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No.2
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「えーと、ここの階段を掃除すればいいんだな?」
校舎と同じレンガが細長い時計塔を形作っている。時計塔の中は明り取りの窓が所々にあるが、湿気がこもっていて陰鬱とした印象だ。これなら幽霊が出る、なんて誰かが騒いでも納得である。俺は箒と塵取りを持って時計塔内の長い螺旋階段をじっと見ていた。教師は会議があると言って行ってしまったし、ここは魔法で適当に掃除でもしておいて時計塔の中でも散策しよう。元からこの中で探し物をするのが狙いだった訳であるし。
俺は箒と塵取りが自動的に掃除をするように魔法をかけた。……この魔法は俺が掃除なんかに時間を食われず、復讐に時間を掛けられるように習得して鍛錬したものだ。俺はこういった復讐に関係のある魔法ならば喜んで学ぶ。
螺旋階段に規則的にある踊り場。そこに扉があるのが見える。何かの部屋なのだろう、まずはそこから調べてみることにした。
よく見ると斜めっている扉に恐る恐る手をかける。軋むような音を立てながら姿を見せたその部屋には、古臭く黄ばんだ資料が山ほどあった。本棚だけで埋め尽くされた部屋には当然のことながら大量の本があり、悪魔の子に関する期待できる情報が見つかる予感がした。
しかし、一つだけ気ががりなことがある。
時計塔は普段なら生徒は立入禁止の場所だ。
にもかかわらず、何処からか俺以外の人の気配を感じるのだ。教師かもしれない。俺は透明になる魔法を小声で唱え、自分にかけた。例え教師が来ようともそう簡単には見つからない、と俺には自信があった。何せ実技は学年1位だし、学院の授業の枠を超えて魔法の鍛錬はしている。
「見つからねぇなー」
本は腐るほどあるのに、収穫は何一つなかった。落胆からか疲労からか身体から力が抜けていく。そのまま本棚に身体を預けると、弾むような不自然な感触が伝わってきた。
……これは何かある。
そんな予感、いや、もはや確信とも呼べた。
本棚を慎重に押しても変化なし。だったら押して駄目なら引いてみろ、だ。
引くことはできた。本棚が隠し扉になっていたのだ。
扉を開けた瞬間、俺は誰かと目が合ってしまった。
「透明になる魔法をかけた悪戯な少年が来たね。元来、時計塔には立入禁止のはずなのだけれど」
そこにはぶ厚い本を読んでいるかなり背丈の小さな少女がいた。こちらを見て悪戯な笑みを浮かべる。俺は身を固くした。少女から目が離せない。
「大丈夫よ。先生には言わないわ。だから姿を見せてくれない? 透明人間さん」
その少女はクスッと笑って俺の目の前に立った。彼女という器から溢れんばかりの魔力を感じる。これは、滅多にお目にかかれないくらい強い魔力の人間の特徴だ。
魔法を使っていることに気がつくだけでなく、透明になってるのに何処にいるかまでバレているのだから。
俺は渋々透明になる魔法を解いた。そしてこの力の強いのであろう少女をじっと見た。
確かに背丈は小学生くらいだが油断ならない。紫色という魔導師の中でも珍しい色をした瞳ははっきりとこちらを捉えている。
その少女はふわふわとした癖っ毛の長い金髪をふわっと揺らしてニコッと笑い、そしてこう話し始めた。
「私はメリー、あなたは?」
「……」
俺が黙っているとメリーという少女は一冊の本を召喚して、何か魔法を使い、じっと読んでから俺を見た。
「あなた、リックって言うのね。ソレスト村出身で、現在はこの学校の寮生。13歳で中学一年生、学校での態度はやっぱり結構問題児なのね。へー……」
メリーという少女は淡々と俺について話し始める。
