイは、いろいろな気付きを得るたびに、目をキラキラさせるのだ。
「そ、そうなのか。男のオレを……じゃあ、ちょっとまて。男同士の親友っていうのは?」
「そんなの、あたり前だろ? 男同士なんだから」
「はぁ……そんなぁ。そうだったのか……」
アオイから張りつめていたものがスッと消えたように感じた。
「ははは。だから、誤解っていっただろ? まったく、アオイはよ」
俺はアオイの頭をポンポンと撫でてやる。
ほら、笑顔を見せろよ。
そして、俺を幸せにしてくれ。俺のアオイ……。
そんな俺の期待とは裏腹に、アオイは急に下を向いた。
黙ったままじっとしている。
アオイのその様子に、焦りを感じた。
誤解は解けたんじゃないのか?
まだ、怒っているのか?
「どうした? アオイ……」
アオイの肩に手をかけようとした。
と、そのとき、アオイの足元にポタリと水滴が垂れた。
えっ、なんだ?
直ぐにアオイの嗚咽が耳に入った。
「うっ、うう……うう」
俺は覗き込むようにアオイを見る。
「……泣いているのか?」
俺の言葉にアオイは顔を上げた。
目には大粒の涙。
それが、ぽろぽろと溢れ出す。
訴えかけるような目。
口は何か言おうと小刻みに震える。
ああ、どうして、そんな顔をしている?
そんな悲しい顔を……。
やめてくれ。アオイ。
俺にそんな顔を見せないでくれ……。
胸が締め付けられて、いたたまれない。
俺は、思わずアオイは引き寄せた。
そして、固く抱きしめる。
「どうしたんだよ、アオイ! 泣くなよ……」
「だって、だって……リュウジとさよならすると思っていたから……」
「バカ! そんな事あるものか!」
「だって、だって……うっ、ううう」
アオイは俺の胸に顔を埋めた。
そして、声を出して、わんわんと泣いた。
我慢していたものが堰を切って溢れだした。
そんな風に。
分かるよ。アオイ。
アオイは、ずっと一人で悩んでいた。
そして、孤独と戦っていたんだ。
寂しかっただろう。
頑張ったな。アオイ。
俺は、アオイの頭の後ろに手を回し優しく撫でた。
アオイは俺の胸で泣き続けていたが、しばらくして落着きを取り戻した。
俺は、アオイの頬を両手で包み込み、アオイの額に額を合わせた。
「……アオイ、大丈夫。俺はずっとお前のそばにいる。だから、泣くな」
アオイは、涙で潤んだ目で俺を見る。
そして口を開いた。
「泣くなって?……リュウジ、お前も泣いているじゃないか……」
「えっ?」
俺は咄嗟に頬を触った。
涙……。
そっか。
俺は泣いていたのか……。
そうだよな。
俺もホッとしたんだ。
もう二度とアオイと会えなくなってしまったら。
そんな心配をずっとしていたのだから……。
俺は慌てて腕で涙をぬぐった。
「泣いてなんかない。これは汗だ!」
「……リュウジ、それ絶対に涙だろ? ……ふふふ」
アオイは、泣き笑いをした。
俺もつられて笑う。
「違うって……汗だ、汗。まぁ、涙ともいうな……」
「ぷっ! やっぱり泣いていたんじゃねぇか! あははは」
「ははは。まぁな……いいだろ!」
俺は口を尖らす。
でも、すぐにぷっと吹き出した。
お互い泣いてスッキリした。
アオイは、ハレバレした表情。
俺も、きっとそんな顔をしているはずだ。
アオイは言った。
「でも、本当にごめんな。オレ、完全に勘違いしていて……心配かけたよな?」
「いいって……俺がちゃんと言わなかったのが悪いんだから。だから、いいか、明日からは学校来いよ! いいな!」
俺がそう言うと、アオイは、にっこりと笑って言った。
「う、うん。分かった」
素直なアオイが戻ってきた。
これで、またいつも通りの俺達。
俺は、よし!と、ベンチを立ち上がった。
しかし、アオイはオレのシャツの裾を握って引っ張る。
「なぁ、リュウジ」
「ん?」
アオイは、上目遣いに言った。
「仲直りのキス。してくれ……」
頬を赤らめて目をチラッと逸らす。
くぅうう、堪らない。
可愛い、可愛い、可愛い、あぁ、言い足りない。
アオイ! お前、やっぱり最高に可愛いぜ!
俺は、そんな気持ちを押さえて男前に言い返す。
「ふっ……いいぜ」
俺は、アオイの顎をクイっとしゃくる。
そして、目を閉じると、唇を近づけた。
チュッ!
唇が重なったと思いきやすぐに濃厚なキス。
舌を絡め、唇を吸い、互いの唾液が行き来して混ざりあう。
そして、舌先で弾き合い、ちゅぱっ、ちゅぱっ、と音を鳴らした。
俺達は、久しぶりのキスを思う存分楽しんだ。
長いキスの後、アオイは、よだれを拭いながら言った。
「はぁ、はぁ、やっぱり、リュウジのキス。オレ大好きだ」
「俺もだ。アオイ。はぁ、はぁ」
俺は、アオイの体をギュッと抱いた。
俺達は、公園を後にして歩き出した。
手を繋ぐのも久しぶり。
温かくて柔らかい指先。
もう、この手は絶対に離さない。
そう、指先をギュッと握って、ふと思いついた。
「……ていうか、アオイ。お前、なんで、そんな大事な事を俺に言わなかったんだ? 親父さんの事とか、中学の時の事とか」
「な……いや、お前に嫌われるかと思って」
アオイは明らかに動揺している。
俺は追い打ちをかけるように言った。
「んなわけあるかよ! 考えてみれば、アオイが一番悪いんじゃねぇか。親友なんだから、そんな秘密事はなしだろ?」
「た、確かにな。オレが悪かったかも……」
しょぼくれるアオイ。
俺は、ここぞとばかりに提案する。
「じゃあ、俺の願いを聞いてくれたら許してやるよ」
「なんだよ。願いって……」
不安がるアオイに、俺は得意になって言った。
「明日、体育ないから、俺がプレゼントしたエロ下着を着てきてくれ。あー、ちゃんと上もだぞ。透けても着るんだぞ」
「へ?」
口を半開きにして呆けるアオイ。
しばらくして、アオイは大笑いする。
「ぷははは。なんだよ、リュウジ。早速、オトコの娘って奴をご所望か?」
「その通り! アオイのエロ可愛いところ、見たいからさ!」
俺は、ウインクしてアオイに合図を送る。
アオイは、笑い過ぎで涙が出てきたのだろう。
目じりに溜まった涙を拭きとった。
そして、俺に人差し指を向けて言った。
「いいぜ。オレは、お前が大好きなオトコの娘だもんな! 思う存分萌えさせてやる!」
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる