(異)世(界)にも奇妙な物語 ~ロール・プレイング・ミステリー・オムニバス~

あめの みかな

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賢者は世界の形を知る ルート分岐・勇者解放

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盲信者たちは私に襲いかかってきた。
玩具のナイフにすり替えられていることにも気づかずに。
彼らは、私が直接手を下すような相手ではなかった。
だが、五体満足で帰らせてやるのも癪に触る。
私は、彼ら全員を世界の形と同じように繋ぎ合わせてやることにした。
道端にでも捨ててやるか。
私の仕業だと口を割らないよう、口も縫い付けてやらなければならない。
それは少々面倒だ。いっそ、私に関する記憶だけを消してしまうか。
いや、石化させてしまうのはどうだろうか。
石にしてしまえば、彫刻品にしか見えないのではないか。

そんなことを考えながら玩具のナイフによる攻撃を避けているうちに、彼らにはちょうど良い使い道があることに気づいた。
私はずっと、彼らのような存在を探していたのだ。

彼らを勇者様の姿に変えてやるのだ。

その魔法は本来、自分の姿を仲間のものに変え、その能力までも自分のものとする魔法だった。
だが、私は他人の姿をも変えることができた。
他人に対して使う場合、能力まで変えることはできなかったが、だからこそちょうど良かった。

「君たちには残りの人生を牢屋の中で過ごしてもらおう。
ここで、私の魔法で火炙りになるよりはまだマシだろ?」

そう言い終わる頃には、私は彼らと城の地下牢にいた。
看守に見られては困るため、転移魔法と同時に時の流れも止めていた。
空間転移や時間停止の魔法を使うのは久しぶりのことだった。

「久しぶりだね、魔法使い。あれ? 今は賢者様だったかな」

勇者様は突然目の前に現れた私を見ても、驚くこともなく懐かしそうにそう言って笑った。
何故か昔から彼にだけは私の時止めの魔法は通じなかった。理由を訊いたこともあったが、勇者だからじゃない? と何の説明にもならない答えが返ってきたので、深くは考えないことにしていた。魔王にも効かなかった。

時止めには制限時間があった。私の体感時間として3分ほどが限度だ。
私が看守の存在を気にしていると、誰もいないよ、と彼は教えてくれた。
もう夕刻だ。看守が食事休憩をとってもおかしくない時間だが、牢から離れるのであれば代わりの者を用意するはずだったから不思議だった。

勇者様は、満足な食事も与えられていなかったのか、手足に枷を付けられ壁に磔にされたその身体はすっかり痩せ細っていた。髪や髭は伸びに伸び、精霊たちが編んだという聖なる衣は汚れに汚れていた。声を聞かなければ勇者様だとすぐには気づけなかったかもしれない。
幽閉されたと聞いていたから、自由こそないが、それなりの暮らしをしていると思っていた。
だが、これではまるで罪人だ。
これが魔王討伐を果たし、世界を救った者の末路かと思うと胸が痛んだ。見ていられなかった。

「君がいつ僕を助けに来てくれるのか、ずっと待っていたんだよ」

きっとあの旅よりも辛く苦しい日々をここでひとりで過ごしていたに違いなかった。

「ちょっと遅いよね。さすがに十年は長すぎるんじゃないかな」

だが、彼はそれを感じさせないような口調で以前と同じように私に軽口を叩いた。
それが、勇者様という人だった。

「まだ1年も経っていませんよ」

だから、私もそう返す。

「そうだっけ?」
「そうです。あなたを脱獄させることくらい、この通り簡単です。
ですが、あなたが脱獄したとなればいささか面倒なことになりますから」
「確かにね。どうやら僕は、魔王に代わる世界の新たな脅威らしいから」

私の力を借りずとも、勇者様お一人でも枷を外し、看守を魔法で倒し、牢の鍵を奪って脱獄することは容易かったはずだった。
そうしなかったのは、ご自分が世界の新たな脅威となってしまったという事実を勇者様は受け入れていたのかもしれない。
平和になった時代を生きる人々に余計な不安を与えたくなかったということもあるだろう。
私は余計なことをしてしまったのかもしれなかった。
しかし、私が同じ立場なら、きっととっくに闇に堕ちていた。地下牢を破壊し、看守を殺し、城の兵達だけでなく、女や子どもも王族も等しく皆殺しにしていただろう。