「ちょっと待て、なんでそれがわかる?」
メリーの言うことは正しかったが、何が起きて今に至ったのか1割も理解できなかった。唐突すぎて展開が飲み込めない。
「今、その人について詳しくわかる魔法の本を召喚したのよ」
「そんな本があるのか? 聞いたことない」
すると彼女は呆れたという風に肩を竦めて見せた。そんなことも知らないのか、とでも言いたげな様子だ。
「あるわ。長い間、この学校が封印してる本の一つよ。今回はこっそり封印を解いて持って来ちゃったけどね」
彼女によると、知りたい相手の髪さえ吸い込めば、その人について知りたいことがなんでもわかる本らしい。そして今は俺の髪をこっそり1本貰って本に吸い込ませたと。
俺は衝撃を受けた。
メリーという少女は俺の知らない間に、俺の髪を取り、吸い込ませ、俺の情報を調べあげたのだから。最もそれを易々と達成させてしまったのは紛れもなく自分自身だが。
「お前……」
「メリーよ。私、リックに興味を持ったわ。ずっとこの時計塔のこの部屋にいて暇だったの。これからも来てくれる?」
俺は迷っていた。彼女には謎が多すぎる。
関わることで情報を集めにくくなる場合も……
俺が悩んでいると彼女は紫色の瞳をじっと俺に向け静かな声でこう続けた。
「悪魔の子を探してるんだってね」
「!!」
「村を燃やした悪魔の子と呼ばれている魔導師を。倒し方なら私が教えてあげる。自分で言うのもなんだけどこう見えても私、結構強いのよ。それなら悪くないでしょ? 来る気にならない?」
正直、かなり悪くない条件だ。
それに彼女ならもしかしたら悪魔の子を探せるかもしれない。
仲良くなって損はないはずだとこの言葉を聞いて感じた。
「ああ、悪くない条件だ。約束さえ守ってくれれば毎日でも来るよ。よろしく、メリー」
俺はそう言って握手を求めた。メリーはそれに頷き、微笑みながら応える。2人の間に力強い握手が交わされた。
ーーこれが俺と謎の少女メリーの出会いだった。
校舎と同じレンガが細長い時計塔を形作っている。時計塔の中は明り取りの窓が所々にあるが、湿気がこもっていて陰鬱とした印象だ。これなら幽霊が出る、なんて誰かが騒いでも納得である。俺は箒と塵取りを持って時計塔内の長い螺旋階段をじっと見ていた。教師は会議があると言って行ってしまったし、ここは魔法で適当に掃除でもしておいて時計塔の中でも散策しよう。元からこの中で探し物をするのが狙いだった訳であるし。
俺は箒と塵取りが自動的に掃除をするように魔法をかけた。……この魔法は俺が掃除なんかに時間を食われず、復讐に時間を掛けられるように習得して鍛錬したものだ。俺はこういった復讐に関係のある魔法ならば喜んで学ぶ。
螺旋階段に規則的にある踊り場。そこに扉があるのが見える。何かの部屋なのだろう、まずはそこから調べてみることにした。
よく見ると斜めっている扉に恐る恐る手をかける。軋むような音を立てながら姿を見せたその部屋には、古臭く黄ばんだ資料が山ほどあった。本棚だけで埋め尽くされた部屋には当然のことながら大量の本があり、悪魔の子に関する期待できる情報が見つかる予感がした。
しかし、一つだけ気ががりなことがある。
時計塔は普段なら生徒は立入禁止の場所だ。
にもかかわらず、何処からか俺以外の人の気配を感じるのだ。教師かもしれない。俺は透明になる魔法を小声で唱え、自分にかけた。例え教師が来ようともそう簡単には見つからない、と俺には自信があった。何せ実技は学年1位だし、学院の授業の枠を超えて魔法の鍛錬はしている。
「見つからねぇなー」
本は腐るほどあるのに、収穫は何一つなかった。落胆からか疲労からか身体から力が抜けていく。そのまま本棚に身体を預けると、弾むような不自然な感触が伝わってきた。
