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NO.7
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「リック、テストお疲れ様。今回は特別なお菓子を用意したよ」
いつも通り……既に『いつも通り』と呼べるようになる位には通い詰めた時計塔のメリーの部屋に入ると、彼女はベットに座って微笑んでいた。その瞳は言外に俺が来るのが嬉しくて仕方がない、と告げているように見えた。俺がメリーに会いたいと思ったように彼女もそう思ってくれているのか。けれど同時に困惑もあった。二つの感情は俺の頭の中の大鍋で煮込まれてぐちゃぐちゃに溶けていく。
彼女は不思議そうな顔をして、俺を椅子に座らせた。
「頑張ってたね、テスト。ずっと魔法で見ていたわよ」
「魔法で見られるのか!?」
あれ、メリーに見られてたのか……
恥ずかしい……
「うん、洗面所で水をはってリックの様子をずっと見てた。問題児のかけらもなかったわね」
そう言ってメリーはくすりと笑って見せた。
その顔を見ると、既に赤い気がする俺の顔が更に赤くなっていくのを自覚して彼女から目を逸らした。
「まあ、そんな訳で。リックが問題児の欠片も無かったからそろそろ魔法を教えてもいい気がするのよね」
「教えてくれるのか?」
自分の口から驚きを多分に含んだ間抜けな声が発されていた。80点以上でテストが返ってきたのを確認してから初めて魔法を教えてもらえると思っていたから。
「うん、でもまずはここで教えると魔法が飛び交ってまずいから異空間を作ろうと思うのね。異空間を作る魔法は知ってる?」
「いや、知らん」
「じゃあそこからね。まず……」
そう言ってメリーは立て板に水のように話し始めた。その説明は速いのに俺の頭にすんなりと入っていく。リエルや教科書や教師よりもずっと分かりやすいと思った。
メリーが俺の理解の仕方の特徴を掴んでいるとか? ……なんて、冗談はさておき。
お陰で異空間の魔法は難しいらしいが、イメージはすぐに理解できた。
「そうね……説明だけでもあれだし、私が見本を見せるわ」
メリーの紫色の瞳にハート型の小さな紋章が浮かび、魔力が膨れ上がっていくのが肌で感じられた。手には光が集まり、そこから辺りを包み込むように光のヴェールを纏わせている。彼女の身長には見合わない神秘的な雰囲気。
「――ック……リック?」
どこか遠くの方から聞こえたような声にハッと我にかえる。
「あ、ああ」
「ざっと、こんなものなのだけれど……見てた?」
小さくて真っ白な球体を手のひらに浮かべてメリーは小首を傾げながらそう聞いてくる。どうやらその球体が異空間のようだ。
「見てました」
神秘的なメリーに釘付けだったが……。
「じゃあ作ってみて」
「わかった。えーと」
俺は先程メリーに教わった通り、輪を広げるような感じと異空間の景色を想像して作ろうと試みた。
するといい感じに小さいが何もない空間が広がる球体ができた。
「初めての割には上手いわよ。リック」
「そ、そうか?」
メリーはにこりと可愛らしく笑って褒めてくれた。それも嬉しかったけれど、これはメリーの説明が上手かったから出来たのであり、何だか彼女と2人で作り上げた感じがすると言うか、なんと言うか。そっちの方が嬉しかった。
ふわついた気分もそう長くは続かない。メリーは異空間の使い方を説明し始めていた。
曰く、慣れてくると自分が作った異空間に相手を連れ込み自分に有利にできたりもするし、普通の人間に魔法で戦ってる姿も見られなくなり安全性が増す、と。
「なるほどな」
異空間は自分で勝手に作れるから相手側にとって不利な戦いに持ち込めるのか。
魔法はやっぱ使えるだけじゃなくて、より良い使い方も勉強しなきゃダメだ、改めてそう感じた瞬間だった。こんな考え方メリーと会う前はできなかった。
彼女は話し続けた。
「そういえばリックが探してる悪魔の子についての考察なんだけど、リックの記憶を見た感じ的に火属性使いなのね」
またいつの間にか髪を採取していたのか、初めてメリーと会った時に彼女が使っていた封印指定の本を捲っていた。
