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NO.9
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「なあ、リック。正直に答えてくれ」
テストが終わってからも俺は時計塔へ通い続けていた。メリーに会いたい一心で、ほぼ毎日のように。
上記の言葉を聞いたのは、2年生に進級して間もないある日の放課後だ。
「何を?」
重々しいジレットの声は至って真剣なのだが、俺も真剣に何の質問なのかが掴めなかった。ジレットが俺の肩を壁に押し付ける。彼の眼光に、俺は蛇に睨まれた卯のように動けなかった……というより動かない方がいいと思った。壁に押し付けられた俺の頭の近くには、彼の右腕が突きつけられている。
いわゆる壁ドン状態だ。
ジレットの余りにも近すぎる顔は直視できないし、逃げ場もない。仕方なくどこに視線を置こうかと目を泳がせることになった。彼の後ろにはリエルとミーシャもいる。
目の前のジレットが大きく息を吸う音を嫌というほど意識した。
「お前、もしかして彼女できた?」
彼は冗談の欠片もなさそうに俺の目を見つめた。人と人が接近しているのだから熱気を感じてもいいのに、逆に寒気を感じている自分がいる。
これは……はぐらかせない。
ただ、時計塔のことはメリーに口止めされてるから言えないのだ。
「え、えっと……その……」
彼は視線を後ろにやる。それにつられる。見ればリエルとミーシャの2人が、石像のようにじっとこちらを見つめていた。
俺はどうしたらいいのだろうか。
それが分からない。
メリーは彼女ではないのだ。
でも彼女のことは気になっている。
つまり――好きなんだ。
「好きな人……なら……」
俺は顔が熱くなっていくのを自覚しながら言った。3人の内の誰の顔も見ていられなかった。俺は今、茹でたタコのようになっているに違いない。気がつけば下を向いていたのをまた泳がせ始めると、三者三様ながら驚きが見て取れた。
「じゃあ最近付き合いが悪いのは……そいつに会うためか?」
ジレットが少しトーンの上がった声で、壁ドンの姿勢を崩さないまま俺に聞いてきた。後ろの2人は、ハラハラした様子でこちらを見ている。
俺は頷くしかなかった。
俺が頷くとジレットは俺を壁ドンから解放した。
「そうか! リックにも好きなやつができたんだな! 良かったじゃないか」
俺の肩を叩いて嬉しそうに言った。一方後ろでは、俯いたリエルにミーシャが何か言っているようだった。
「何が『良かったじゃないか』よ。あんた目的忘れているわね」
「あ」
ジレットの間抜けな声が変に浮く。
「目的?」
聞き返した俺の声も変に浮いた。
何なんだろう。俺に彼女の有無を聞くのが本当の目的ではないようだけど……。ジレットと俺のやり取りは空気に合わなかった。ハッピーエンド感のあった空気がどこかに消えていく。
「そうよ。どうして言ってくれなかったの? ……このことを」
ミーシャは静かに聞いてきたが、言葉の端々から棘が見え隠れしていた。俺はどう返そうかさっき以上に考えた。メリーのことはどうしても言えない。だからどうにか誤魔化さないと、とも思ったけれど言い訳が出てこない。
言い訳でもなく、メリーに触れることもない答え。それは――
「そ……それは、3人はいつも昼一緒だし、仲良しだから、言わなくても大丈夫だと……」
俺は、言外の圧力に気圧されながらも正直なことを言った。ミーシャも納得してくれると思っていた。……でもこれを言った瞬間に彼女の目がつり上がったのを見て、余計に怒らせたことを悟った。何が悪かったのかは、よく分からない。
彼女は噛み付くようにこう言った。
「ふざけないで! 好きな人ができた? それには何も言わないわ。でも」
「ミーシャ……待って……」
リエルが震える声で止めようとしても、止まらなかった。リエルは優しいからこの手の場面には弱い。もう泣きそうじゃないか。
「ちょっと待て、一体どういう流れなんだよ……」
そんな訳で俺はミーシャを落ち着かせようとしたのだ。
「あんたねぇ……っ!」
「だから落ち着けよ、何で急に怒り出すんだよ」
「逆にどうして分からないの? リックは私達のこと、何も理解しようとしてないじゃない!」
その言葉に、何かが切れた……気がした。
「意味わからねぇよ! 女子はそうやって勝手に感情的になって、説明しようともしないからな!」
気がつけば怒鳴り返している自分がいる。
「はあ!? 『勝手に』って何? 私を怒らせたのはリックじゃない!」
「俺は質問に答えてから質問した! 何の文句があるんだよ!」
「あるわ!」
ミーシャがずかずかと俺の前まで歩いてくる。
「どんどん付き合いが悪くなっていって、本当は私達と一緒に居たくないんじゃないかって! そう感じたのよ! ……リエルが、どんな気持ちでいたかリックに想像できる!?」
「――!」