……これは何かある。
そんな予感、いや、もはや確信とも呼べた。
本棚を慎重に押しても変化なし。だったら押して駄目なら引いてみろ、だ。
引くことはできた。本棚が隠し扉になっていたのだ。
扉を開けた瞬間、俺は誰かと目が合ってしまった。
「透明になる魔法をかけた悪戯な少年が来たね。元来、時計塔には立入禁止のはずなのだけれど」
そこにはぶ厚い本を読んでいるかなり背丈の小さな少女がいた。こちらを見て悪戯な笑みを浮かべる。俺は身を固くした。少女から目が離せない。
「大丈夫よ。先生には言わないわ。だから姿を見せてくれない? 透明人間さん」
その少女はクスッと笑って俺の目の前に立った。彼女という器から溢れんばかりの魔力を感じる。これは、滅多にお目にかかれないくらい強い魔力の人間の特徴だ。
魔法を使っていることに気がつくだけでなく、透明になってるのに何処にいるかまでバレているのだから。
俺は渋々透明になる魔法を解いた。そしてこの力の強いのであろう少女をじっと見た。
確かに背丈は小学生くらいだが油断ならない。紫色という魔導師の中でも珍しい色をした瞳ははっきりとこちらを捉えている。
その少女はふわふわとした癖っ毛の長い金髪をふわっと揺らしてニコッと笑い、そしてこう話し始めた。
「私はメリー、あなたは?」
「……」
俺が黙っているとメリーという少女は一冊の本を召喚して、何か魔法を使い、じっと読んでから俺を見た。
「あなた、リックって言うのね。ソレスト村出身で、現在はこの学校の寮生。13歳で中学一年生、学校での態度はやっぱり結構問題児なのね。へー……」
メリーという少女は淡々と俺について話し始める。
「ちょっと待て、なんでそれがわかる?」
メリーの言うことは正しかったが、何が起きて今に至ったのか1割も理解できなかった。唐突すぎて展開が飲み込めない。
「今、その人について詳しくわかる魔法の本を召喚したのよ」
「そんな本があるのか? 聞いたことない」
すると彼女は呆れたという風に肩を竦めて見せた。そんなことも知らないのか、とでも言いたげな様子だ。
「あるわ。長い間、この学校が封印してる本の一つよ。今回はこっそり封印を解いて持って来ちゃったけどね」
彼女によると、知りたい相手の髪さえ吸い込めば、その人について知りたいことがなんでもわかる本らしい。そして今は俺の髪をこっそり1本貰って本に吸い込ませたと。
俺は衝撃を受けた。
メリーという少女は俺の知らない間に、俺の髪を取り、吸い込ませ、俺の情報を調べあげたのだから。最もそれを易々と達成させてしまったのは紛れもなく自分自身だが。
「お前……」
「メリーよ。私、リックに興味を持ったわ。ずっとこの時計塔のこの部屋にいて暇だったの。これからも来てくれる?」
俺は迷っていた。彼女には謎が多すぎる。
関わることで情報を集めにくくなる場合も……
俺が悩んでいると彼女は紫色の瞳をじっと俺に向け静かな声でこう続けた。
「悪魔の子を探してるんだってね」
「!!」
「村を燃やした悪魔の子と呼ばれている魔導師を。倒し方なら私が教えてあげる。自分で言うのもなんだけどこう見えても私、結構強いのよ。それなら悪くないでしょ? 来る気にならない?」
正直、かなり悪くない条件だ。
それに彼女ならもしかしたら悪魔の子を探せるかもしれない。
仲良くなって損はないはずだとこの言葉を聞いて感じた。
「ああ、悪くない条件だ。約束さえ守ってくれれば毎日でも来るよ。よろしく、メリー」
俺はそう言って握手を求めた。メリーはそれに頷き、微笑みながら応える。2人の間に力強い握手が交わされた。
ーーこれが俺と謎の少女メリーの出会いだった。
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