「なんでそれがわかるんだ?」
勉強と鍛錬を積み重ねれば何の属性でも使える。 "〇〇属性使い" と呼ぶのはその人がその属性に抜きん出ている時、そう習ったはずだった。
「『村を燃やした』ってところよ。多分魔法で燃やしたんだと思う。村全体を燃やせる力でね。それができる程火属性に精通してるってことは、火属性使いであることは濃厚だわ」
「なるほど……言われてみれば俺の村にいた人達は火事になったら皆で必死に消していたから、村全体が燃えたことはなかったな」
ということは悪魔の子は一気に燃やしたと言うことになるのか。
「それで "悪魔の子" って呼ばれてるってことは悪魔と契約した子なんだと思うの。悪魔と契約すると死んだ時に魂を喰われる代わりに強い力を手にできるから」
「……じゃあそいつは!」
そいつは……悪魔の子は、悪魔と契約して手にした力で、俺の故郷を、ソレスト村を――
「おそらく火属性の強い悪魔と契約をかわしている火属性が得意な魔導師ね」
そうなると、火属性に有利な水属性を重点的に勉強する必要が出てくる。
「あと悪魔は大体闇属性が得意だから、対抗して光属性も強くならなきゃだめね」
復讐。それを遂げるための道が俺の前に近づいてくる。
メリーは異空間を消してから部屋を出て行った。途端に俺と静寂しか居なくなる。 "悪魔の子" に絶対復讐してみせる、という今まで俺を動かしてきた炎が燃える音が響いていった。
暫くすると、俺の元に大量の本が飛んできた。本は机の上に丁寧に着地していって俺の眼前に山を作る。それから遅れてメリーが戻ってきた。
「これは?」
そう聞かずにはいられなかった。何せ座っているとはいえ、俺の頭の高さを超えるだけの本の山なのだ。
「リックがこれから勉強するものかな。少し量は多いけどね」
メリーは悪戯な笑みを浮かべる……この子は本当に笑顔が多い。
「ちょっとじゃないでしょ!? こんな分厚いの何冊も」
「 "悪魔の子" に復讐したいんでしょう? 別に今すぐじゃなくてもいいの。これを一年くらいかけて完璧にできればかなり上等よ」
「はいはい、わっかりましたー」
そんな顔されたら勝てないじゃないか。
結局俺は、不思議な君にすっかり魅了されてしまったみたいだから――
いつも通り……既に『いつも通り』と呼べるようになる位には通い詰めた時計塔のメリーの部屋に入ると、彼女はベットに座って微笑んでいた。その瞳は言外に俺が来るのが嬉しくて仕方がない、と告げているように見えた。俺がメリーに会いたいと思ったように彼女もそう思ってくれているのか。けれど同時に困惑もあった。二つの感情は俺の頭の中の大鍋で煮込まれてぐちゃぐちゃに溶けていく。
彼女は不思議そうな顔をして、俺を椅子に座らせた。
「頑張ってたね、テスト。ずっと魔法で見ていたわよ」
「魔法で見られるのか!?」
あれ、メリーに見られてたのか……
恥ずかしい……
「うん、洗面所で水をはってリックの様子をずっと見てた。問題児のかけらもなかったわね」
そう言ってメリーはくすりと笑って見せた。
その顔を見ると、既に赤い気がする俺の顔が更に赤くなっていくのを自覚して彼女から目を逸らした。
「まあ、そんな訳で。リックが問題児の欠片も無かったからそろそろ魔法を教えてもいい気がするのよね」
「教えてくれるのか?」
自分の口から驚きを多分に含んだ間抜けな声が発されていた。80点以上でテストが返ってきたのを確認してから初めて魔法を教えてもらえると思っていたから。
「うん、でもまずはここで教えると魔法が飛び交ってまずいから異空間を作ろうと思うのね。異空間を作る魔法は知ってる?」
「いや、知らん」
「じゃあそこからね。まず……」
そう言ってメリーは立て板に水のように話し始めた。その説明は速いのに俺の頭にすんなりと入っていく。リエルや教科書や教師よりもずっと分かりやすいと思った。
メリーが俺の理解の仕方の特徴を掴んでいるとか? ……なんて、冗談はさておき。
お陰で異空間の魔法は難しいらしいが、イメージはすぐに理解できた。
「そうね……説明だけでもあれだし、私が見本を見せるわ」