この時ようやく気がついたのだ。
……俺は大変な勘違いをしていたのだと。
テストが終わってからも俺は時計塔へ通い続けていた。メリーに会いたい一心で、ほぼ毎日のように。
上記の言葉を聞いたのは、2年生に進級して間もないある日の放課後だ。
「何を?」
重々しいジレットの声は至って真剣なのだが、俺も真剣に何の質問なのかが掴めなかった。ジレットが俺の肩を壁に押し付ける。彼の眼光に、俺は蛇に睨まれた卯のように動けなかった……というより動かない方がいいと思った。壁に押し付けられた俺の頭の近くには、彼の右腕が突きつけられている。
いわゆる壁ドン状態だ。
ジレットの余りにも近すぎる顔は直視できないし、逃げ場もない。仕方なくどこに視線を置こうかと目を泳がせることになった。彼の後ろにはリエルとミーシャもいる。
目の前のジレットが大きく息を吸う音を嫌というほど意識した。
「お前、もしかして彼女できた?」
彼は冗談の欠片もなさそうに俺の目を見つめた。人と人が接近しているのだから熱気を感じてもいいのに、逆に寒気を感じている自分がいる。
これは……はぐらかせない。
ただ、時計塔のことはメリーに口止めされてるから言えないのだ。
「え、えっと……その……」
彼は視線を後ろにやる。それにつられる。見ればリエルとミーシャの2人が、石像のようにじっとこちらを見つめていた。
俺はどうしたらいいのだろうか。
それが分からない。
メリーは彼女ではないのだ。
でも彼女のことは気になっている。
つまり――好きなんだ。
「好きな人……なら……」
俺は顔が熱くなっていくのを自覚しながら言った。3人の内の誰の顔も見ていられなかった。俺は今、茹でたタコのようになっているに違いない。気がつけば下を向いていたのをまた泳がせ始めると、三者三様ながら驚きが見て取れた。
「じゃあ最近付き合いが悪いのは……そいつに会うためか?」
ジレットが少しトーンの上がった声で、壁ドンの姿勢を崩さないまま俺に聞いてきた。後ろの2人は、ハラハラした様子でこちらを見ている。
俺は頷くしかなかった。
俺が頷くとジレットは俺を壁ドンから解放した。
「そうか! リックにも好きなやつができたんだな! 良かったじゃないか」
俺の肩を叩いて嬉しそうに言った。一方後ろでは、俯いたリエルにミーシャが何か言っているようだった。
「何が『良かったじゃないか』よ。あんた目的忘れているわね」
「あ」
ジレットの間抜けな声が変に浮く。
「目的?」
聞き返した俺の声も変に浮いた。
何なんだろう。俺に彼女の有無を聞くのが本当の目的ではないようだけど……。ジレットと俺のやり取りは空気に合わなかった。ハッピーエンド感のあった空気がどこかに消えていく。
「そうよ。どうして言ってくれなかったの? ……このことを」
ミーシャは静かに聞いてきたが、言葉の端々から棘が見え隠れしていた。俺はどう返そうかさっき以上に考えた。メリーのことはどうしても言えない。だからどうにか誤魔化さないと、とも思ったけれど言い訳が出てこない。
言い訳でもなく、メリーに触れることもない答え。それは――
「そ……それは、3人はいつも昼一緒だし、仲良しだから、言わなくても大丈夫だと……」
俺は、言外の圧力に気圧されながらも正直なことを言った。ミーシャも納得してくれると思っていた。……でもこれを言った瞬間に彼女の目がつり上がったのを見て、余計に怒らせたことを悟った。何が悪かったのかは、よく分からない。
彼女は噛み付くようにこう言った。
「ふざけないで! 好きな人ができた? それには何も言わないわ。でも」
「ミーシャ……待って……」
リエルが震える声で止めようとしても、止まらなかった。リエルは優しいからこの手の場面には弱い。もう泣きそうじゃないか。
「ちょっと待て、一体どういう流れなんだよ……」
そんな訳で俺はミーシャを落ち着かせようとしたのだ。
「あんたねぇ……っ!」
「だから落ち着けよ、何で急に怒り出すんだよ」
「逆にどうして分からないの? リックは私達のこと、何も理解しようとしてないじゃない!」
その言葉に、何かが切れた……気がした。
「意味わからねぇよ! 女子はそうやって勝手に感情的になって、説明しようともしないからな!」
気がつけば怒鳴り返している自分がいる。
「はあ!? 『勝手に』って何? 私を怒らせたのはリックじゃない!」
「俺は質問に答えてから質問した! 何の文句があるんだよ!」
「あるわ!」
ミーシャがずかずかと俺の前まで歩いてくる。
「どんどん付き合いが悪くなっていって、本当は私達と一緒に居たくないんじゃないかって! そう感じたのよ! ……リエルが、どんな気持ちでいたかリックに想像できる!?」
「――!」
この時ようやく気がついたのだ。
……俺は大変な勘違いをしていたのだと。
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