「あなたの身代わりを務めるのにちょうどいい人間を探すのは、なかなか大変だったんですよ」

ちょうどいい人間というのは、背格好が同じという意味ではなかった。そんなものは魔法でどうにでもできる。
勇者様の身代わりとなる者は、何の罪も犯していない者ではいけないし、かといって罪を犯した者であれば誰でもいいというわけではなかった。
罪人はその罪の重さに見合った裁きを受けなければならない。
この国では、大抵の罪は死罪となる。
処刑は一般公開されており、犯罪抑止のためとされているが、国民にとっては数少ない娯楽のひとつ、ショーとして楽しまれていた。
犯罪者を勇者様の身代わりにすることは、被害者やその家族のことを考えると私には出来なかった。処刑されなくなってしまうからだ。
しかし、被害者が私の場合は別だ。この者たちは私を殺そうとした。殺人未遂は十分に死罪に値する罪であり、被害者である私は死罪ではなく彼らの終身刑を望んでいる。
彼ら以上に勇者様の代わりを務めるのにふさわしい人間はいないのだ。

牢には看守だけではなく他の囚人も今はいないという。
数日前に行われた公開処刑により、牢の囚人たちは彼以外誰もいなくなってしまったということだった。
牢は6部屋しかなく、そのうちのひとつはもはや勇者様専用となっているため、五人の囚人で牢は満室となる。
勇者様によれば、満室になると公開処刑が行われるようになっているらしく、どうりで公開処刑の日取りに規則性がなかったわけだと思った。

「それで僕の姿をした人達が一緒なんだね。そんなに何人もいらないと思うけど」

すでに彼らの姿は変えてあった。
魔法で眠らせていたが、全員が自分こそが勇者であると思い込むようにもしていた。

「たくさんいた方が面白いと思ったんですよ」

私は勇者様の手足の枷を外すことはせず、盲信者のうちのひとりと勇者様の居場所だけを魔法でただ入れ換えた。

「君らしいね。そういうところ、僕は嫌いじゃないよ」

枷から外れた勇者様は手首についた傷痕を舐めながら私に言った。
魔力が尽きるまでは、ずっと回復魔法をかけ続けていたそうだが、あまり長くは続かなかったらしい。

私は勇者様に回復魔法をかけると、他の者たちもそれぞれ別の牢に移動させた。
盲信者は6人いたため、牢は6部屋共勇者様の偽者だらけになった。

「僕がいっぱいだ! 本当に面白いな! さすがは賢者だ!! なっ!?」

屈託なくはしゃぐ勇者様を見ていると、共に旅をした数年間の記憶が鮮明に甦ってきた。

私が魔法を解かない限り、盲信者たちは勇者様の姿であり続け、自分こそが本物の勇者だと訴え続けることになる。
6人のうちの誰かひとりは本物なのかもしれないし、本物がいるかどうかも、私と勇者様以外にはわからないだろう。

満室になれば公開処刑というのが、この牢のルールだ。
この状況でも、国は勇者様の姿をした者を五人処刑するのだろうか。

「君、今、すごい悪い顔してるよ」

勇者様が私の顔を見ることなく言った。
顔など見なくとも私の考えていることくらいわかるのだろう。

「生まれつきですよ」

と私は返し、勇者様の肩に手を置いた。
転移魔法の行き先をどこにしようか考えながら。

「君は怒らせると魔王より怖いからね」

その言葉を聞いた私は、勇者様と魔王城に住むことに決めた。
それが、世界の新たな脅威としてのあるべき姿だと考えたのだ。

いずれ、次世代の勇者とその仲間達が、私達を倒しにやってくるだろう。
私達を倒せば、自分達が世界の新たな脅威となることも知らずに。

その負の連鎖を止めるためには、私達が魔王とその眷属として世界に君臨し続ける必要があった。

私の時止めの魔法が、勇者様だけでなく魔王にも効かなかったのは、魔王の正体は……

いや、そこまで親切に後世に書き残すまでもないだろう。







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