メリーの紫色の瞳にハート型の小さな紋章が浮かび、魔力が膨れ上がっていくのが肌で感じられた。手には光が集まり、そこから辺りを包み込むように光のヴェールを纏わせている。彼女の身長には見合わない神秘的な雰囲気。
「――ック……リック?」
どこか遠くの方から聞こえたような声にハッと我にかえる。
「あ、ああ」
「ざっと、こんなものなのだけれど……見てた?」
小さくて真っ白な球体を手のひらに浮かべてメリーは小首を傾げながらそう聞いてくる。どうやらその球体が異空間のようだ。
「見てました」
神秘的なメリーに釘付けだったが……。
「じゃあ作ってみて」
「わかった。えーと」
俺は先程メリーに教わった通り、輪を広げるような感じと異空間の景色を想像して作ろうと試みた。
するといい感じに小さいが何もない空間が広がる球体ができた。
「初めての割には上手いわよ。リック」
「そ、そうか?」
メリーはにこりと可愛らしく笑って褒めてくれた。それも嬉しかったけれど、これはメリーの説明が上手かったから出来たのであり、何だか彼女と2人で作り上げた感じがすると言うか、なんと言うか。そっちの方が嬉しかった。
ふわついた気分もそう長くは続かない。メリーは異空間の使い方を説明し始めていた。
曰く、慣れてくると自分が作った異空間に相手を連れ込み自分に有利にできたりもするし、普通の人間に魔法で戦ってる姿も見られなくなり安全性が増す、と。
「なるほどな」
異空間は自分で勝手に作れるから相手側にとって不利な戦いに持ち込めるのか。
魔法はやっぱ使えるだけじゃなくて、より良い使い方も勉強しなきゃダメだ、改めてそう感じた瞬間だった。こんな考え方メリーと会う前はできなかった。
彼女は話し続けた。
「そういえばリックが探してる悪魔の子についての考察なんだけど、リックの記憶を見た感じ的に火属性使いなのね」
またいつの間にか髪を採取していたのか、初めてメリーと会った時に彼女が使っていた封印指定の本を捲っていた。
「なんでそれがわかるんだ?」
勉強と鍛錬を積み重ねれば何の属性でも使える。 "〇〇属性使い" と呼ぶのはその人がその属性に抜きん出ている時、そう習ったはずだった。
「『村を燃やした』ってところよ。多分魔法で燃やしたんだと思う。村全体を燃やせる力でね。それができる程火属性に精通してるってことは、火属性使いであることは濃厚だわ」
「なるほど……言われてみれば俺の村にいた人達は火事になったら皆で必死に消していたから、村全体が燃えたことはなかったな」
ということは悪魔の子は一気に燃やしたと言うことになるのか。
「それで "悪魔の子" って呼ばれてるってことは悪魔と契約した子なんだと思うの。悪魔と契約すると死んだ時に魂を喰われる代わりに強い力を手にできるから」
「……じゃあそいつは!」
そいつは……悪魔の子は、悪魔と契約して手にした力で、俺の故郷を、ソレスト村を――
「おそらく火属性の強い悪魔と契約をかわしている火属性が得意な魔導師ね」
そうなると、火属性に有利な水属性を重点的に勉強する必要が出てくる。
「あと悪魔は大体闇属性が得意だから、対抗して光属性も強くならなきゃだめね」
復讐。それを遂げるための道が俺の前に近づいてくる。
メリーは異空間を消してから部屋を出て行った。途端に俺と静寂しか居なくなる。 "悪魔の子" に絶対復讐してみせる、という今まで俺を動かしてきた炎が燃える音が響いていった。
暫くすると、俺の元に大量の本が飛んできた。本は机の上に丁寧に着地していって俺の眼前に山を作る。それから遅れてメリーが戻ってきた。
「これは?」
そう聞かずにはいられなかった。何せ座っているとはいえ、俺の頭の高さを超えるだけの本の山なのだ。
「リックがこれから勉強するものかな。少し量は多いけどね」
メリーは悪戯な笑みを浮かべる……この子は本当に笑顔が多い。
「ちょっとじゃないでしょ!? こんな分厚いの何冊も」
「 "悪魔の子" に復讐したいんでしょう? 別に今すぐじゃなくてもいいの。これを一年くらいかけて完璧にできればかなり上等よ」
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